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死して響けブザービーター  作者: 竹の子物語
第1章【漫画家になろう】
5/9

5話『タヅカ伝説』

 不本意ながら漫画家を目指すことになった。

 ひたすら流されているだけのような気もするが、元々流れに任せている身の上なので、わざわざ抵抗する気もない。

 しかし、田塚を訪問してから、思っていたより随分本格的な話になって来てしまった。

 どうやら田塚、狂態が拗れに捩れに捻れた結果か、俺が漫画家を目指すことに支援するなどと申し出たのだ。変態と言えど現役漫画家のサポートだ、断る道理も無く、だからその具体的な内容を聞いてみると、その実態はサポートとは名ばかりの、想像以上に直截的な“指導”であった。俺の私生活に介入、どころか俺の自由を統制する方針らしい。そういう話ならば、やっぱり断ってしまおうと思ったのだが、その心境を見越してか、田塚の話にえらく頷いていた未来の俺が、耳元で「この話、断ったら、お前は不眠で死ぬ」などと脅してきやがり、やむなく承諾するに至る。

 まず、言いつけられたことは、毎日必ず絵を描くこと、漫画を読むこと。これは分かる。漫画家を目指すのだから、絵と漫画に触れないわけにはいかない。しかし、それ以外にも更に、毎日文章を書くこと、本を読むことも言いつけられた。これは田塚曰く“インプットとアウトプットの方法を漫画に限る必要は無く、漫画を描くこと、文章を書くこと、漫画を読むこと、本を読むこと、それぞれに別の利点があり、それぞれから得られる経験の種類も質も違うため”とのこと。新しい発想や面白いネタを考えられるようになるためには、様々な経験を積んだ方が確実で、漫画を描くからといって漫画だけに囚われるのは良くない――世の中には漫画以外にも面白い作品が、知識が、発想が、想像を絶する数だけあり、故に漫画をより面白く出来る、とも言っていた。


“ぎちゅん。漫画作成において、必要な要素を、画力、構成力、発想力の三つに分けて考えてみる。画力はそのままその通り、絵を描く能力。これが無ければ、漫画としての魅力が、長所が生かせず、最低限無ければ、そもそも何も描けず、当然漫画家は絵が下手では話にならない――例外は、いくつか存在するのであるが。次に、構成力とは、どの場面をどこに配置するか、どう纏めるか、どう発展させて行くか、物語を組み立てる能力。これは、大まかな流れを組み立てる以外にも、場面場面での小さな事象を自然に成り立たせる力なども含む。最後に、発想力。これが一番重要である。これさえあれば他が劣っていても、ある程度面白いものは描けると言っても過言ではない。発想力こそが面白いネタを生み、面白いストーリーを作り、面白いキャラクターを描くからであり、ここで言う“面白さ”とは、相手を楽しませること――感動させ、笑わせ、恐怖させ、喜ばせ、仰天させ、考えさせ、怒らせ、和ませ、悲しませ、納得させる、即ち“読者への影響力”のことを指している。であるからして、発想力は“面白さ”を作る能力。故に、発想力を伸ばすことが最も困難でもある。――そもそも発想力とはどう構成されるのか。アイディアとは、どう生まれるのか? 面白いネタを、ある日突然思い付いたとか、ふと思い付いたとか、歩いていたらなんとなく思い付いたとか、ぼーっとしてたら思い付いたとか、リンゴが落ちるのを見たら思い付いたとか、いきなり天啓のように思い付いたとか。そんなはずが、無いであろう。ある日突然、ふと、なんとなく、ぼーっと、リンゴを見ていたら、いきなり思いつくわけがない。何も無いところから何かが生まれるわけがない。そこには、アイディアを思い付く過程には、確実に根拠がある。元がある。アイディアとは、知識と知識が混成されることで成り立つのだ――ある日突然、ふと、なんとなく、ぼーっと、リンゴを見ていたら、いきなり思いついたというその発想は、それまで頭の中で渦巻いていた知識が、その時調度合体した結果に過ぎない。既知の材料と既知の材料が頭の中で組み合わさり、始めて未知の物質が構成される。既知の材料と未知の材料を合成することも、未知の材料と未知の材料を合成させることも可能で、その組み合わせに限りはなく、だからやろうと思えば、アイディアは無尽蔵に製造可能である。よく、アイディアがもう出ない、出尽くしたなどと言う軟弱な輩が居るが、アホか! アイディアが無くなるわけ、出なくなるわけ、ないだろう! アイディアが出ないなど、そんなものは、ただその人間の怠慢か、言い訳か、材料収集が足りないか、経験が足りないかでしかない。きちんと常日頃から、精力的に様々な情報を収集し、収集した情報と記憶を考察し、合成し、構成し、精製し、試行錯誤していれば、アイディアが枯渇することはない――アイディアが無くなるほど、我々の頭も世の中も狭くはない。無くなってしまったのなら、また足せばいいだけである。そのための――発想力を発育するための、インプットであり、アウトプットである。インプットとはアイディアを作る材料を集める行為であり、そしてアウトプットとは、集めた材料を組み合わせる行為である。材料の種類も、組み合わせの数も、多ければ多いほど良い”


 と、ここまで田塚の論。

 長々と聞いてもいない講釈を、無駄に詳細に垂れ流すやつなのだ。

 そんなわけで、材料集め、インプットのための本と漫画を、田塚から借りることになった。

 現在、田塚の住む軟怪マンションから近くに位置する高級マンションの一室に、俺と田塚は居る。

「何でお前、こっちに住まないの? 悪いのは頭? 目? ……俺?」

「趣向である! 趣向である! ぷるんもぷるもんも」

 どうやら趣味らしい。理解し難い、というか理解したくない。

「それにしても、これはちょっとすげえよ。小規模なら開店出来る量じゃないか?」

 日本人が住むには持て余してしまいそうな広さの部屋には、一面本棚、棚、棚、棚。しかも床にもそこかしこに、乱雑に降り積もっている。

「もしかして全部読んだのか」

「んがすす。吾輩の弛まぬ奮励、ここなるに顯れ至る」

「ただの変な人じゃなかったんだ……」

 凄い変な人だったのか。

「ぎっちゅん、さもしきわらわ!」

 例によって謎の声と共に両手を突き出して攻撃される。さもしいのか、お前。

「だから、いきない前ならえするんじゃありませんっ、前に人が居たらどうするんですかっ。その内俺の両脇腹、風通しが良くなっちゃうだろ。……あれ? でも前に人が居るから前ならえするのか。なら自然だな。ごめん」

 あれ?

 なぜ謝ったし。

 まあいいや。

「ぷもんす。さてさてはてはて、愚直の何某には、どれなるが奨善なるかなであるからしてしてさてさてぷもんすもんすつぉいがすがいす」

 俺に貸す本と漫画をとても愉しげに選んでいる。わけのわからない謎のフレーズまで口ずさんでいる。どうして人は、好きなものを布教する時こんなにもテンションほとばしってしまうのだろうか。俺には縁の無さそうな情感である。

 田塚が棚製奥の細道へと消えてから数分後、数十冊の読み物をふらふらと抱え戻って来て、どっさと俺の足元に置く。即座にすたこら再度奥へ突貫、帰還を繰り返し、みるみる本の富士と漫画のアルプスがそびえる。

「くるるんむ。何某の趣向を露聊つゆいささかも存ぜぬからして、種々 交々こもごもにチョイスり過ぎたのである」

 チョイスり過ぎてチョイスのレベルではなくなっている。

「へえ。御苦労御苦労。で、俺はこの中からどれ読めばいいわけ?」

「全部」

「は?」

「全部」

「え、富士ですよ? アルプスですよ田塚先生」

「全部」

「常人なら登るだけで精一杯だっつうの」

「全部」

「俺如きなら見上げるだけで首が折れるっつうの」

「全部」

「あ、首が、首が痛い。紙の山が高すぎて、見上げた首が後ろに折れちゃう、折れた勢い余って縦回転しちゃう、やばい、もう少し低ければ俺も助かるんだけどなあ、命」

「全部」

「……」

 強情っぱりめ。


◆◇◆◇


 てなわけで自宅。

 結局、多過ぎて俺自身で持って帰ったのは田塚の推奨した一部になったが、残りは後日、業者さんが漏れなく届けてくれるそうである。余計なお世話過ぎる。

「どうしよう俺さん、思いの外スパルタなんだけど田塚先生」

「やったじゃないか。諦めて素直に頑張れ」

「人事だと思いやがって」

「まあまあ、どうせお前暇だろ。今まで寝てた時間を充てれば、読めなくはないだろ」

「えー。一応生活のためにバイトはあるんだけどなあ」

「そう言えば、確か週何回ぐらいで入ってるんだ」

「覚えてないのか」

「十年前だぞ?」

「周五で基本一日四時間。たまに夜勤」

「うっわ、死ぬ前の俺と変わらないとか」

「本当に代わり映えのない十年だったんだなあ、あんた。俺だけど」

 周五の四時間だと、夜勤を入れて八万そこそこしか稼げない計算になる。だから、他にやることもない暇人にしてはかなり緩いシフトと言えよう。が、一人暮らしを始めてからは物欲をどこかに落としてしまった俺なので、八万あれば家賃、光熱費、水道代、食費、全て賄えてしまうため、それ以上増やす気は無い。さらに言うと、毎月親から十万近くの仕送りをもらっているため、実は働かなくても困らない。ただ、いくら余裕のある家庭だからと言って、最低限自分の生きていく程度の稼ぎは自分で出さないと示しがつかない。何に対する示しかは知らん。

 毎月の仕送りがそのまま蓄積され、さらに自分で稼いだ分の余りがそこに加算されるため、ろくに働いていないわりには身に余る貯金が俺にはある。具体的に言うと七桁だ。それだけあれば、無気力無欲無用に定評のある俺ならば、かなりの期間引き込もれる。

「いっそ引きこもっちまえや。その時間を漫画に注ぎ込めばいいだろう」

「いやいや」

 まるっきりニートだろ。

「やることやってればいいんじゃないのか? それが自分の将来のためになることで、かつ他人と家族に迷惑がかからず、根拠のある行動であるならば。別にいいだろ、ニート。ニート悪くねえよ。駄目なニートが勝手に駄目なだけだろ、俺達は頑張るニートでいればいいだろ。それともあれか? 世間体か? 気にする必要なんてあるか、今さら。見栄のために生きてるわけじゃあるまいに」

「いやいや。さすがに引き篭るのはやり過ぎだろって言いたいの、俺は。バイトする時間まで漫画家修行に費やすって、ちょっと猪突猛進過ぎだろ。せっかく意図せず出来た結構な貯金を、切り崩してまで――安定性を欠いてまで、そこまで突っ走る必要性は感じられねえなあ。万が一実家が破産して金が必要になったりしたらどうするよ」

「ふうん。そうだな、確かにそうだ。……まあ、お前はそう思うんだろうなあ」

 同じ俺で、意見が別れた。

 ここに、お互いの考え方に決定的な相違を感じる。

 未来の俺と今の俺の気力に、明確な格差が生じている。

 現在の俺は生きる気力も皆無なただの腑抜けで、対する未来の俺は、十年後というより、むしろ学生時代の俺を想起させる猪突猛進さだ。既視感さえ覚える。

 あれは、あの情熱は、死んだ程度で取り戻せるものであったろうか――あの頃からの確執は、亀裂は、死んだ程度で取り除けるものであったろうか。


「そう言えば俺さん。まだ聞いてなかったけど、あんた、どうやって死んだんだ?」

「覚えていない」

 両手の平を上に向け、お手上げといった風に答える。

「覚えていないんだ」

「はあ? それは、死ぬ直前の記憶が無いってこと?」

「死ぬ直前だけならよかったんだがな、数日以上前の記憶からして無い。いや、無いというか、曖昧というか、ぼんやりしている。どれだけの期間の記憶があやふやになっているかも、曖昧なんだ。数日か、数ヵ月か、あるいは数年か」

「待て待て。それじゃあ、あんたどうやって自分が十年前から来たって判断したんだよ。記憶が、もしかしたら数年単位で曖昧かも知れないのに」

「知らん。知らんけど分かった。どうして分かったかは分からないし、どうして知っているかは知らない」

「あんた、それ本気か?」

 どうにもきな臭くなって来た。

「俺だって不思議なんだよ。だが、これははっきりしている。俺は、自分の人生を――お前の人生を、やり直すために来た。死ぬ直前に、“もっと前から頑張っていなければ”と、強く後悔し、念じたことは、絶対に確かだ」

「どうして黙ってた」

「聞かれなかったからだ。まあ、普通に話そうとは思っていたが、別に緊急性も無かっただろ」

 あまりにあっさりした態度に、疑心に駆られる。俺に知られたくない秘密があるのか、画策があるのか。えも言われぬ居心地の悪さが、ふつふつと胸中に沸く。

「そんな目で見るな。話すつもりだったからこうして話したんだろ、何か悪巧みしてるわけじゃない。むしろ悪巧みしてたら、こんな下手なことするか。もっと隠すとかするだろうが」

「ふう、ん」

 まあどうでもいいか。

 どうでもいいったらどうでもいい。

 それが俺の――今の俺のスタンスなのだ。

 あまり考えないようにしよう。

 曖昧いいじゃん、ふわふわ歓迎、模糊交々しようぜ。



「そんなことより、本読むぞ本。さっきから、そのタイトルが物凄い気になるんだ」

 モニュメントであり基地であり拠点である卓袱台に置かれた、数十冊の中の、一冊を俺さんは指す。


 タイトル、『タヅカ伝説』。

「ぶはっ」

 吹く。

 田塚っぽいキャラクターが変なポーズを取っている。無表情なのがシュールだ。

「な。ヤバイだろう」

「や、ヤバイな。ここまで自己主張強いと病気なんじゃないのかあいつ」

「あいつは今さら問うまでもなく病気だろう、頭の」

 早速ページを開く。


『あるところにタヅカがおりました。

 結構おりました。

 赤タヅカは火を吐き、

 黄タヅカは高く飛び、

 青タヅカは水に生き、

 紫タヅカは力持ち、

 白タヅカは臭い』


「おい……これピクミソじゃね。あかんだろ、人の目考えろよ。ここをどこだと思っての狼藉だよ、任天――お天道様に無礼つかまつっちゃう」

 俺は思わずキョロキョロと辺りを見回す。言うなれば白地に黒文字なニュアンスのキョロキョロだ。

 そして説明しよう、ピクミソとは。宇宙海賊であるキャプテン・ラリマーが、とある宝の眠る星に着陸しようとしたら、たまたま飛翔していたドン・ド・チャップーに撃墜され、命からがら不時着し、そこで出会った原住民ピクミソを奴隷に仕立て上げ、繁殖させ、使役し、各地に散らばった宇宙船のパーツとついでに宝物をせしめようというあらすじのゲームである。

 二千年代序盤に流行り、最近ではスリーまで発売されたなかなか人気の軍事シュミレーションである。舞台は異世界風だが軍事である。だって戦車とか作れるし。

「ま、まだそうと判ずるのは早計じゃないか、過去の俺」

「現実から目を背けるんじゃないよ、未来の俺」

「ああ、なぜだろう、唐突にカタカナのソとンの擬似性が気になってきた、なぜだろう」

「俺も。不思議なこともある」

 続きを読み進める。


『タヅカはゴミのように弱いです。

 一匹だとすぐ巨大生物に食べられてしまいます。

 藻屑の如し、プランクトンもかくや。

 なのである日、タヅカ達は皆で力を合わせることを考えました。

「僕は火を扱うんだよ。夜も安心、料理も出来るんだよ。文明の利器だよ」

「ふむ。水の利用は私に任せるのである。生きる限り水は欠かせないのである」

「オイラは高く飛びマス。電気も実は平気デス。爆弾も実はいけそうな気がしマス。ボンバー」

「おでは巨大生物を殺害するぞ。おでマジ強いぞ、重いぞ、遅いぞ」

「ボ、ボクは臭い」

「「「「君は生贄でいいや」」」」 』



「不憫過ぎる……」

「なんか予想はしていたがな」

「一人だけプロフィールが異臭を放ってたしなあ」

「生贄とか……ちゃっかりゲーム内のピクミソもそういう扱いだから余計不憫だ」

「いや、これピクミソじゃねえから。タヅカだから」

「忘れてた。姿形は全員タヅカなんだよな。キモいな」



『タヅカ達は旅に出ました。

 旅に出た理由は、なんでしょうか、知りません。

 自分探しでしょうか。

 私に聞かないで下さい。管轄外です。

 イッツノットマイジョブ。

 あ、人事の人にでも聞いてみればいいんじゃないかしら』



「ナレーションが反抗期なんだけど」

「しかもOLだったのか」

「人事って誰だよ。居るなら出してみろよ人事」



『わたくしが人事です。

 タヅカ達は世界遺産めぐりと、ついでにご先祖様を八つ裂きにしたドン・ド・チャップーへの復讐のために旅立ったのです』



「お、おい、人事のナレーション出てきちゃったよ、こわ」

「怖いぐらい先読みしてるな、田塚のやつ」

「そして取ってつけたように復讐劇を入れて来たね」

「観光の御土産感覚で復讐決めたのか、こいつら」



『タヅカ一行はシンガポールを訪れていました。

「思ってた以上にマーライオンちゃちかったよ。がっかりだよ」

「ジャブ程度のジャンプで簡単に飛び越せたデス。実物は所詮あんなものデス」

「え、えっと、でもボクは、皆と来れただけで幸せかな」

「鼻つまみものに言われても全然共感出来ないんだよ」

「え、ひ、ひどい。た、確かにボクは臭いけど。か、体に良い臭さなんだよ。な、納豆と思って食べてよ」

「いや、さりげに自分を食べさせようとするんじゃないんだよ。君をかじったチャップーが血反吐を吐いて死ぬの僕見たことあるんだよ」

「ど、どさくさに紛れて暗殺しようとか企んでないって。み、皆死ねとか思ってないって」

「君は嘘つきなのに口は正直なんだよ……」

 白タヅカにガン引きしていた赤タヅカは、そこでふと気が付きました。

「あれ、黄タヅカ、他の二人はどこ行ったんだよ?」

「青タヅカはマーライオンの水を全て吸収しようとチャレンジしていたら、黒ずくめの方々に捕まったデス。世界遺産保護警察って腕章に書いてあったデス」

「あいつは頭の良さそうなバカだよ」

「紫タヅカはマーライオンとバトルしようと意気込んで四股を踏んでいたら、黒ずくめの方々に捕まったデス。世界遺産保護警察って腕章に書いてあったデス」

「あいつは見た目通りのバカだよ」

「そしてオイラは、マーライオンを往復で飛びまくったのが災いして、通報されたデス。これから世界遺産保護警察に逮捕される予定デス」

「バカしかいないんだよ」

 タヅカ一行の旅は、新しい地を訪れるたび、いちいち世界遺産保護警察に仲間のほとんど逮捕されてしまうため、難航しています。

 赤タヅカはコミュニケーションの難しさを身を持って思い知るのでした』



「とりあえず、こいつらの世界にもシンガポールはあるんだな」

「そして白タヅカは、これ鼻つまみものにされても仕方無かったんじゃねえ?」

「どさくさに暗殺企むようなやつだしな。臭いしな」

「そして思っていた以上に頭悪いのね、タヅカって生物は」



『数々の困難を、主に自分達で引き起こしながら、それでもタヅカ達は旅を続けました。

 東にバーンチエン遺跡あれば、行って破壊し、

 西に古都ビガンあれば、行って粉砕し、

 南にプランバナン寺院あれば、行って滅壊し、

 北にミーソン聖域あれば、行って爆砕し、

 その都度、世界遺産保護警察に逮捕されるのでした。

 そして今日もまた、巌島神社の倒壊の罪により投獄されているのでした。

「これだけ破壊してるのに捕まるだけで許される意味が分からないんだよ。世界遺産保護警察、意外と優しいんだよ」

「彼らは争いを好まないのデス。世界遺産を愛する、穏やかな心の持ち主達なのデス」

「保護には全く向いてないんだよ。そして今までの例のごとく、ここの牢獄もザルなんだよ。学習能力が無いんだよ」

「ふむ。紫タヅカ君、やっておしまいなさいのである」

「どぅほほ、殺戮タイムだぞ」

 紫タヅカは、その凶悪な肉体をボコボコと不気味に膨らませ、脆い牢屋の檻などものともせずにブチ破りました。四股を踏みながら、紫タヅカは意気込みます。

「殺害するぞ。殺害するぞ。出会った黒ずくめはすべからくぶっ殺すぞ。おで強い、おで最強」

「こいつが味方で――いや、敵でなくて、本当に良かったと思うんだよ。怖過ぎるんだよ」

「み、皆は殺しても、ぼ、ボクだけは見逃してね、紫タヅカ君。ひ、一口あげるから」

「言われなくとも皆殺しにするんだぞ。――この場でだぞ」

 紫タヅカは酷薄に笑うと、その凶獣の如き禍々しい体躯が、膨張を始める。

 そう、時が来たのだ。

 世界を灰燼と化す時が。

 紫タヅカは、仲間を装い、利用し、これまで世界遺産を破壊し続けて来た。そして、それこそが彼の目的であったのだ。

 そしてついに、彼の封印が解かれる――ドン・タヅカ・チャップーの封印が。


 ――つづく。』



「こいつらの犯行現場は主に東南アジアだということが分かった」

「いやでも、厳島神社に来たみたいだから、来日したっぽいぞ」

「迷惑過ぎる」

「というか、紫タヅカがラスボスっぽいことになったんだが。変形し始めたんだが」

「どうしよう、俺さん。不覚にも続きが気になっちゃう」

「奇遇だな、俺もだ。なんか悔しいな。どこからどう見ても頭の沸いてる話にしか見えないのに。これが田塚パワーか」

 俺達はなんとも言えない読了感に云々唸るのだった。


◆◇◆◇






 さて。

 今回の話は、後半からは完全に悪ふざけです。任天――お天道様は、こんな私を許してくれるのでしょうか、すみません、許して下さい、もう二度とやらないとは誓えないけれど。

 今後、タヅカ伝説の続きが掲載されることになるかどうかは、未定です。管轄外なのでよく分かりません。

 では、これにて失礼します。

 また会えることを祈って。


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