第2話 幼馴染みは必須ですよね
<第一話・可愛い幼なじみは必須ですよね?>
「け~え~く~ん! 学校行こう~♪」
4月13日月曜日。
よく晴れた、春のぽかぽか陽気の朝のこと。
西都家の玄関に、小さな女の子の可愛らしい声が響く。
「あらあら、凛ちゃん。わざわざお迎えに来てくれたの。ありがとうね。」
玄関を開けて出て来たのは、エプロンを着けた美女。
西都家の母、「西都 花梨」である。年齢は29。まだまだ若々しく、近所でも評判の美人妻である。
そして、赤いランドセルを背負ったこの少女は「南 凛」という、西都家の隣家、南家の長女である。ついこの間入学式を終えたばかりの小学一年生。
艶やかな黒髪をいわゆるツインテールに結び、可愛いリボンで二本の尻尾をくくっている。
ぱっちりおめめのとても可愛らしい少女だ。
「敬~、凛ちゃんが迎えに来たわよ~。早くおいで~!」
「はいはーい、今行くよー!」
だだだっと足音を鳴らして玄関から顔を出したのは、西都家の長男「西都 敬」だ。
いかにも少年らしいキラキラした瞳。利発そうな顔立ちと一年生にしてはそれなりに高い身長を持つ少年である。
「おまたせー。じゃ、いこっか。」
「うん。花梨さん、いってきまーす♪」
「お母さん、行ってくるね~」
「はい、行ってらっしゃい。車と不審車に気をつけるのよ~」
「はーい」
「まぁ、気をつける意味ないんだけどね・・・」
仲良く歩いて行く二人の姿を見送りながら、花梨はぽつりとそう呟いた。
この街は、都会と言うには小さな街で、暮らす人達もなんだかどこか垢抜けずのほほんとしているし、田舎と言うには十分住み良く、大きな都市からもさほど離れていないため田舎くさいと言うほどでもない。
良くある衛星都市の一つである。
その時だ。
歩道を並んで歩いて行く二人の後方から、一台の大きなトラックが猛スピードで走ってくる。どうやら運転手は居眠りしてしまっているらしく、全くスピードを落とす気配もないし、運転する車が歩道に向かって突っ込んでいこうとしていることにも気がついていない。
何より、歩道を歩いている二人も全くそれに気がついていないのだ。
このままなら間違いなく大惨事で明日の朝刊のどこかのページを飾るだろう。
「あ!」
まさにその時、敬の背負っているランドセルに着けられていたサッカーボール型のキーホルダーが「何故か」外れて転がっていく。
それを慌てて追いかける二人。
二人がついさっきまで歩いていた所をトラックが通り過ぎていく。
そして街路樹に衝突。
突入角度のせいか軽く進路を変えながら、次々と街路樹を薙ぎ倒していくトラック。最終的には道路で180度回転して、横転することもなく止まった。
「うわ、事故だよ、凛ちゃん!」
「大変だ!」
二人はボール型のキーホルダーを首尾良く発見すると、動かなくなったトラックに近づいていく。
「大丈夫ですか~?」
「運転手さーん、大丈夫ですか~?」
それを見ていた大人達が騒ぎ出す。
「救急車だ!」
「警察呼べ、警察!」
「君たち、怪我はないかい!?」
離れた所から見ていた大人達が駆け寄ってくる。
「ああ、良かった。あのままだったらこの子達はトラックにはねられて命は助からなかっただろう。」
誰もがそう思っていた。
どうやらトラックの運転手も死んだりはしていないらしいし、一歩間違えば大惨事になっていたはずの事故が、このぐらいで済んで良かったと誰もが胸をなで下ろしていた。
偶然、キーホルダーが外れて転がらなければ、二人は死んでいただろう。
偶然街路樹によってトラックの進路がズレなければ、トラックの運転手は死んでいただろう。
偶然トラックの進路がズレなければ、歩道沿いの民家はトラックに突っ込まれて大変なことになっていただろう。
何という幸運な偶然!
だが、彼にとって、いや彼の周りにいる人たちにとって、こんな偶然は「当たり前」だったのだ。
西都さんのとこの敬君、トラックに突っ込まれて死にかけたらしいよと言われた時、母である花梨はにっこり笑ってこう言ったそうだ。
「あ~、敬君だからね~。トラックの運転手さんも多分助かったでしょう?」
少年、西都敬にはその程度のことでしかない。
生まれたからまだ7年の少年には、そうした逸話は枚挙に暇が無いのであった。
事故に遭いそうになったことなど数知れず。
しかしその事故によって不幸に見舞われたことなど一度も無い。
何かを選べば必ず大当たりを引き、「なんとなく」であらゆる危険を回避する。
選べない事柄ですらも、何故か彼に都合のいいように運命は回る。
「敬君は、ホントに運がいいのねぇ。」
なんていうレベルを超越した「幸運の申し子」、それが西都敬なのだ。
「敬君、学校遅れちゃうよ?」
「あ、そうだった! 早く行こう!」
思い出したようにそう言って、二人は手を繋いで学校へ駆けだしていった。
「セーフ!」
「セーフ!」
二人はギリギリ教室へ滑り込んだ。
ここは二人の通う公立の小学校。ちなみに1年1組である。
土地柄か、入学前から見知った顔も多く、全体的にフレンドリーな空気が漂う学校だ。
「おそかったねー」
「なにかあったのー?」
クラスメイト達が猛ダッシュで駆け込んできた二人を不思議そうに見ながら言う。
二人とも幼稚園時代からずっと優等生なため、ギリギリに登校してきたのが不思議なのだろう。
「学校に来る途中でトラックの事故があってね~」
「びっくりしたよね~」
ねーっと顔を見合わせる二人。
「敬ちゃんも凛ちゃんも大丈夫だったの~?」
「大丈夫~。だって関係ないとこに突っ込んでいったもん」
「へぇ~、よかったね~。やっぱり敬ちゃんは運がいいんだね!」
昔からお付き合いのある子には知れ渡っているラッキーさだった。
「はいはいー、みんな座ってー! 朝の会だよー!」
「あ、先生だ。おはようございまーす!」
「はい、おはよう。座って座って-!」
みんなが自分の席に着くと、朝の会が始まるのだった。
今日も概ね平和な一日の始まりだった。
次はいつになるか不明です・・・。