60話 迷宮攻略
「どうして…迷宮に行きたいの?」
と尋ねると、エナフィは顔を俯かせて、静かにぽつりぽつりと理由を話し始めた。
「私の母は、昔から体が弱かったんですけど…私を産んだせいで体調を崩してしまって…それで、母さんをどうにかしたいと思って、迷宮の最下層にある伝説のオールヒールという薬で治せないかなって…」
と語るエナフィの言葉に嘘はないように感じれたし、なによりも誰かを思いやって自ら危険を冒そうとするその姿勢はどことなく尊敬を覚えた。
ここまできて、美少女に頼まれ断るようなら男ではない!
「わかった。でも危ないと思ったら俺を置いてでも逃げてくれ。それだけは約束だ」
「わかりました!」
と元気良くエナフィは答える。
「じゃあ、明日からいくつもりだから、今日はしっかり眠るように」
と注意すると、エナフィは敬礼しながら答える。
「わかりました!リーダー!」
敬礼している姿はなんだかとても可愛らしかった。そして、その後はエナフィは明日のために自室に戻っていった。
そして改めて後ろを見ると、シィリスがすでに寝息を立ていたので、微笑みながらそっと頭を撫でて俺も眠りにつくのだった。
翌日。
待ちに待った迷宮攻略の日がやってきた。
なんだかんだあったが、やっとこれで目標であった迷宮を潜ることができる。そう思うと、ちょっぴりワクワクとちょっぴりの不安が入り混じっている。
一応エナフィはローブを目深くまでかぶっていてばれないようにしている。最初エナフィは置いていくという作戦もあったが、実は彼女はエルフという種族の特性から、魔力の探知や危機察知に長けているので、斥侯職としては欲しい人材だったのだ。
まずは迷宮に向う前にギルドに向う。迷宮は潜るさいにまずギルドに迷宮に潜ることの申請をしないといけないのだ。そして申請を受けた後は、迷宮の門番にそれを見せて通してもらうというものだ。
こういうシステムが出来た理由に勝手に入って犠牲が出ても困るし、何人か入って帰ってこなかったときは確認がしやすいからだ。
そして無事申請を終えて、俺達は迷宮へと足を向ける。
迷宮の門番に申請書を見せると、多少怪しまれたが、ギルドカードを見せることで納得してくれたようで通してくれた。
中は薄暗くて、あちこちに生えている苔みたいなものが怪しく迷宮内を照らし出している。
一応エナフィが地図を片手にマッピングしていく。ちなみに、エルフという種族は方向感覚にも優れているらしい。森の中にある集落に帰れるだけの感覚があるのだから、やはり凄いというものだ。
さすがエルフ。チートだな。
俺達はぐんぐん進んでいくと、迷宮内で初めて出会った魔物はゴブリンだった。ボブゴブリンが3匹。どれもショートソードを装備しているが、俺の敵ではないのだ。
「俺が行く。シィリスはエナフィの援護」
「了解ですマスター!」
俺はすばやく懐に入り込むと、たてつづけに3匹を切り落とした。そしてゴブリンが息絶えると、不思議なことにゴブリンが黒い霧となって霧散したのだ。
残ったのはショートソードと、火の魔法石と風の魔法石が落ちていた。
この現象に驚きつつもあることを思い出したのだ。確か迷宮とは一種の魔物で、その中で死ぬと人間や魔物であろうと迷宮に吸収されるのだ。そして迷宮のいたるところでは、魔力が貯まって魔法石や魔力を帯びた武器が作られる。
そう言う話を確か遺跡で読んだことがあることを思い出したのだ。
ショートソードは状態も粗悪で使い物にならないようなものだったので、放置して魔法石を拾って、シィリスたちの下に戻った。
その後の探索も問題なく続き、2階へと降りる階段を見つけた。
2層目のモンスターはボブゴブリンだったが、数が3匹や5匹から更に増えて8匹まで群がって行動するようになっていた。
そのうち挟撃を喰らうこともしばしば、数が増えただけなのに、ここまで厄介になるとは想定外であった。
そして2層目は一応クリアしたが、3層目からはオークがちらほら現れるようになっていた。まだ1匹やそこらだが、図体も大きいし、腕力も強いので増えてくるとすこしばかり厄介になってくる。
ちなみにボス部屋は5層ごとに存在するらしいので、あと2層したじゃないと挑めないみたいだ。
そして、3層目もクリアしてくると、今度はオークの割合が増えてきたのだ。まぁそれでも数は3体とかそんなだったのであっさりと撃破はできたのだが、シィリスに関しては最早、手が付けられなかった。
がんばろうとするあまり、魔力の使いすぎでなおかつオーバーキルだった。オークを風の中級魔法でミンチにしたりと、なかなかすごい光景だった。
「よし、じゃあひとまず休憩して、終わったらボスに挑むか」
俺はそう言って3人とも休憩タイムに入る。
一応他から邪魔が入らないように土魔法で部屋を作ったのだ。
水分補給をしながら、剣の手入れや集めた魔法石のチェックと始めての戦闘であろうエナフィの様子を注意深く見る。
すこし疲れの色が見えるが、まだ行けそうだと判断して俺はボス部屋に突入することを決めた。
ボス部屋に入ると、ずしんと音がするので奥に居るものに目を凝らすと、レッドオーガだった。
レッドオーガの周りには多くのオークが取り囲んでいて、守っているようだった。そしてレッドオーガが一際大きな咆哮を上げると、その取り巻きだったオークがこちらに向けて突進してきた。
「シィリスはエナフィの護衛!俺が先にレッドオーガを倒してくる!」
「はいマスター!」
「がんばってください!フリードさん!」
俺2人に応援されながら、道を切り開くために、いくつかの氷の剣を作り出してオークの群れを切り刻んだ。
そして、群れに出来た穴を通って、俺はレッドオーガに向って地面を蹴って懐に飛び込む。
シィリスたちにはオークたちが数十匹向ったが、対処できない範囲ではないと判断して、即座にこっちを選んだ。
レッドオーガの大剣の一撃をかわしながら、レッドオーガに傷を刻んでいくが、さすがはレッドオーガで皮膚も硬く、奥まで刃が届かなかった。
ならばと俺は剣に魔力を込める。
レッドオーガの大振りの一撃を避けると同時に股下にもぐりこんでレッドオーガの両足の腱を切り裂いた。
すると、力が抜けたように膝を突いたので、俺は後ろからレッドオーガの首を切り落とした。
誤字脱字等ありましたら・・・・げほっ




