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死して響けブザービーター  作者: 竹の子物語
第1章【漫画家になろう】
2/9

2話『目指せパラパラ漫画家』

 現状を振り返る。

 とある日の夜勤明け、俺はドロップキックにより未来の俺に蹴り起こされた。

 しかもこの未来の俺、死んでいるらしい。俺があまりに退屈な人生のまま死んでしまったため、それを大いに悔やみ、原理は知らんが強い未練により十年前――すなわち現在にタイムスリップしたという。


 嘘か誠かはどうでもよく、自らの安息の眠りを守るべく、適当にあしらって帰ってもらおうとするも、なんだか逆ギレされ、仕方がなく、未来の俺による俺の“人生やり直し計画”に付き合うことになってしまった。


 しかし、結局あれから卓袱台を挟んで唸ること小一時間、趣味も特技も好奇心も持たず、もはや清貧とも言える無欲な日々を送っていたのが災いし、論題のとっかかりすら掴むことが出来ず、俺と俺による俺のための会議は進退窮まっていた。


「ほんと、引くぐらい何も無いのな、お前」

「それはあんたが俺より知っているだろ、十年後の俺」


 俺が盛大な欠伸を、目の前の俺が深い溜め息を、それぞれ溢したのを契機に、卓袱台会議は一旦休息の体をなすことになった。

 というか眠気が限界に達する。夜勤明けだと言うとろうに。ただでさえ眠い話を、眠気の境地をさ迷う俺に問うなと言いたい。


 俺は、屍が墓穴を焦がれて彷徨うように、よろよろと乱雑に隅に詰められた布団へと赴く。そのまま崩折れ、あまりふかふかでもなく太陽の匂いもしないというか微妙にカビ臭い白が、全身を包み込む。あー、嗅覚的な不快感が、割り箸の袋に一緒に入ってる爪楊枝の如くどうでもいいと思えるぐらい、至福だ。このまま溶けないかな、俺。むしろ溶けろ。溶けて気化して雲の一部と化してゲリラ豪雨大連隊補給部第七億百四万八十二班副班長になりたい。

 ……お?

 もしかしてこれが、人生における目標ってやつか夢ってやつか!?


 それから三時間後。


 夢と現を区別できない朦朧とする意識のまま、謎のテンションに駆り立てられ、布団から飛び出し卓袱台に肘をつく未来俺に向かって提案する。


「なあ、溶けて気化して雲の一部と化してゲリラ豪雨大連隊補給部第七億百四万八十二班副班長目指すってのはどうよ!?」

「お前が本気なのはびんびん伝わったが、本気なら一度ちゃんと寝たほうがいい」

「えー。仕方ないな、そうしよう」


 俺は、ミイラが棺桶を焦がれて彷徨うように、ゆらゆらと乱雑に詰められた布団に吸い寄せられる。そのまま崩折れ、あまりふわふわでもなく陽光の香りもしないというか普通にカビ臭い白が、全身を包み込む。あー、鼻腔をくすぐる不快感が、刺身の見栄という寂しき業を定められたツマの如くどうでもいいと思えるぐらい、至高だ。このまま昇天しないかな、俺。むしろ昇れ。昇って大気圏を越えて常闇に突入して星屑の末席と化して天の川連合連絡部隊第三十九A組八万八千八番さんの急須係になりたい。

 ……おお?

 もしやもしや、これが人生における目標ってやつか夢ってやつか!?


 それから三時間後。


 相変わらず夢と現の狭間にある曖昧な意識のまま、謎のテンションに急き立てられ、布団から飛び出し卓袱台の上でだらんとしている未来俺に向かって提案する。


「なあ、昇って大気圏を越えて常闇に突入して星屑の末席と化して天の川連合連絡部隊第三十九A組八万八千八番さんの急須係目指すってのはどうよ!?」

「お前が本気なのはひしひし伝わったが、本気ならもう一度寝直した方がいい」

「えー。仕方ないなー、そうしよう」


 俺は、幽霊が地獄を焦がれて彷徨うように、ふよふよと乱雑に詰められた布団に不時着する。そのまま崩折れ、あまりもふもふでもなく日光のアロマもしないというか結構カビ臭い白が、全身を包み込む。あー、鼻奥が訴える不快感が、刺身のツマを爪楊枝で摘む人の如くどうでもいいと思えるぐらい、至高な至福だ。このまま消滅しないかな、俺。むしろ滅れ。滅って過去の思い出となりアルバムとなり後に遺影として抜擢されて葬式の場の注目の的としてデビューしたい。

 ……うおお。

 もしかしなくても、これこそが人生における目標ってやつだろ夢ってやつだろ!


 それから三時間後。


 未だに夢と現の引っ張りだこである模糊な意識のまま、謎のテンションに追い立てられ、布団から飛び出し卓袱台の横でゆりかごダンスに勤しむ未来俺に向かって提案する。


「なあ、滅って過去の思い出となりアルバムとなり後に遺影として抜擢されて葬式の場の注目の的としてデビューするってのはどうよ!?」

「寝れ」

「えー」


 俺は、屍とミイラが幽霊とゆりかごダンスを踊るように、詰められた布団に向かって以下略――、


 三時間後。


 ようやっと夢と現の落とし穴から抜け出した俺は、すこぶるローテンションで布団から這い出て、卓袱台の横で俺のスマフォで勝手に漫画を読んでいる未来俺に向かって言う。


「おはよう未来の俺」

「おはよう過去の俺。目は覚めたみたいだな」

「うん。なんか凄い悪夢を見ていた気がする……副班長になったり急須になったり遺影になったり」

「変なテンションのまま寝ると、たまにあるよな」

 俺さんは適当に得心する。


「ていうか俺のスマフォ勝手に使うなよ。俺の許可を取れ」

「いいだろ別に、減るもんじゃないし。それに俺の許可は俺が取る」

「ああ、そうね……。何の漫画読んでんの?」

「んー、溶けて帰化してゲリラ豪雨副班長となった主人公と、昇って星屑と化して天の川急須係となった親友と、滅って遺影となり葬式の場の注目の的としてデビューしちゃった三キャラクターが織り成す推理漫画」

「なあ、俺もしかして漫画家にならなれるんじゃないか!?」

「それは正直俺も思った。案外早く成仏出来そうだな」

 未来俺と頷き合い、こうして第一回卓袱台会議はひとまず幕を閉じる。


◆◇◆◇


 さて、成り行きで当面は漫画家を目指してみることにしてみたものの、

「よくよく考えてみると、取り立てて成りたいわけでもないんだよね、漫画家。ノリで言ってみたはいいものの」

「じゃあ他にやりたいことあるか?」

 そう返されると答えに瀕する。

「うーん、敢えて言うなら」「寝る以外で」「無いよ」

 先読みされていた。

「ま、俺達には元々何も無いんだから、とにかく最初は形からでもいいんじゃないか? 何でもいいから何かしてみないことには始まらんだろ。他にもっとやりたいこと見つかったら、その時はその時でそっちに乗り換えればいいだけだ。少なくとも、全力でやってみれば、一つの経験にはなるだろ。それに、ちょっと面白そうだとは思わないか、漫画家」

「まー確かに、漫画家というフレーズに少しも胸がドキワクしないでもないけど。でもあんた、漫画家の仕事がどんなものか知ってんの?」

「あれだろ。ページの端っこに棒人間書いてパラパラしたりするんだろ」

「いや、俺も授業中よくやったけど。それパラパラ漫画じゃね?」

「俺も授業中よくやったな。しかしパラパラ漫画も漫画の一種だろ」

「えー。ライオンとミーアキャットを一緒くたにした感が、すげえするんだけど」


 ちなみにライオンもミーアキャットも同じネコ目だが、ライオンはネコ科であってもミーアキャットはマングース科なので、同じ括りに入れるかは微妙である。


「そもそもパラパラ漫画なんか作ってどうすんのよ」

「売る。で、パラパラ漫画家としてデビューする。お前は新ジャンル開拓の第一人者としてウッハウハのガッポガポ、俺は成仏めでたし」

 こいつ絶対ノリで言ってるな。話には付き合ってやるけど。

「パラパラ漫画家かあ。斬新ではあるけど……それってつまり、アニメーターとちゃうのん? だってスタジオジブリとかパラパラ漫画方式らしいよ」

「ちゃう。ネズミとハムスターぐらいちゃう。パラパラ漫画家なめんな」

 ネズミとハムスターは基本同じだよなという指摘は飲み込んでおく。

「大体、俺結構疑問に思うんだが、何でパラパラ漫画って全然普及しないんだ? 希に、なんだかよくわからない店のなんだかよくわからない棚に並んでたりしてるところぐらいしか見たことないんだが」

「あー……確かに俺もそんな感じでしか見ないかなあ、商品化されたパラパラ漫画って。まあ、普通にコストと需要の問題なんだろうけど」


 パラパラ漫画は膨大な量の絵を使わないといけないため、あまり長いストーリーには出来ないのが難題である。勿論、やろうと思えば総計三十分以上楽しめる長さのパラパラ漫画だって作れるのだろうが、とんでもない厚さになってしまい、いちいち小分けにしながらパラパラするはめになるし、そもそもかさばるし、手間もコストも尋常ではない。そのため、個人個人の手に取ってもらう商品としては不向き過ぎる。しかし、“動く漫画”という商品自体はとても魅力的である。そこで、“一つが個人個人に対する商品”ではなく、“一つが不特定多数に対する商品”という形で諸々の問題点は補える。つまり、パラパラ漫画によって構成される映像を、電波に乗せて全国に発信すればいいということ。とどのつまりアニメである。だから、パラパラ漫画の一番リーズナブルな形がアニメであると見るなら、むしろパラパラ漫画は全世界的に普及してるとも言える。しかし、手法の程度が変わり過ぎてしまえば、それを同一と捉えるかどうかも人によって変わってきてしまうので、なんとも言い難いというか、ものは言いようという体を成してくる。


「だから、聞け俺。パラパラ漫画を、アニメーションという手法以外の手法で最適化すればいいんだろ。そうすればパラパラ漫画をパラパラ漫画として普及出来るかも知れん」

 一応の考えあっての発言らしい。……いや、どうかなあ、こいつに考えなんかあるのかなあ、やっぱりその場の思い付きなんじゃないかなあ。

「俺さん、そんな簡単に出来るものかね」

「例えばだ。こういうのはどうだろうか。総計一分のパラパラ漫画を作るとする。しかし総計三十分のストーリーにしたいとする」

「ふむふむ」

「なら総計三十分のストーリーを一分の厚さに、頑張ってまとめればいいじゃないか!」

「そのまんま過ぎてアイディアでもなんでもねえ」

 そんな天啓を得たみたいに言われても困る。

 頑張って、とか。

 根性か。

 物凄いバカなんじゃないかこの人。


「だが乗った!」

 そして物凄いバカは俺のことだった。


◆◇◆◇


 自由帳の束と大量のシャーペンの芯を、拠点である卓袱台の上に置く。

 漫画の材料など知らないので、ひとまずはこれでよしとする。

 というか素人のパラパラ漫画だしな。あんまり最初から飛ばしても仕方がない。


「試しに、それぞれ好きなように描いてみるか」

 各々が試しつがめつ作業に取り掛かる。刻々と時計の針が刻まれる中、俺と俺さんは同じ仕草でペンをクルクルしながらオリジナルストーリーを紡いでいく。時々、気分転換にポツリポツリと言葉をこぼす。

「というか今更だけど、あんた死んでるのに物には触れるのね。スマフォも勝手に弄ってたし」

 俺自身を触ることが出来るのはあまり不思議には感じないが、しかし物体に触れるっていうのはちょっとどうだろう。

「ああ。ぐもーって念じたら出来る。けど基本的には透けるぞ」

 俺さんは右手を卓袱台の下から上へと突き出して見せる。

 なんか手が生えてきているみたいでキモい。


「ちょっとあっち向いてろ。五秒数えたらこっち振り返っていいぞ」

 何を思いついたのか、俺さんは俺にそう命じる。逆らう理由も無いので大人しく後ろを向き、口頭で五秒数え上げ、振り返る。


「なまくびー」

 俺さんが卓袱台から首だけを突き出していた。

「うわキモっ」


「たけのこー」

 さらに両手の平を頭上で合わせてにょきにょきと立ち上がっていく。

「春の芽吹きっ」


「配管工ー」

 デュンデュンデュンと口で効果音を出しながら、三段階の動きで垂直に下降する。

「土管のおじさんっ」


「きのこー」

 再び頭だけを卓袱台から出して横にスライドする。

「こっち来んな、1アップしちゃうっ」

 どこぞの世界のキノコを模したまま、卓袱台の淵から落下する動作を見せ、テテッテテ、テテッテテンという効果音で締めくくる。一機無くなった時の音だ。


「どうだ、凄いだろ。この気ままにすぎる自由度、奔放な応用性。俺もちょっとびっくりしてる」

「意外と楽しんでるねあんた……」

 十年後の俺は死んで正解だったのではないだろうか。


◆◇◆◇


「で、出来た」 

 数時間後、誰が漫画家になるとか適当なこと言い出したんだふざけんじゃねえよぶっ殺すぞという不穏な空気が流れるほど互いに疲労しきり、さらにその数時間後、もしかして漫画家にならなれるんじゃないのかとか舐めくさって本当にすみませんノリで言ってましたごめんなさいという空気に変わり、そしてそんな空気も積載され続ける重さに耐え切れず沈殿し、もはやこの無間地獄こそが生きとし生ける者の根源たるエデンなのではないかと、ある種謎の悟りが開けそうになって来た頃、ようやく一つの作品が仕上がる。

「まさか、まさか本当に完成するとは……しかもぶっ続けで、休憩無しに。お前すげえよ、天才なんじゃないか?」

 未来俺からの素直な称賛を背に、俺はカッコをつける。

「ふっ、その言葉は、俺の自慢のこいつをパラパラしてからにしな……変わるぜ、世界観」

 き、決まった。

 俺は自分のあまりの決まり具合に、ぶるぶると震えてしまう。恐ろしい、恐ろしすぎる、いったい今からどのような天才偉人怪人伝説が始まるのだろうか、うっかり爆誕しちまった鬼才が引き起こす影響力により地球が割れないか恐ろしくなってくる。もはや俺はマスター・オサムシの生まれ変わりなのではないか。

 にへらにへら。

「お前、顔が福笑いみたいになってるぞ」

「配置し直してちょうだいな、俺さん」

「ああ。ええと、この垂れきったムカツク目はいらないな」

「いりますから」

「捨てよう」

「捨てないで!」

「そしてこのムカツク音を垂れ流す穴も邪魔だな。折ろう」

「口! それ口だから折るのはやめたげて!」

「あれ? そう言えばお前、顔の真ん中に穴が二つも空いてるぞ」

「あんたにも空いてるから!」

「び、病気なんじゃないか!? 埋めよう」

「痛い! シャー芯の束は堅い! 鼻の中黒くなっちゃう!」

「うわあ、しまった、これじゃあ化物みたいだ。何かで補ってやらないと……つい捨ててしまった目の代わりはバナナでいいか」

「ひどい。まさか横にしてくっつけるのではなく縦にして突き刺すとは! 二つも!」

「折れた口は、そうだな、パイナップルでも付けておけばなんとかなるんじゃないか?」

「パイナップル!? パイナップルって結構でかいよ!? 俺の顔全部埋まって今までの行為が何だったのかわかんねえ!」

「さて、おふざけはこれぐらいにして」

 未来俺は収拾のつかなくなってきた寸劇を締めくくり、俺の描き上げたパラパラ漫画をひょいと取り上げる。

 そしてパラパラと風を切る小気味良い音。


 内容はこうだ。


 勇者が歩いている。

 魔王に出くわす。


 バトル。倒す。

 魔王が仲間になりたそうな目でこちらを見ている。


 仲間にしますか?

 しませんか?

 唐竹割りしますか?


 唐竹割りする。


 裂けるチーズを半ばまで裂いたような状態の魔王と勇者が踊る。

 大賢者が仲間になりたそうな目でこちらを見ている。


 仲間にしますか?

 しませんか?

 お茶割りしますか?


 お茶割りする。


 体成分の半分が和みテイストとなった大賢者を加え、三人で宇宙へと飛び立つ。

 大提督が仲間になりたそうな目でこちらを見ている。


 唐竹割りしますか?

 お茶割りしますか?

 おかわりしますか?


 おかわりする。


 ほかほかの湯気を放つ二杯の大提督を加え、四人でテンジクを目指す。

 仏様がいやらしい目でこちらを見ている。


 通報しますか?

 通報しますか?

 通報しますか?


 仲間にする。


 いやらしい目をした仏を加えることにより、完成されるパーティ。

 混沌に包まれる世界。


 俺達の戦いは、これからだ!


「ひ、酷過ぎるな」

「あー。正直、勇者のキャラ付けが薄過ぎたかなとは俺も思うよ」

「その通り!」

 未来俺は、パラパラ漫画の最初のページを引き裂く。なにすんだよ。

「主人公であるはずの勇者のキャラが弱い! 裂けるチーズ状の魔王や和みテイストの大賢者と比べると見劣りしてしまうだろう」

 いや、確かに見劣りはするだろうけど。

「そうね、さすが未来の俺の意見は参考になる。そこは早急に直すとして、他に問題点はあった?」

「無い。壮大な世界観と愛と勇気と友情溢れる熱いストーリーに、度肝を抜きに抜きまくる意外な展開と魅力的な結末を、よくぞこれだけの厚さの中にまとめたものだ。素晴らしい。やはり天才なんじゃないのか、お前」

「本当にさすがだ、俺さん。話が分かりすぎていっそ気持ち悪いぜ。他人とは思えないぜ」

「他人じゃないからな」

 ガッ、と右手で力強い握手を交わす。ここに熱い友情が芽生えた。いや、友情というか自己愛かも知れない。

「よし。善は急げだ、早速出版社に持ち込むか」

「えー。マジで? マジでおっしゃってるの? ていうか出版社でいいのこれ。そもそも出版社に持ち込みって基本駄目なんじゃなかったっけ」

「そこはほら、気合だ」

「おお、気合か。それならなんとかなる気がする」

 根性万能説ここに極まる。


◆◇◆◇


 そして玉砕。

 当然である。

「出版社に潜入して、たまたま歩いていた編集者風の人を無理矢理縛り上げて、目の前でゲリラパラパラするまでは良かったんだがな」

 説明しよう、ゲリラパラパラとは。

 パラパラ漫画を、ゲリラ的にターゲットの目の前でパラパラする絶技である。相手は感動する。

「うん。ていうかあの人、ただの編集者風の人だったし」

「そうだよなあ、そこだよな。ただの編集者風の人に俺達の作品の価値が分かるわけねえよな。ちゃんと、編集者が何時何分にどこを行き来するかを調べていなかったのが敗因だな」

 他に敗因は見当たらない。

 くそ、正当な評価さえもらえればこちらのものなのに。

「しかしどうする? あの編集者風の人のセンスはともかく、懐は銀河系の如く広かったから厳重注意だけで許されたものの、“君ら、次は無いからね。これ、普通に犯罪だからね”とか言われちまったが」

 犯罪はまずい。根性万能説の神秘パワーによりなんとかなると思ったのが間違いだった。

 昔は有り余る根性だけで伸し上がったもんだけどなあ。まともな社会では根性一本だけではあまり通用しないらしい。もうティーンエイジャーではないのだ。

「そう言えば俺さん、案の定だけど、あんた俺以外の人には見えないのね」

「みたいだな」

 出版社へ向かう途中、少し試してみたのだ。

「じゃあ、あんたパラパラ漫画持って、道行く人々にゲリラパラパラして、俺の作品の価値を確かめてきてくれよ。誰にも見えないならどこでだって誰にだってゲリパラ出来るだろ。いわゆるマーケティングってやつ? 見せられた人は、あまりの興奮から俺のファンになること受け合い」

「確かに道を歩いていて、前触れもなくそれやられたら興奮はしそうだが……新たな都市伝説が増えるだけのような気が」

「なっちゃないなよ、歩くオカルトに」

「趣旨がどこ吹く風になってるだろ」

 まあ。結構始めから色々どこ吹く風だけど、俺ら。

「うーん。でも作品をプロに評価してもらうツテなんかないし」

 俺は腕を組んで唸る。けれどそこで、未来俺から意外な提案が挙がる。

「あ。ツテならあるだろ」

「はあ?」

 一瞬何を言っているのか分からないが、自分の狭い交友関係を下から上まで見てみると、


「あ」


 会わなくなってから久しい、一人の友人の顔を思い出す。

「ほんとだ。あいつが居るじゃん――」

 互いに顔を見合わせ、

「「田塚(たづか) 治武(なおたけ)!」」


 現在売れっ子漫画家として活躍中の――かつての仲間の名をハモる。





 更新ペースはまだ未定です。

 ただ、一応話は最後まで大雑把には決まっているので、なるべく速やかに投稿する所存です。


 まだまだ若輩な身のため、読みやすい改稿具合など、ご教授願えると幸いです。

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