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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

死んでヤンデレから解放されたと思ったら気のせいだった

作者: 大竹下

恋愛ものなのかダークなのかよくわからない作品ですが、読んで頂けると幸いです。



全くの不可抗力だった。



どこにでも転がっている話。

信号を渡ろうしたところで、携帯で話し中だったトラックの運ちゃんが突っ込んできた。

たったそれだけの話。

たったそれだけの話だったが私は死んでしまったのである。


痛みもなかったし悔いもなかった。

むしろ喜ばしくもあった。

これで私は何者にも脅かされることなく、何も強要されることもなくなるのだから。




―――――以上。ある女の死ぬ直前の回想終了。





「ああっ、おかえり。待ちくたびれたよ。会いたくて寂しくて発狂するかと思った!」


「・・・・・。私、死ななかったっけ。」


「うん、死んだね。」


それがどうかしたかい?とでも言いそうな顔をして蕩ける様な笑顔で目の前の男は答えた。


違うだろ、その笑顔はこんな場面で使う様な笑顔じゃないだろ!


「一応聞く、何したの。」


いや、聞くまでもない質問だった。

部屋をぐるりと見渡してみると、どうやら男の部屋のようである、多分。

何故断定出来ないのかというとその部屋の異様さ故であった。


部屋の窓はすべて遮光カーテンで覆われ、一筋の光も入れるものかというくらい隙間が出来ないようにガムテープで留めてある。

電気はついて無く、部屋の四隅にキャンドルなどという可愛らしい言葉で表現してはいけないようなゴツイ蝋燭が燭台で火を揺らめかせている。

部屋は生臭く鉄臭い、部屋の真ん中で焚いているお香らしきものと臭いが混ざり合い、呼吸を躊躇うほどの異臭がする。

死人が呼吸するのかと自分でも一瞬考えたが、しているのだからそういうものなのだろう。



そして一番異質な物。

床一面に図形や文字の様なものが何か“赤茶けたモノ”で描かれている。

いや、うん。

ちょっとオブラートに包んでみたが、簡単に言うと”床一面に血で描かれた魔法陣みたいなものがある”だ。



「ふふふっ、ふふふふふふふふ。僕もね、迷ったんだよ。このまま後を追いかけようか・・・ってね。

でもね、もし僕も死んだとしても同じところに行けるかどうか分からないし、

転生なんかしちゃってたら見つけるのに時間がかかるかもしれないだろう?

ああ、安心して!転生しようが天国と地獄で分かれようが僕は絶対見つけ出すからね!」



違う、そういうことが聞きたいんじゃない。

っていうか、えっ?

私ここで召喚されなくても結局バッドエンドしか設定されてなかったの?



「っと、質問に答えてなかったね。ごめんね、僕興奮しちゃってるみたい、ふふっ。

”何をしたか?”だよね?いいよ、教えてあげる。

僕はね、彩、君を悪霊にして、僕に憑依させたんだ。」



男はまるで幼子が自慢げに、こっそりと、自分だけの秘密をうち明かすように答えた。



「あ、くりょう?ひょうい?」

頭の中を2つの単語がぐるぐる回る。



「つまりね、彩はもう僕から離れられないし、逃げる事もできない。

言うなれば一心同体ってヤツかな。ふふ、いいね、この響き。ゾクゾクする。

彩のことは僕以外誰も見えないし声も聞こえない。

さわれないのは僕もだけど、ずっと一緒にいれるから、それぐらいは我慢するよ。

・・・死んだって聞いた時は絶望しすぎてどうなるかと思ったけど、結果オーライだね。」



ぼく、いま人生の中でいちばんしあわせ。


世界中の幸福を独り占めしたかのように微笑みながら、触れられないくせに抱きしめる様な仕草をした。






――――――――――――――――――――



幼いころの奴は今と違い天使のようだった。

サラサラの黒髪にくりくりの瞳。

ぷっくりと桜色に色づいた頬っぺたに紅葉のような手。


周りの子どもより一回り身体が小さく、気も小さかったのか何か起こると直ぐ、おろおろしながら目を潤ませる。

・・・そんな子どもだった。


私はそんな奴をペットを扱うかのように構い、遊びに行くときもつれて歩くようになった。

その内、私の後ろを、ぽてぽてと擬音が聞こえるかのような足取りであやちゃん、まってあやちゃんと私の名前を呼びながら着いてくる奴を気に入っていた。

愛いやつめと頭を撫でくり回せば天使の様な顔をへにょりと崩し、嬉しそうな顔をする奴にきゅーんとしたことも一度や二度ではない。


今なら言える。あれは、確かに、恋だった。



しかし、時間は一瞬の内に私の天使をかっさらって行ってしまったのだ。





「ねえ、なんで昨日おうちにいなかったの。」


「えっ、昨日?けんちゃんとまゆちゃんと探検ごっこしてたから。」


「なんで?」


「は?」


「なんでぼく以外とあそぶの。」


「・・・なにいってんの?」


「ぼく以外となかよくしないで、ぼく以外とおはなししないで!」


普段からおとなしい奴が急に声を上げたので私はびっくりしてしまった。

「い、いみわかんない!わたしがだれと何しようとわたしの勝手でしょ!わたしかえる!」



今までにも何回かちょっとした我儘を言うことはあった。

それでも本当にちょっとしたことだったし、

我儘が通らず喧嘩になりそうになっても悲しそうな顔をするものの、すぐに


「ぼくが悪かったね。ごめんね。」


と言って折れるのは奴の方だったのだ。



きっと今日は機嫌が悪かったんだ。

それに、誘わないで3人で遊びに行ったから拗ねてたのかもしれない。

明日になったらわたしの方からごめんなさいして4人で探検ごっこしよう。

3人で行ったときに見つけた、きれいな石がいっぱい落ちてる場所を教えてあげたら機嫌も良くなるに違いない。


まず明日、どうやって声をかけようか。

そんなことを考えながらわたしは布団の中で目を閉じた。




そして次の日、いつもみんなが集まる公園のブランコに一人でうつむいて座っている奴を見つけた。


「おーい、おはよう!きのうはっ・・・」


ごめんねという言葉は後には続かなかった。


奴の両腕には指先以外肌が見えないくらい、

グルグルに包帯が巻かれていた。


「どっ、どうしたの!?ケガしたの!?だれかにイジメられた!?わたしが先に帰っちゃったからイジメられたの!?」


私が慌てて走り寄り問い詰めると、奴はゆっくりと顔を上げた。

それは、いつもの目じゃなかった。

いつもの焦げ茶で、覗き込むと吸い込まれそうな瞳ではなくなっていた。


透明感の欠片もない、どろどろと濁った瞳がそこにあった。

目があった瞬間、そのどろどろの瞳から全く不釣り合いなほどきれいな涙がぽろぽろ落ちる。


「あやちゃんは、もう・・・、もう、ぼくのこときらいになった・・?ぼくは、もういらない?」


一晩中泣き明かしたのだろうか、鼻声の声が掠れている。まぶたも腫れぼったく重たそうだ。

腕の包帯と相まってとても見れたものではなかった。


「きらいじゃない、きらいじゃないよ!すきだよ!いる!すっごいいる!」


これはヤバい、早く泣き止ませなくては、と必死に「すき」と「いる」を連呼した記憶がある。

やっとの思いで泣き止ませたが、まだ難問が残っている。


「うで、どうしたの?」


「みたい?」


「え、いやべつに。」


痛そうなケガなど好き好んで見たくはない。

だが、私の返事を聞く前に奴は自分の包帯をほどき始めた。


「ひっ」


幼い私にソレはショッキングすぎた。

包帯が巻かれていたところを余すことなくびっしりと無数の引っかき傷があった。


大きいのから小さいの。

深そうなのから浅そうなの。

もう瘡蓋になっているもの真っ赤に腫れて蚯蚓腫れになっているもの。


傷自体が熱を持ってしまっているのか、奴の腕は腫れに腫れまくり普段の2倍の太さになっていた。

そしてそのほとんどが4本線が平行に並んでいて、その始点にくい込んだ三日月は明らかに子どもの爪のサイズだった。



「そ、それ・・・。」


「えへへ、ぼく、きらわれちゃったって思ったから、もうそんなぼくなんていらないやーって。やっちゃった。」



違う。そのセリフは照れたようにはにかみながら言うセリフではない。


「・・・自分で・・・?」


「うん!ごめんね。ぼくはやとちりしちゃって。でも、もう大丈夫だよね。

だってぼくのことすきって、必要だって言ってくれたもの。だから・・・。」


私はその時生まれて初めて“恐怖”というものを知った。





「だから、ぼくがいればほかのこはいらないよね?」







―――――――――その後、奴は、私が奴意外と接した次の日には必ず傷だらけになって私の前に現れるようになった。

そしてその度に決まって言う。

「もう、ぼくはいらない?」


奴が自傷でつける傷は年を重ねるごとにエスカレートしていった。

最初の引っかき傷から打僕、切り傷、火傷、一番記憶に新しい傷は骨折だった。

道を聞かれて答えた。

ただそれだけだった。

それだけで奴は自分の利き腕を折ったのだった。



奴が勝手にしていることだ。

どうなろうと知ったことではない。


と私が突き放すことが出来ないのは、あのロクでもない男を私が少なからず愛してしまっているからだろう。


――――――――――本当に、初恋とは厄介なものである。








―――――――――――――――――――――――――――――――




「・・・・・・4歳の私にビンタしたい。」



何故私はこんなことになってるんだろう、と考えてみた。

そうすると、原因は4歳の私にある。という結論に達した。

あの時奴と出会わなければこんな人生にはならなかったはずなのだ。



「なに言ってるの。いくら彩でも、僕の天使に手を出したりしたら許さないよ。」


「意味分かんない。それどっちも私だから。」

天使だった奴が何をほざいているのだろう。


「過去現在未来全てひっくるめて愛してるってことだよ!因みに、もしそんな機会があって、彩が実行してしまったら僕、片目ほじくり出すからね。」


「グロっ、キモっ。」


「ふふっ、彩が思う百万倍は軽く超すぐらい愛しちゃってるからね。下手すると彩を抱きしめてる自分の腕にさえ嫉妬するほどにね。」


全く理解が出来ない。

「・・・・・・・・病気だね。」


「そう!不治の病なんだ。薬がないと発作が治まらない。だから、ずうっと傍にいてね。」



奴は天使だったころの面影を残しながらへにょりと顔を崩した。







―――――――――






ヒトの寿命は延びてきているとはいえ80前後。

奴が死ねば私を縛る力もなくなるだろう。

輝かしい未来の為、数十年くらい我慢してやろうじゃないか!







「あっ、僕が死んだら幽霊どうし、今度は触れあいながらいちゃいちゃしようね!」














・・・・・・・・・・あれっ、私詰んだ?











おわり

初めて恋愛ものを書きました。(ちゃんと恋愛ものになっているのかは置いとく)

ヤンデレは書いてて楽しかったです。


機会があれば小ネタ詰め合わせ的なものをアップ出来たらいいなとおもいます。


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[良い点] ヤンデレの男子がちょっと怖かったけど、面白かったです! [一言] 小ネタ楽しみにしてます!
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