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another real 現実か否か  作者: DELTA1
第二章 全ては流れ行きて
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第十七話 誘導

「事実というものは存在しない。存在するのは解釈だけである」


 フリードリヒ・ニーチェ

「なっ、どういう意味だ?」

 目の前のエルフの唐突な言い様に咄嗟に反応してしまうイゾル。

 ベルグも似たような心境なのか、その場で固まっている。

「簡単です。残りをどうやって始末しようかと悩んでいた所に、実に都合良くこちらの前に出てきてくれたのです。機会を逃す手は無いでしょう?」

 それを聞いた瞬間、二人は全てを悟った。

 ビルゾン達を殺したのは目の前にいるエルフなのだと。

 その見た目は麗しい美女以外の何者でも無いが、エルフは全ての者が高度な精霊術の使い手なのだ。

 ならばあの滅茶苦茶な死に様も納得できる。

「き、貴様が隊長たちを」

「許さん。騎士団に手を出したことを後悔させてやる」

 口々に言いたい事を言っているが、「狩人部隊」のやって来た事を考えれば的外れもいい所だった。

 何の罪も無い冒険者達をまるで虫けらの如く殺してきた彼らが、今更何を言えるのだろう。

 しかしその点について、反省するどころか罪の意識すら無い二人は、被害者意識の赴くまま好き勝手にリーアを罵る。まあ、俗な貴族の意識などそんな物ではあるが。

 エルフは腰のレイピアを抜くと、殆ど神速といえる速度の突きを放って来た。


 銃弾もそうだが、ある一点に高速で放たれる一撃は、最も回避が難しい代物でもある。

 剣ならば何らかの斬撃という線の動きなので、ある程度の予測は立てられる。

 しかしレイピアのような点を突いてくる攻撃は予測が極めて難しく、よって避けるのも難しい。

 その代わり一撃の威力が低いのが欠点だが、それは手数を増やすことで充分に補える。

 この時リーアが撃ち込んだ数は三発。

 一発はイゾルの左胸横を軽く抉り、二発目は右首筋を掠め、三発目は左頬を浅く傷付けた。


 ほぼ一瞬にこれだけの傷を負わされたイゾルだが、頬からの出血が始まるまで、何が起こったのか全く分からなかった。

 軽く酒を飲んでいたのも原因だが、根本的には騎士に要求されるレベルにまで、彼の武技が達していないからなのは明らかである。

 少し距離を取って顔を顰めているエルフを見て、イゾルは心底からの戦慄を覚えた。

(くそっ、何とか避けたが、こいつは手強い。仲間を連れてきた方がいいな)

 自分の得物も抜いておらず手傷を負わされているのに、どうにも余裕な態度だった。

 それともう一つイゾルは勘違いをしている。だが彼はそれに気付いていない。

「ベルグ」

 弟に声を掛けると、ベルグも頷いた。彼も同様の結論に達したのだ。

「それっ」

 掛け声と共に、二人とも後方に駈け出した。

 角を曲がり袋小路を出る。

 あのエルフが追って来るかとおもったが、どうやら追いかけては来ないらしい。

(あのアマ、覚えてろよ。必ず殺してやるからな)

 イゾルは復讐の念を確かにしつつ、自分たちの詰所に急ぐ。この時間なら残りの三人もいる筈であり、そいつらを含めた五人がかりならば、あんなエルフの一人くらい如何とでもなると考えていた。

 どうにも穴だらけの考えだが、思考が硬直している上に、目の前の事しか考えられない彼にそんな高尚な思考は無理である。

 短絡的な思考が見せる極彩色の未来を頭に描きながら、二人は着実に破滅への階段を上がっていく。




 リーアは恥も外聞も無く逃げ出した二人を見て、盛大に溜息を吐いた。

 彼女が攻撃直後に顔を顰めていたのは、別に仕留め損ねた事が原因では無い。

 全く傷を負わさない積もりだったのに、イゾルの動きが緩慢に過ぎて、逆に傷を負わせてしまったからである。

 洸と旅を始めて以来自己鍛錬を怠っていないので、彼女のレイピアの技量は正に一流に相応しいレベルに達していた。

 昔のままであれば、恐らくイゾルは頸動脈をやられて死んでいただろう。

 運が良いのか悪いのかは別として。

(でもこれで残りの三人も誘き寄せる事が出来ます)

 リーアの狙いはこれであった。

 二人を脅す事によって、残りの三人も含めた五人全員を誘い出す魂胆だったのである。

 多少の誤差はあるが、根本的な計画変更は必要無いだろう。

 あの調子ならば必ず仲間の元に駆け込み、全員で自分を追ってくる筈である。

 そして洸ならばたとえ街中であろうと、五人全員を処理する事も可能だろう。

 微妙に他力本願だが、リーアは洸を信じている。それ以外に理由は要らなかった。

「さて、コウに報せないと」

 レイピアを鞘に収めて即座に身を翻すと、人間には超える事など不可能な高さの壁をいとも簡単に飛び越える。

 エルフとしての身の軽さとシルフ(風の精霊)の助力があれば大した事では無いが、見た目には体重が存在しないとでもいうような御技だった

 芸人であれば十分に見物料が取れそうな事をやってのけたリーアだが、本人はひどく真剣に急いでいる。

 向こうがどれだけの時間で繰り出してくるかは分からないが、余り余裕も無いだろう。

(急いで戻らなければ)

 「青の高原亭」までさして距離は無い。リーアは心の命じるままに駆け出した。




「見付けたぞ」

 隊の詰め所に駆け込んできたイゾルは、息を切らしながらも、大声で叫んだ。

「ど、どうしたんだ?」

 無聊を囲っていた従兄弟の一人、ハンスが驚きのまま尋ねてくる。残りの二人のエルギスとトーマも似たようなものだった。

「隊長たちを殺した奴を見付けたんです」

 続いて駆け込んできたベルグの説明を聞いて、三人も色めき立つ。

「本当か! でっ、そいつは何者だ?」

「エルフだよ。とんでもない美人だが、腕は立つんだ。エルフならあんな真似も可能だろうからな」

 それを聞いた五人全員の顔に、どうにも汚らしい笑みが浮かぶ。

 実に分かりやすい連中だが、ここまで馬鹿なのも考え物だろう。

「丁度良いじゃないか。近頃どいつもこいつも俺達を馬鹿にした目で見やがる。特に女共がな。憂さ晴らししたかったんだ」

 五人の中でもっとも血の気が多いエルギスの言葉に、ベルグも頷く。

「しかもあんな美人は王家や公爵家にも滅多にいないでしょう。好きにできるなら、大金積んでも惜しくないって奴は掃いて捨てる程いるでしょうね」

 その言葉に笑みを強くするハンス達だったが、トーマが疑問を呈した。

「だがあんな殺し方が出来るエルフを俺達で押さえ込めるかな?」

「大丈夫さ」

 イゾルは自信満々に言ってのけた。

「考えても見ろ、この王都であんな大仰な魔術は使えんだろう。それに俺達五人で掛かれば、如何にかなるさ」

「確かにな」

 トーマも納得したらしく、大きく頷くと壁際に設置してある剣立からそれぞれの得物を掴み、それぞれに渡していく。

 ベルトに帯剣し終えると、次々に詰め所を出て、走り出した。

 何事かと周り中から他の騎士たちが見詰めてくるが、一切意に介さず出口に向かって走り続ける。

 外に出てさらに走り出した五人だが、ハンスが一言聞いてきた。

「おい、イゾル。どこにいるか分かってるのか?」

 当然の質問にイゾルは平然と返した。

「すぐ分かるさ。すごく目立つ女だからな。一目見たら絶対忘れられないだろうよ」




 「青の高原亭」の入り口でリーアと鉢合わせした洸は、話を聞くとすぐに歩き出した。隣を歩くリーアにある指示を出す。

「よし、チャンスだ。リーア、連中を僕が言う場所に誘導してくれ。時間は一時間後だな。後は僕が引き受けるよ」

「ええ、でも何処にです?」

「それはね」

 洸の指示を聞いたリーアは、知り合って以来何度目になるのか分からない驚きを覚えた。

「あそこにですか? 人目に付き過ぎると思うのですが」

「だからこそだよ」

 洸の説明が始まる。

「昼日中の王都のど真ん中で不審な死に様を晒せば、ルベル伯もどうにも誤魔化し様が無いからさ。少なくとも闇に葬るのは無理だね」

 頷くリーアを横目に、さらに説明は続く。

「それになるべく全員を一回で処理したかったんだから、これ以上の機会は逃したくない。そこなら見通しが良いから、逃さずに済むしね」

「分かりました。でも、他の関係の無い人達に被害が出ませんよね?」

「勿論さ」

 リーアの懸念を洸は笑って否定する。

「それは今後の為にもやらないよ。公的に騎士団や治安局に追い回されるのは御免だね。さあ、決着を着けるぞ」


 リーアをなるべく活躍させたかったのですが、まずはこんなところでしょうか。

 次回はいろいろと阿呆共を翻弄させようと思います。

 感想と評価もよろしくお願いします。

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