10話
俺は傷は癒えたが痛みが残っているのでまだ歩けないシャーリーを背負って、森を歩く。
一応シャーリーも泣き止んでいるが、以前静かなままだ。
10歳の子供が同じ年の女の子を背負って歩くのはつらいかもしれないが、そこは魔力による身体強化を使っているので問題ない。
だけど、静かなままだとどうしても不安になってくる。
まぁ…さっきはギリギリ間に合ったが下手したら命を落としたかもしれない。まぁいまだ怖くて、黙り込んでしまうのもしょうがないかもしれないな。
(だけど…背中越しに伝わる鼓動が早いけど…まぁ、それほど怖かったことか)
と俺は心の中で納得した。
家に帰ると、鎧を装着したフル装備の父親と剣を片手にたいした防具を付けていない数十人の大人達がいた。
「父様…無事シャーリーを見つけてきました」
と褒めてくれるかな?と期待しながら父親を見上げる。
だけど、父親の目線は冷たいままだ、そして父親から帰ってきたのは言葉ではなく、平手打ちだった。
「---え?」
俺は叩かれた頬を押さえながらそんな声を上げるこしかできなかった。
「人さまの子供を森に連れ出し、今回は助かったものの下手をすれば命はなかったかもしれない。そうなったときの責任はお前にあるのだぞフリード」
と父親はいつもより低い声で言った。
「ごめんなさい…父様」
と俺は率直に謝った。
確かにあのとき俺が駆けつけなければ、彼女はゴブリン達に殺されはしないかもしれながいが捕まったりしたらひどい目に遭わされたかもしれない。彼女を魔法を教えることを口実に村の外に呼び出したのは俺だ。責任はもちろん俺にある。
だけど、俺と父親の間に1人の少女が俺を庇うように手を広げて言った。
「フリード君は悪くありません!私が勝手に森に入っただけですし、フリード君から魔法を教えてもらわなければ、きっと私はゴブリンに殺されていたと思います。だからこれ以上フリード君を責めないでください!」
彼女はそう言うと、父親はあっけに取られた顔をしている。
父親は少し驚いたようだが、少し微笑んで、シャーリーに話しかける。
「そうか…2人とも無事だし、君がそう言うなら俺もこれ以上フリードを責めないことにするよ…ありがとうな、フリードを庇ってくれて…フリードをよろしく」
と父親の最後の部分は他の人には聞けないようにしゃべっていたが、俺には聞こえてしまっていた。
一応その後は反省ということで家の近くの小屋で俺とシャーリーは1晩を過ごすことになった。
だけど小屋に篭っているだけじゃつまらないので、小屋をこっそりと抜け出し2人で空を眺める。空を眺めると本に書いてあったとおり異世界ということが分かった。月はあっちの世界と一緒だが、星座の知識が乏しい俺でも違うというのは分かった。
「きれいだね…」
とシャーリーは空を眺めて、ポツリと呟く。
俺はそこでまるでギャルゲーのような2つの台詞が浮かんできた。
・あぁ…そうだね
・シャーリー…君のほうがもっと綺麗だよ
という2つの選択肢である。俺は2つ目を考えただけでも恥ずかしくなる。30近くの男がこれを言うのは少々ハードルが高すぎるような…
俺は覚悟を決める。
「シャーリーの方が…綺麗だよ」
と口走ってしまった。自分で言っておきながら顔から火が出そうなくらい恥ずかしい。俺は顔を手で覆いたくなる衝動を抑えて、シャーリーを見る。
シャーリーは少し驚いた顔をしているが、すぐに顔を赤くして
「あ、ありがとう…」
と恥ずかしそうに言った。
俺はそんな彼女を見て後悔よりも幸福感に満たされた。
その後はお互いに空を見上げて手をつないだ。
~~翌日~~
父親が来て、これから行くときはみんな一緒に行くようにという条件で村の外に出ることを許可してもらった。
~~数週間後~~~
最近の楽しみは、あえて寝たふりをしてシャーリーに起こしてもらうことだ。
(これが、幼馴染に起こしてもらう気持ちか!)
と俺はものすごく満足していた。
俺達はいつもどおり、魔法の訓練をする。
そして魔法の練習の途中でシャーリーが話しかけてきた。
「あの、フリード君…ちょっと話があるんだけどいいかな」
と上目遣いで俺に尋ねてくる。もちろん俺としては断る気はない。
「あぁ…構わないよ」
と言うと彼女はすこし安心した表情を浮かべて、妹達にチラッと視線を送る。
俺はそれをなんとなく察して
「ちょっと個別に魔法を教えてくるから、2人はそこで練習していてくれ。大丈夫すぐもってくるから」
と言って妹達に指示を出すと妹達も元気よく「「はーい!」」と答えた。
その後1分もあるいて視界の端で妹達がまだ確認できる位置まで歩いてきた。
「ところで話ってのは?」
と聞くと、シャーリーは少し暗そうな顔をする。
「実は…私もうすぐこの村を発つんです。父さんの調査が終わったので、それを報告するために王都に…」
俺はそれを聞いてどうしたらいいのか分からなくなった。
いつまでも一緒に居られると思っていた彼女は突然他の場所へ行くらしい。俺はこういうときどういう風に言えばいいのか分からない。
「そ、そっか…シャーリーのことだからきっと王都でもうまくやっていけるさ」
と言ってしまった。するとシャーリーは悲しそうな顔をして、大粒の涙が頬を伝って落ちる。
シャーリーはその姿を隠すように走り出してしまった。
そしたら突然妹達が駆け寄ってきた。
「おにいちゃん!何してるの追いかけないと!」
「おにいちゃん!ここで何もしなかったら軽蔑するよ!」
と二人の怒鳴られた。2人はさぁ早く!といった感じの表情で怒っている。
俺は良く分からないまま走り出した。
(あぁ…くそっ…やっぱ俺は変わってねえ…チャンスなんてものはいくらでもあったんだ…だけどそれを見逃してきた…だけど…俺はもう変わるって決めたんだ!!)
俺は無我夢中で走り出した。
無我夢中で走ってシャーリーを視界に捕らえて、さらに全力で走ってシャーリーの腕を掴む。
シャーリーは涙を流している。
「シャーリー!俺は君が好きだ!だけど…俺にはまだ君を守るだけの力はない…だから、待ってくれないか!絶対迎えにいくから!俺と…結婚してくれ!」
俺は彼女の腕を掴みながら、そう宣言した。
シャーリーは驚いた顔をした。
「…はい」
そして彼女は涙を流しながら最高の笑みを浮かべた。
誤字脱字等ありましたらお願いします。




