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another real 現実か否か  作者: DELTA1
第二章 全ては流れ行きて
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第十五話 思惑

「長いこと考え込んでいる者が、いつも最善のものを選ぶわけではない」


 ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ

「こちらにどうぞ」

 洸は王都の貴族街の近くにある、何の変哲も無い一軒家に案内された。リーアは別行動を取っており、ここには居ない。

 ここらは貴族街が近い事から、ちょっとした裕福な平民や商人たちの家が軒を連ねているエリアである。

 治安も良く、小規模な市場も近くにあり、まさに一等地と言う表現が相応しい場所だった。

「ここがその人の家なのか?」

 勿論そうではないと分かっているが、あえて聞いてみる。こちらが何も知らないという演技を破綻させてはならない。

「いえ、ここは私の持ち家の一つでして。ああ、申し送れましたが、私の名はガルガです。ちょっとした商売をやっております」

「ほう」

 いかにも今知りましたという態度で返事をする。馬鹿馬鹿しいが、自分たちの安全と引き換えであるなら、安い物だろう。

 中に入るとちょっとした応接間のような空間が広がっていた。どうやら商談に用いられる事もあるらしい。そこに中々の仕立ての上下を身に着けた老人が居た。

(ルベル伯だな)

 洸は勤めて無表情を保ちながら、頭の中で呟く。

 見た目は単なる老人だが、この歳まで王宮で生き残ってきた貴族なのだ。迂闊な事は一切やってはならない。

「どうも、冒険者をやっておりますコウ・サナダです。失礼ですがあなたは?」

「ワシはルベル伯爵ガイアスだ。今日は君に聞きたい事があってな」

 洸はさも驚いたかのように、眼を剥いた。

「伯爵閣下ですか。これは失礼致しました。しかし一介の冒険者でしかない私に何か?」

「うむ、実はな」

 微妙な顰め面のままガイアスは話し出した。

「三日前の事だ。ワシの次男が指揮する騎士団の一隊が、北の森で不審な事故に遭ってなあ。全員が骸を晒した。君は何か知らないかね?」

(始めはそうくるか)

 洸は言質を取られぬように、一言で言い切った。

「いいえ、何も」

 さらに続ける。

「三日前だと仰られましたが、その日は調子が悪くて。王都を出たのは良いのですが、途中で引き返して来ました」

 何も無い上に北の森に行っていないという洸の説明に、ガイアスは溜息を吐くとさらにこう切り出した。

「成る程、ならば他に何か見ていないかな?」

「ええ、何も」

 平然と言い切るが、ガイアスはしめたとばかりに畳み掛けてきた。

「おかしいな、息子たちは大街道を通った筈なのだが」

 にやりと笑うガイアスを見て、洸は少し呆れた。この程度の引っ掛けを使うなど、この爺さん本当に貴族なのかと疑いたくなった。

「いえ、本当に見ていませんよ。街道では徒歩の商人や冒険者しか居ませんでした。騎乗した騎士は全く見ていません」

「そ、そうか」

 ガイアスは残念そうに目を閉じる。

 洸の発言が嘘だと証明できないのだ。

 ビルゾン達は王都を出た後は、すぐ道を外れてそのまま平原を目指したからである。目撃者を減らす狙いがあったからだが、おかげで洸の関与は立証できないのだった。

 勿論洸はこの事を知らなかったが、恐らくその筈だと推察してこう答えただけである。違っていたらその時はその時だとある意味開き直っていた。


 その後もしばらく尋問染みたやり取りは続いたが、結局洸の関与を証明することは出来なかった。

 ガイアスにしても洸が最も怪しい事は分かっていても、こうまで裏付けとなる証拠が無くては、捕縛して裁判にかけられない。

 報復に出たくても、あの殺戮を引き起こした張本人が、目の前の若い冒険者だとは到底信じられなかったからでもある。

「分かった、もう行って良い」

 ガイアスは落胆した様子で、洸に頷いた。そして外に出ようとした洸に、さらに付け加える。

「ああ、無論の事だが、この話は他言無用だぞ。もし外部に漏れた場合は……分かっているな?」

「でしょうねえ。その点は分かっていますので、ご安心を。あっ、それとですね」

「何だね?」

「私も死にたくは無いので、予防措置は取らせていただきます。これでお分かりですね?」

「……ああ、分かった」

 苦虫を噛み潰したような表情でガイアスは頷く。

 つまり口封じを予防するため、なにか手段を講ずると洸は言っている訳だ。そしてガイアスにそれを伝えたということは、今後簡単に手出しが出来なくなるのだと宣言したに等しい。

 いや、実はもうすでに何らかの対策は取られていると判断するだろう。

 そうでなければここまでのこのことやって来る筈が無いのだ。

「では失礼します」

 そう挨拶すると洸は外に出て、そのまま脇目も振らず歩き出した。

 反吐が出るとまでは行かないが、馬鹿馬鹿しいやり取りを交わさなければならなかった為に、気分が悪くなっていた。

(でも収穫はあったな)

 そう判断して、気分を立て直す。先は長いのだから、今からテンションを下げても意味が無い。

(とにかくこれで簡単には手を出して来る事は無いと思うんだが)

 尾行を警戒して、わざと大回りして「青の高原亭」に向かったが、結局無駄だった。尾行は一切付いていなかったのである。

 考えてみればこちらの宿泊先が何処だか、先方はとっくに知っているのだ。

(頭に血が上って冷静な判断が出来なくなってるな。気を付けねば)

 そんな事を考えながら「青の高原亭」に入った洸は、いきなり店主から声を掛けられて、驚く事となった。




「閣下、あの若造は下手人なのでしょうか?」

 洸が去った後の応接間ではガイアスとガルガが残っていた。

 すでに辺りは暗くなりかけている。あれから暫く経つが、ガイアスはこれまで微動だにせず何か考え込んでいた。

「いや、全く証拠が無い。そもそもあんな真似が出来る人間が居るという方が信じられんのだ」

 ガイアスは息子たちの死体を見た時の衝撃を思い起こしていた。

 ビルゾンの死体は脇腹からの出血のみだったが、他の者は体に大穴が開いている者、手足が引き千切られたように無くなっている者、果ては頭部が完全に消失している者まで居たのだ。

 おかげで遺族からの追求の声は、日に日に大きくなっている。

 だがガイアスも困惑の度合いでは似たようなものだった。

 何かの自然発生した強力なモンスターに襲われたのだと言われた方がまだ信じられただろう。

 だがそんな報告は何処からも来ておらず、被害が続いてもいないため、この可能性はすぐに打ち捨てられた。

 何か得体の知れない怪物がいる。

 ガイアスは勿論として、王国の上層部でもこの懸念が広まっている。

「ガルガ、手当ては出す。奴を監視しろ。あとこの事はベルガンディア家の五人には伝えるな。あいつらが知れば、確実に動き出すからな」

「はっ」

 今後に向けて手を打ちつつも、ガイアスは不安を抱えている。

 本当にこの件が王家に漏れていないのか。

 残された「狩人部隊」の五人が無謀な行動を取らないか。

 そして何よりも自分が破滅に向かっていないか。

 だが現時点で答えは全く出ていない。

 全ての回答が出るにはまだ時間が早過ぎる。




「じゃあ今日は顔見せですか」

 リーアの溜息が部屋に響いた。

 帰ってきた洸を見て緊張が解けた彼女は、ベッドで全身を弛緩させている。

 仰向けに寝転がっているのに殆ど形が変わらないその双丘は、眼福ではあるが場違いな感が否めなかった。

「うん、正にその通りだな。向こうも僕達の事を認識しただろうね。恐らく監視の方も怠ってないだろうし」

 カーテンの陰から通りを見下ろしている洸だが、単なるポーズに過ぎない。

 ここから見た限りでも、何か怪しい行動を取っている人間はいなかった。

「出来れば向こうから仕掛けてきてくれれば良いんだがな。反撃の理由としては十分だし。まあ、それは望み薄だが」

「ですよねえ」

 リーアもそれは都合が良過ぎるだろうと思っているようだ。いきなりそんな事を仕掛けてくるほど、向こうが間抜けだとは思えない。

「でも油断は出来ないさ。部隊の残りの奴、数は五人だけどそいつらがどう出てくるか分からんしね」

「でもそのルベル伯が止めてくれるんじゃあ」

 リーアの意見も尤もだが、洸はその点は悲観的だった。

「それもどうかな? 恐らくあの暴挙も、伯の事後承諾の可能性が高いと思う。なら今回も尻拭いしてくれると思って、独断で行動に出るのは有り得るな」

「はあ、面倒ですねえ」

「全くだ」

 二人揃って溜息が出た。

 夜が更けていくが、事態は終結の兆しが無く、先行きは未だに不透明のままだった。

 思惑は絡み合い、その行き着く先は何処なのか?

 それは誰にも予測が付かなかった。

 相変わらず短いですねえ。盛り上がりも無いし。

 あと体調不良の為、一週間ほど更新を休みます。

 あまり長くお待たせしない積りではありますが。

 感想と評価もよろしくお願いします。

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