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another real 現実か否か  作者: DELTA1
第二章 全ては流れ行きて
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第十四話 焦燥

「人間の想像力は、大抵の場合は不幸な方面に縦横に発揮されるのだ。それは生物として当然の事でもある。それこそが危険を回避するための第一歩なのだから」


 ある心理学者の一言より。

「動きが有りませんねえ」

 ベッドに腰掛けて、ホームから持ち出した某水星をグラスで飲んでいるリーアが話し掛けてくる。

 彼女はどうやらこれが大層気に入った様で、途中で手に入れた自分用の水筒に、常にこれを入れていた。

 もう一方の炭酸飲料はお気に召さなかったらしく、一口味見をして以来ボトルに触れようともしていない。

 場所は無論の事「青の高原亭」の一室であり、あれから三日が経っているのだが、午後の喧騒に満たされている王都には何の変化も見て取れない。ある意味拍子抜けと言うべきだろうか?

「そうでもないさ」

 片やベッドに寝転がっている洸は、油断するなとばかりに答える。

「恐らく連中が帰って来ない事が分かっても、あの日は何もしなかっただろう。どこかにそのまま遊びにでも行ったんだろうとね。だが次の日になっても戻らないとなると、当然捜索が始まっただろう。そして北の森であの死骸を見付ける。かくて大騒ぎが始まる訳だが、そうなると別の問題も発生するんだ。あんな冒険者しか入らないような森の中で、連中は何をやる気だったのかと言うね」

 宙を見つめながら、さらに続ける。

「あいつらは自分たちのやった事を家族に自慢できる訳が無いから、知っているのがルベル伯だけだというのは確かだろう。街で聞いてきた話でも責任者は伯だそうだからね。だが伯は真実なんか話せない。実は冒険者狩りをやっていましたなんて、言える訳が無いんだ。よって死んだ連中の親族に突き上げを喰らいながらも、堂々と騎士団を動かしての捜索なんか最初は出来ない。今は裏で調整中って所だろうな」

 洸の話を聞いたリーアは一応納得したようだが、サイドテーブルにグラスを置くと、質問を返してきた。

「なら近い内に本格的な捜索が始まるんですね?」

「ご名答」

 洸も苦笑いと共に答える。

「ただどういう理由を付けて僕達を尋問する気なのか、それが疑問かつ興味をそそるねえ」




 その頃、ルベル伯爵邸の一室で、ルベル伯爵ガイアスは頭を抱えていた。

 老境に差し掛かっている肉体は別段不健康そうには見えないが、ここ数日で一気に老化が進んだように見受けられる。 

 理由は勿論のこと北の森で見つかった次男を筆頭とした「狩人部隊」の件だ。

 何しろ自分の息子だけならまだしも、他の貴族の子弟である十七名の死骸まで見付かっている。

 いや、死骸と呼ぶには余りにも凄惨な有り様だった。何しろ手足の無い者はおろか、信じがたい事に頭部が丸ごと無くなっている者までいたからである。

(一体あの場所で何が起こったのだ?)

 ガイアスの頭の中は、その回答を求めて煮詰まりそうになっていた。


 騎士団顧問という地位にあるルベル伯爵ガイアスであるが、実は彼自身は騎士団に所属した事は無い。

 本来は文官でありその職責を大過無く勤め上げた彼に、国王が隠居までの腰掛として用意した立場なのだ。

 跡継ぎである長男は何の問題も無く後を任せられる人格と才能があるが、次男が彼の悩みの種だった。

 ビルゾンは容姿は優れてはいるが、その内面にかなりの問題がある次男でもあった。

 自身の生まれを鼻に掛けて平民を見下す態度が、まだ幼少の頃から発生していたのである。

 それは年齢を重ねても、治まるどころか逆に増大した。

 ガイアスはそれを諌めるために騎士団に入れたのだが、結局は逆効果だった。

 次男は中々の武勇の持ち主だとガイアスは思っていたのだが、所詮それは親の欲目に過ぎなかったのだ。

 騎士候補生となったビルゾンは勉学と武勇の両面で、他の候補生に散々に叩きのめされた。

 貴族であろうが平民の出であろうが、候補生たちは今後の自分の人生を賭けている。つまりそれほどまでに目の前の課業に対して真剣に取り組む訳だ。

 しかも教官達は、候補生の出身など歯牙にも掛けない教育を、国王から命じられている。

 かくて同じ候補生として仲間意識が必然的に発生し、教育が修了する頃には同期生としてしか相手を見做さなくなるのが通例と化した。

 勿論、騎士団内では明確な配置と階級差があるから、任務中に露骨な真似をする馬鹿はいないが、そうでなければ打ち解けて歓談し合っているのは日常の光景となっている。

 それは騎士団を有効に運用する上で欠かせない条件の一つだった。

 だがそうでない異物も偶にはいる。

 それがビルゾンのような者達だった。

 通常なら候補生の段階で騎士団から蹴り出されているべきなのだが、父親の身分が高い者が多く、そう簡単には行かなかった。

 ギリギリで合格として騎士団に入れはしたが、すぐに単なるお荷物として序列の最下位に固定された。

 これで続くお荷物が入ってきていれば多少は慰められたかもしれないが、暫くしてからさらに状況が悪化した。

 四代目である現国王が、候補生の条件を厳しく改めたのだ。

 これはこのまま行けば、騎士団の頭数が増えているのに、与えるべき任務が底を着くという最悪の事態が招来しかねないと判断されたからである。

 こうして「狩人部隊」を構成する事になる二十三名は集まり、そしてそれ以上増えなかった。

 そして彼らは解消しようの無い鬱憤を溜めつつ、殆ど飼い殺しとしか言いようの無い日々を過ごす事となる。

 ガイアスは「狩人部隊」を新設して改善を図ったが、効果は長続きしなかった。

 挙句の果てに彼らは冒険者狩りを始め、色々と精神的疲労を覚えていたガイアスはそれを追認してしまったのである。

 という訳で今のガイアスは進退窮まった状況にある。

 解決策は見付からず、周囲からの、特に遺族からの突き上げは苛烈さを増しつつあった。

 だがどうすれば良いのか見当も付かない。考えれば考えるほど、泥沼に嵌まりつつあった。

 そしてふとある事に思い当たる。

「誰か居るか? ガルガを呼べ」


「ではお前も何も知らぬのか?」

「はい。閣下」

 呼び出されたガルガ、つまり食堂で洸とリーアに接触したあの商人らしき男は、額に止め処無く湧き出てくる汗を拭きながら答えた。

 小太りの体躯をそれなりに上物の上下で包んでいるが、それほど大した影響力を持っている訳ではない。ただ表にも裏にもそれなりに顔が効く程度である。

 今はその顔は元より、体中から冷や汗が湧き出てもいる。そこまでの事態になっている等、彼の想像の埒外だった。

「私はその二人が月光草の採取依頼を引き受けて、森へ向かったことを若様に報せただけで御座います。若様達に付いては行きませんでした。よってあそこで何があったかは」

「何たる事だ」

 当てが外れて、ガイアスは歯噛みをする。

(いや、待て。ならば)

「ガルガ、そやつらの居場所はつかんでおるのか?」

 唐突な質問にガルガはどもりながらも答える。

「はい、「青の高原亭」に泊まっている筈です。あそこは冒険者どもの常宿ですので」

「よし、ならば連れて来い。私が話を聞く」

「えっ? 伯が御自分でですか?」

 どうにも話に付いて行けないガルガだが、次の一言で納得した。

「だからこそだ。こんな話を他人に聞かせられるか。ならば自ら動くしかあるまいて」

「ははっ、では早速」

 出て行くガルガを一瞥もせず、ガイアスは今後の事を考える。

(とにかくその二人に話を聞かねばな。まあいざという時はそやつらを下手人として捕らえ、処刑してしまえば良いわ。そうすれば面目は立つ)

 どうにも物騒な事を考えつつ、視線を巡らせる。

 壁際の暖炉の上に、小さな肖像画が飾ってあった。

 次男ビルゾンの唯一の肖像画で、騎士団への入団を記念して描かせた物だ。

 その中の次男は、笑みを浮かべつつもどこか不満げな印象を見る者に与えている。

 内心をここまで書き出している画家を褒めるべきなのか、ガイアスは未だに分からない。

 そして分かっている事は……次男がもう二度と戻らない事だけだった。




 洸とリーアは夕食前にギルドに寄ってみようと「青の高原亭」の入り口を出たところだった。

 ギルドへと続く道の先に、あの商人らしき男が近づいてくるのを見付ける。

「コウ」

「さあ、来たぞ来たぞ」

 リーアの呼び掛けに答えるように、洸は迷惑そうな表情で呟いた。

 演目の続きが始まったらしい。

 ただしこの舞台には大まかにしか筋書きが存在しないのだが。

(鬼が出るか、蛇が出るか)

 男が向かってくるのを視線に捉えつつ、洸はどうにも胃の痛みを覚えていた。


 相変わらず短いですねえ。話も進んでないし。

 暫くはこんな調子で続きます。

 感想と評価もよろしくお願いします。

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