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another real 現実か否か  作者: DELTA1
第八章 欲求と結末
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第百二十七話 後援

「未来を見て、点を結ぶことはできない。

 過去を振り返って、点を結ぶだけだ。

 だからいつかどうにかして点は結ばれると信じなければならない」


 スティーブ・ジョブス

 それは実の所かなり唐突に訪れた。

 自分たちの部屋に帰ってきて、それからすぐにリーアとローザに若者達との会談内容を説明した洸は、正直な所けっこうな疲労感を覚えて、ソファの背に上半身をあずけて心身共にだらけていた。

「お疲れ様です、コウ。でも結局のところあの子達の事情がわからない限り、私達も手の打ちようがありませんね」

 右側から寄り掛かったリーアの優し気ではあるものの実に的確な要約に、逆側のローザも同意の返事を返す。

「同感ね。とは言ってもそれを調べる時間の余裕がないわよ。それなりの貴族の御家事情ともなると、かなりの手間がかかると見るべきね。ワタシだけではとても無理だし、この国に伝手もないからどれほど時が必要かすら分からないわ」

「だよねぇ」

 諦めの呻きを漏らす洸だったが、一度かかわってしまった以上は見て見ぬ振りもできない。

 しかし明かりも無しに真っ暗闇の中を行こうとするほど無謀にもなれなかった。

 まして自分やリーア達なら自力でどうとでもできるだろうが、護衛対象は年端もいかぬとはいかなくとも、世の中の肝心な所がなにもわかっていない少年少女たちなのだ。

 どう考えても先行きに不安が残ってしまうのである。

(どうにかして概略でもいいから、事情がわかればなぁ)

 そんな心の声に超自然的な存在が応えてくれたのか、部屋の扉がノックされた。

 リーアとローザはエルフらしくその笹穂耳をピクンとさせ、警戒の姿勢をとる。ローザは元の職業故といってよいが、リーアはリーアで以前の経験がこの行動を取らせていた。とは言ってもどこぞの阿呆なボンボンが下種な取引を持ち掛けてきた時のものだが。

 そして洸は扉の正面ではなく、横の壁に体をあずけながら口を開く。

 さすがに銃器は実体化させてはいないが、右手で握ったアーミーナイフを腰の後ろに隠しながらだった。

「どなたですか?」

「こんな遅くに失礼いたします。わたくしはあのお三方に関わりのある者です。どうかお話を聞いて頂けませんか?」

 間髪入れずにそれなりの年配とおぼしき声が返ってきた。

 これで地球のようにドアレンズがあったならそれを覗き込んでいただろうが、アースガードにそんな便利なモノはない。洸が注意しながら扉を少しだけ開けて、外を確認する。

 そこには声の様子を裏切らぬ初老の男性が一人立っていた。

 服装は誰もが旅人だと疑いもしない格好ではあったが、漂っている雰囲気はあきらかにいずこかの主持ちであると推測できるものだった。

 つまりは微妙に違和感を感じさせる人物でもあるのだが、洸としては別にその程度では変には思わない。

 人間は外見から与えられる所謂第一印象だけでは測れぬものであると、社会経験から悟っていたからであった。

 ましてアースガードでは地球世界と比較すると命の値段はまだ安い。

 外見だけで重要な判断をくだすのは、簡単に命取りになりかねないのである。

 よって一瞬だけは迷いつつもすぐに部屋に招き入れたのだった。


「それでお話はなんでしょうかね?」

 部屋に男性を入れてからリーアに香茶をいれてもらい、それがテーブルに置かれてから、洸はすぐに質問を口にした。とは言っても即座にその点について話してくれるとは微塵も思ってはいない。

 案の定彼は自分の身許も含めた前置きから話し出した。

「まずはわたくしが何者かから説明いたしましょう。わたくしはルゲイヒ家に仕えておりますルイスと申します。ファルステン様の側仕えを長年務めております」

「なるほど、とは言ってもあなたの言葉だけで、はいそうですかと即座に信用するのは無理ですね。何か証拠となりうるようなものをお持ちで?」

 受け取り方次第でどうにも失礼極まると言われても仕方のない洸の言い分に、ルイスと名乗った男性は顔色を変えるどころか嬉しそうに笑った。

「これはこれは、まだお若いのにしっかりとしていらっしゃいますな。貴方ほどの年齢の方というのは、大抵こういう話を大して疑いもせず信じてしまうのですが。そちらのお二人のお教えですかな?」

 そう話しながらリーアとローザを見つめるルイスに対して、リーアは可愛く首を横に振り、ローザは返答で答えた。

「いいえ、教えることが無いとは言わないけれど、こういう事はコウが自分で身につけたものよ」

 それに対してルイスはまだ嬉しそうにフムフムと頷きながら、話し出した。

「おっしゃる通りですな。我が主からの信任状もありますが、それを本物だと確認するにはこの国での伝手が必要でしょうし、冒険者の貴方方にはそれは難しいでしょう。なので別方面からで……」

 一旦息を切ると、ルイスは静かに続きを口にしだした。

「ファルステン様とレイラ様、それにジェイル様が、この町から数日の距離にあるビアデンという都市で行われる闇取引をつぶす為にお出かけになられたという情報でどうですかな?」

 それを耳にした洸は一瞬だけ目を見開いたが、それを戻した瞬間には口元に微笑を浮かべていた。

 リーアは少しばかり驚いているようだが、ローザは口元が少し歪んでいる程度で表情自体はさして変化は無かった。

「……お話を伺いましょう」

 ほんの僅かにだが身を乗り出しながら、洸は話の続きを促した。




 真田洸という人間は、ご都合主義というものをあまり好んでいない。

 小説やテレビドラマなら尺の話の都合というものがあるから気にもしないが、現実に己の身にそういうことが起こるなどというのはあり得ないと信じている。

 言い換えれば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()タイプなのだった。

 無論疑ってばかりでは地球世界で何故か存在する陰謀論者になってしまうから、状況を進めつつも気を抜かぬように努めてきた。つまりはそのままどうにかなってしまえば、あれは単なる考えすぎだったと自分を罵るだけで済むからである。独善的といわれればその通りだが、この程度は自分を持っていないと現実において何も決められなくなってしまう。つまりは両極端に陥らないようにするのが、彼の精神的支柱であると表現すべきだろうか。

 そして今の状況もその点では不思議なものではなかった。

 社会的階級が高くなると、つまりは何らかの政治的要素がからんでくると、偶然というのがかなり人為的に発生するものであるとフィクションから学んできたからだった。

 つまりは誰かが洸達やレイラ達より高いレベルから、つまりは洸達がいるのが海抜ゼロメートルの平地だとしたら、岡や木の上などの全体を見渡せる場所からこれを見守っているという事である。

 そしてそれをやっているのは、ファルステン達の実家の三家以外にはあり得ない。

 まぁジェイルはともかくとして、レイラもファルステンも恐らくだが家人には何も告げずに出てきたに違いあるまい。理由は当然反対されるからであるが、横槍を嫌ったというにも当然入っているだろう。

 だが現実は見事にこうなっている。

 恐らく家の方でもこの三人を気にかけていたのだろう。そうでなければここまで素早い対応は難しい筈である。

 子供というのは親というか年上の者に関して、色々な点で盛大に誤解をしているのはどこの世界でも変わらないようだった。自分がまだティーンエイジャーだった頃を思い起こして、洸は心の中で盛大に溜息を吐いてしまったのだった。

 だが現実にはこうやって見事なまでどう行動するのかを見抜かれていた。

 ジェイルたちは疑うどころかそんな事を考えてすらいないだろうが、真実はそんなものである。

 実際には子供を心配する単なる親心でしかないが、社会的地位が高いと影響もそれなりにでかくなってしまう。洸達もそういう点ではこの状況に巻き込まれた哀れな被害者と言えなくもないのだった。




「なるほどねぇ」

 ルイスの説明を一通り聞いた洸の漏らした一言には、色々な意味が込められていた。

 要は納得と諦観と呆れが入り混じった、実に複雑な代物が。

「はぁ、やはりコウの予想はあたっていましたねぇ」

 リーアも感心しつつもどこか呆れ気味に呟いていた。

 ローザは無言だったが、表情から似たような感情を抱いているのが丸分かりだった。

「そういう訳ですので、改めてお願いいたします。ファルステン様とレイラ様、ジェイル様の三人を守って頂きたいのです。勿論報酬は支払いますので」

「それは構いませんが、今回の話の黒幕は僕らが始末しなくよろしいので?」

 洸のその質問に、ルイスは何の躊躇もなく言い切った。

「構いません。あの者は司法の下での裁判において罰せられるべきですから。よって出来れば殺さないのは勿論ですが、自殺するのも止めて頂きたいくらいなのですよ」

「分かりました。その依頼お引き受け致しましょう」

 その発言に実に満足げな微笑を浮かべたルイスは、立ち上がってから優雅に一礼し、静かに部屋を出て行った。


 つい先日の場面を思い起こしながら、洸は正直なところ今後の予測がつかないでいた。

 知りたい事は最低限なりとも分かってはいる。

 だからと言って動き出した状況を全て把握するのは不可能であることも分かっている。

 よって臨機応変に、要するにその場その場で対応するしかないと思っているのだった。

 準備不足であるのは不満だが、人生では常に余裕が与えられることなどまれであるのも承知している。

 成るように成る。

 それも現実であると達観しているのだった。

 何とか書き上がりました。

 しかも何故か四千字近くにまでなって。

 一応回想シーンなんですが、何でこうなったのやら。


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