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another real 現実か否か  作者: DELTA1
第二章 全ては流れ行きて
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第十一話 平原

「常に相手の行動を予測し、その先を読め。それ以外に相手を出し抜く方法など無い」


 ある商人の言葉より

「断る」

 洸は問答無用とばかりに言い切った。

「えっ、ええ?」

 リーアがその返答にあたふたとしているが、洸はさらに続ける。

「重ねて言うぞ。お断りだ」

「理由をお聞かせ頂けますかな?」

 大して衝撃を受けていないらしい男は笑みを崩さず問い掛けてくる。

 その笑みが実に商人らしい胡散臭さに満ちている事に洸は気づき始めていた。

「僕たち冒険者に対する依頼は、常にギルドを通すのが筋だろう。そうでないならこの依頼は後ろ暗い所がある訳で、そんなのは以前のある件で懲りてるんでね。他を当たってくれ」

 見も蓋もない言い様だが、完全に本音だった。あの誘拐未遂ももちろんギルドを通さず受けた依頼だったからである。この手の依頼は報酬が良いのは確かだが、その分危険度も高い。あの時は金が無かったからこそ引き受けたが、今はそうではない。好き好んで危険を犯す必要性が一切無いのだ。

「無論、報酬は弾みますが」

「あんた、話を聞いてたか?」

 洸は呆れた口調で返事を返す。

「今は何が何でも稼がなきゃならないって状況じゃ無いんだ。危ない話は乗らない。以上だ」

「それは残念です。では」

 そういい残して、男は席を立つ。最後まで顔面に笑みを貼り付けたままで。


 事の成り行きに放心していたらしいリーアをはじめたのはその後だった。

「あのう、ギルドを通さずに冒険者に依頼する事って出来るんですか?」

 洸は憮然とした表情で答えた。

「可能だよ。ギルドは依頼人からの仕事をそのまま貼り出してる訳じゃないんだ。報酬の一部を使用して、危険度やその背景の調査をしてから、ボードに貼り出すのさ。危なすぎたり明らかに法に触れる依頼は、この段階で弾かれる。そうしないと金額に目が眩んだ初心者が死ぬだけだかね」

「はあ、成る程」

「で、そういう法的な意味で危険な仕事を冒険者に依頼したければ、今のように直接話を持ち掛ける訳だ。ギルドを介していないから実入りが良いのは確かだけど、危険度は比較にならない。あの誘拐騒ぎも僕はギルドを通さず受けた。そういうことさ」

 洸の説明を聞いて納得したらしいリーアは神妙に頷いていたが、ふと何か思い付いたのか質問を重ねてきた。

「じゃあ今の人も何か後ろ暗い事を私たちにさせようとしていたと?」

「そうさ、逆に言えばそうでなければ冒険者に直接接触しようとはしないんだ。ギルドの受付の人達は、殆ど全てが長年冒険者を見続けてきたベテランだ。依頼には難易度によってランクが有るけど、冒険者には格付けが無い。彼らの最も重要な仕事は、目の前の冒険者が持って来た依頼を達成可能かどうか見極める事なんだ」

 グラスの水を飲んで、喉を湿らせた洸はさらに説明を続ける。

「この安全措置を飛ばして何かさせようって事は、それだけ危険だってことさ。少なくとも僕はやりたくない。当分はね」

「分かりました」

 リーアもどうやら納得したらしい。

「では明日は」

「うん。簡単な依頼を、何かの採取をやって地道に稼ごう。まあその前に君の武器を見繕わなきゃな。レイピアで良いんだっけ?」

「ええ。一番得意なので」

 そんな会話をしつつその日は過ぎていった。




 王都の一角にある重厚な造りの屋敷。その一室である会話が交わされていた。

「ふむ、標的が見つかったか」

「はい、若い男の冒険者とその連れが。しかもなんとエルフの女です」

「それは素晴らしい。だが大丈夫であろうな?」

「それは勿論。最初の話には引っ掛かりませんでしたが、どうやら別の簡単な依頼を受ける気のようです。ならば誘導は容易です」

「ならば良い。久々の狩りだ。せいぜい息子達を楽しませてくれると良いなあ」

「はい、閣下」




 次の日、洸とリーアは王都北部のだだっ広い平原の中を、北に向かって歩いていた。周囲はちょっとした植生がある他は見事に何も無い平原が広がっている。行く先に森が見え出しているが、それでもまだまだ遠い。

「ええとあの北の森から月光草を採ってくれば良いんですね?」

「そう。月光草は夜光灯の触媒になるから、依頼が途切れる事が無いんだ。冒険者の手始めとしては最適なのさ」

「そうですか。でもここって何なんですか?」

 どうにも何も無い平原にリーアは面食らっているらしい。洸はギルドで仕入れた情報を披露した。

「どうやら大昔の激戦場跡じゃないかとされてるんだがね。詳しいことは分かってないらしい。この広さを利用して騎士団がよく演習をやってるんだそうだ。今日はその予定が無いから真ん中を突っ切って行けるけど、そうじゃなければ大きく迂回しなけりゃいけなかった」

「はあー」

 あたりをキョロキョロと見回しているリーアの反応に仕方が無いよなあと思いつつ、洸は進んでいく。

 太陽が完全に顔を出してからさして経っていないためか、まだ微妙に肌寒い。

 季節が本格的な冬? になるのはこれかららしいが、もし雪が降るような事があれば何処かに一時的な拠点を構えることも考慮しなければいけないだろう。

「そういえばさ」

「何ですか?」

 洸はいい機会なのでこの点についてリーアに聞く事にした。

「この世界の暦……というか時間の流れってどうなってるの?」

「ああ、それはですね」


 リーアの説明によればこういう事である。

 一日は二十四時間であり、これ以下の単位は地球世界と同じ。一時間や何秒という単位も普通に使える。

 違うのは一年が三百六十日であり、それに準じて十二に分けられた月は一月が三十日と全て決まっている。

 表記は一月だの七月という洸にとって見慣れた表現だが、これは正確性を期した物なので普段は使わず、大抵は奇数を青、偶数を赤として、青の一月=通常の一月、赤の三月=通常の六月という風に使われている。

 季節は厳密な区分けが無く、暑さが厳しくなってくると夏で、雪が降り始めれば冬(ベルド大陸は場所によって差はあるが常に雪が降る)とかなりいい加減だった。

 洸に言わせるとこの手の事に最も人生を左右される農業従事者はどう考えているのか不思議だったが、分からない事は気にしないと決める。それがここの人々にとって文句の無い暦ならば、自分がけちを付けるのも筋違いだと判断した。

 そしてさらに関連事項について質問しようとした時である。


 いきなり馬の嘶きが聞こえ、馬蹄の音が近付いて来た。

「な、何だ?」

 洸の疑問の呟きも当然である。ギルドで今日は騎士団の演習は無いと聞いていたからこそ、この平原の真ん中を北に向かっているのだ。職員が嘘を吐く理由が無いが、では目の前に迫ってきている騎馬の群れは何なのだろう?

(いや、演習にしてはおかしいか)

 洸はある事に気付いた。数が少な過ぎるのだ。せいぜい二十騎ばかりしかいないのでは、本格的な演習では無いだろう。誰か騎士団のお偉いさんが突発的に始めた小規模なモノではないかと推察する。

 それを裏付けるように騎士達は馬を降りると、洸達を半円に囲む様に整列する。やはり数は二十人に満たず、目算で十八人。全員が磨き上げられた全身鎧フルプレートで身を包み、同じく手入れを怠っていないであろうロングソードを腰に佩いている。フルフェイスの兜のおかげで顔は見えないが、そんな事はどうでもいい。洸はこちらの正面に立っている指揮官らしき騎士に告げる。

「どうも失礼しました。僕等は単なる冒険者です。演習があるとは知らずこちらに来てしまったのです。早急に立ち去りますので、どうかお許しを」

 ところがそれに対する騎士達の反応は異常だった。可笑しくて堪らないとばかりに、笑い声が漏れ出したのだ。

 洸もリーアもさっぱり状況が掴めない。たまらず洸は指揮官に質問しようとしたが、その指揮官はゆっくりと兜を脱いだ。

 現れた顔はいかにも騎士に相応しい甘いマスクだったが、口元に笑いを浮かべていてそれがやけに醜悪に感じられた。

「あの、これは一体?」

「誰が質問を許した。この下郎が」

 洸の質問に対する返答は、理不尽極まりない罵声だった。意味が分からず立ち尽くす洸に、指揮官は薄ら笑いと共に続ける。

「まあ慈悲として死ぬ理由くらいは教えてやろう。貴様らは狩りの獲物に選ばれたのだ。光栄に思うが良い」

「「はああー?」」

 洸とリーアは全く同じ反応を返した。

 


 短いですが続きを投稿します。

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