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火災

主人公以上に、塁の性格ってブレブレなことに気付きました。

対等な関係の悪友や親友の書き方って難しい。


「あれ、初夏じゃないか」

「ひ、飛翔さんじゃないですか! 奇遇ですね、こんな場所で! 運命を感じます!」

「大げさな奴だな。単にお前がぼくの学校の文化祭に来てくれただけだろ?」

「そ、それもそうなんですが」

「じゃあむしろ必然だろ。偶然なんかこの世界にはないんだよ。起こるべくして、何事も起きるんだ。そこに悪意がない限りはな」

「なるほど」

「納得するなよ。こんなのただの持論で、戯言だ。説得力なんてない」

「そんなことありませんよ。少なくとも私は納得しました」

「……お前は一々ありがたいな。そういう部分が好きだよ」

「す、すすす、好き?」

「それより、初夏。一人なのか?」

「それよりって……いいえ。みいら様や階段様と一緒だったのですが、はぐれてしまいまして」

「今ちょっと怒った? 何で?」

「いいえ、何も怒ってなどいません」

「いや絶対に怒ってるけど……まあ、初夏。この先に壱圏さんや春夏や凪茶が固まっているから、そこにいろよ。二人を見かけたら行くように言うから」

「そうですか、分かりました。ありがとうございます」

「いいさ。どうせついでだ」

「ついで?」

「ああ。今、絆の奴を探していてな」

「…………」

「武士さんもいるから紹介するつもりなんだ。ああ、知ってるか、武士さん。新しい『双堀』の……」

「飛翔さん、あそこにいるの斑崎さんでは?」

「え? どこ?」

「すいません。見間違いでした」

「いいさ。じゃあ待ってろよ。後で好きな物おごってやるから」

「いえ、私におごらしてください。傘のお礼、まだ返していませんし」

「傘って。よく覚えてたな、お前」

「…………飛翔さん、覚えていて、くれたんですか?」

「自分が覚えてたのにぼくが忘れてないことに驚くなよ。あの傘、まだある?」

「はい、今度、お返しします……」

「そっか。じゃあな」

「はい」





 唯原飛翔と敷石初夏が別れた頃。

 近くで別の二組が再会していた。

「みいらちゃん」

「葛葉さん」

「かっちゃん、おひさー」

「オッス、あっちゃん」

 唯原葛葉、唯原茜と満礫みいら、屍笞階段である。

「いいの? 『十戒家』当主が二人、護衛も無しにこんな場所をうろついて」

 そう言う葛葉だが、さして咎める口調でもない。

 言われたみいらも楽しそうに返す。

「いいんですよ、葛葉さん。てか、極地君や武士も来ているんですから私達が来ちゃいけない理由はありませんよ」

 子供二人も会話する。

「かっちゃん、元気そうで何よりだよー」

「そりゃこっちの台詞だぜ、かっちゃんよ。例の件を聞いた時、俺の心臓は飛び出るかと思ったんだからな」

「ごめんね。でもお兄ちゃんがどうにかしてくれたからさ」

「飛翔が兄ちゃんってどんな感じ?」

「最高だよ。でも、兄妹だと恋人にはなれないんだよねえ」

「すげー台詞を言った自覚あるかい?」

「それよりかっちゃん、前に遊園地行った時より可愛い服着てるね」

「言わないでくれ」

 階段は心底憂鬱そうに溜め息を吐き、他の三人はそんな階段の様子を温かい目で見る。

 今の階段の服装は、暖色系のワンピース。髪は太い三つ編みになっていた。普段の海賊コスプレしか知らない人間が見れば、同一人物だとさえ気付かないだろう。

 ちなみに、飛翔や茜と遊園地に行った時の服装は完全に男装だった。

「こ、これはみいらおばちゃんに無理矢理着せられたんだ!」

「あーら、階段ちゃん。嫌がりながらも実は女の子らしい服に興味津々だったじゃない」

「うるせえ! 人を着せ替え人形にして遊びやがった癖に! あと、着せるだけならあんなにセクハラする必要はなかっただろうが!」

 本気で抗議する階段だが、みいらはどこ行く風だ。

「それにしても、みいらちゃんや極地が当主かぁ。時代の流れ以上に、自分が年を取るのを感じるなぁ」

「あれ? 俺の抗議タイム終了?」

「何言ってるんですか、葛葉さん。葛葉さんだってまだまだ若いじゃないですか。何ならまだ結婚だって十分いけますって」

「結婚かぁ。そう言えば、私って極地や明時や飛翔を育てて、今から茜ちゃんを育てるけど、結婚したことはなかったなあ。ま、それは死んだ姉さんも同じか」

 葛葉は苦笑する。

 そもそも、『唯原』や『守永』には、過去の歴史を見ても『婚姻』という行為をした人間が稀だ。ここ百年の間では、守永明時の両親くらいだろう。その二人にしても既に他界しているが。

「難しいかな、結婚は。特に、極地と飛翔はうるさいと思う」

「明時の兄ちゃんは違うのか?」

「あの子は、あれだから。好き勝手な道化師を演じているけど、自分の感情より他人の幸福を優先する良い子だから」

「ですねー。きっと、葛葉さんにウエディングドレスを着て欲しい一心で自分の意見を殺しますね」

「うわあ、不器用な兄ちゃんだな」

「しょうがないよ。お兄ちゃんの兄ちゃんだもん」

 壱圏極地、守永明時、唯原飛翔。

 立場や役職や思惑は違うが、この三人の根本は似通っている。

 そして、その根本を作り上げたのは、他ならぬ唯原葛葉だ。

「ともかく相手を探さないとね。でもこんな狐を嫁にもらってくれる人なんているかな?」

「何じゃい。狐に問題でもあるのですか?」

 突如として、四人の前に十歳前後の金髪少女が現れた。その少女を制服姿の少年が肩車していた。右手には腕章があり、『生徒会役員』の文字。

「……って、るーいん」

「正体がバレてもあだ名続行ってことは、その性格はキャラじゃなかったんだな」

 少年の名前は麻川塁。五食同盟所属の殺し屋。ちなみに、葛葉と階段は初見、みいらに関しても会うのは二度目だ。

 そして、少女は雨華。金髪を除けば普通の少女に見えるが、その正体は狐の妖怪である。訳あって塁が引き取ることになった。

「えっと、俺は麻川塁。一応は五食同盟所属だ。飛翔からは間の悪い殺し屋って呼ばれてる。ああ、アンタらの自己紹介は不要だぜ。茜を除けば裏世界の有名人ばっかだし、話はボスや飛翔から聞いてるから」

「それで、その殺し屋君が私達に何用かしら?」

 茜を除く三人が警戒態勢に入った。いくら明時や飛翔の身内と言っても、相手は殺し屋。標的でないにしても、何故声を掛けたのか。

 そんな警戒を知ってか知らずか、塁は軽い感じで言う。

「実は生徒会の仕事があるって言ってクラスの手伝いサボってたけど、バレてよ。罰として宣伝に回ってんだ」

 見れば、塁は背中には『二年四組 激辛カレーうどん!』という看板が背負われていた。

「つう訳で、よろしくな。口直しにヨーグルトアイスも売ってるからよ」

「美味いよ!」

 雨華が元気に叫ぶ。

 おそらく雨華を肩車しているのも目立つからだろう。背中には看板、肩には金髪少女。注目間違いなしだ。

「校門側で絶賛販売中なんで。じゃ、失礼しますぜ、満礫館長殿、屍笞署長殿、唯原殿。茜、またな」

「さらばじゃ」

 塁は踵を返し、雨華は手を振りながら、立ち去って行った。

「何だったんでしょう」

「さあ。よく分からない子だったね。あの少年、飛翔の何?」

「悪友だってさ」

「聞いた話だと『赤闇一族』の生き残りらしいですよ」

「そりゃ絶滅危惧種だね。そんな子と友達とは、不思議な人間関係を持っているね、私の息子は」

「身内としてはあまり歓迎出来ない交友関係ですがね」

「ひどい言われ様でんな」

「わっ!」

 立ち去ったはずの麻川塁がそこにいた。相変わらず雨華を肩車したままだ。

 その再登場に、全員が驚いた。

「……明時君や飛翔君は、『間の悪い殺し屋』だとか『馬鹿』だとか『残念な奴』だとか言ってたけど、とんでもない新星だったりするのかな? 君は」

 この場には『十戒家』当主が二人と『狐』唯原葛葉、『酒呑童子』の娘である茜がいたというのに、その接近にさえ気付けなかった。塁だけでなく、雨華の気配さえ感じなかった。

 こんな真似が出来る人間が、一介の殺し屋であるはずがない。

 みいらは塁を初見で、『普通』だと判断したが、どうやら間違いだったようだ。

「考えてみれば、明時君が選んだ逸材だものね。普通な訳ないか」

 しかし、塁は肩を竦めて、おどけるだけだった。

「いえいえ、満礫殿。俺は雑草みたいにありふれて、雑魚みたいに期待外れな、出来の悪い殺し屋ッスよ」

「……まあ、いいわ。実力の程は後々見極めるとしましょう。用事は何?」

 先程は一学生としての行動だったが、わざわざ戻ってきたのだ。何か特別な用事があるのだろう。

「いや、せっかくなんで聞きたいことがありましてね。いえ、満礫殿や屍笞殿じゃありません。唯原殿に」

「何かな? 息子の友人の頼み事を聞くのは吝かじゃないけど」

「唯原、ああ、息子さんのことなんですがね」

 塁が首を傾げて、雨華もそれに連動して首を傾ける。

「あいつ、斑崎のどこが大切なんでしょうか?」

「ああ、それは……ん?」

 葛葉は、それを奇妙な質問だと思った。質問の内容ではなく、質問の箇所が不自然だった。

 『どこが好き』なら分かる。しかし、『どこが大切』?

 まるで、ぞんざいに扱っていること、それを葛葉が認識していることが前提の質問だ。

 そんな葛葉の心情を察したかのように、塁は言う。

「あいつ、斑崎の接し方が雑な時があるんですよ。いや、雑なんて生易しい話じゃない。特に、ここ一カ月はひどい」

 塁は理解しかねるという具合に目を閉じて首を横に振る。

「例えば、斑崎が自分の両親を殺した時。あいつは斑崎を許して、情報操作をしたことで丸く収めたように見せたが、知り合いの妖怪や呪術師に頼んで、斑崎の記憶を書き換えれば良かったはずだ」

 両親の死はなかったことに出来ないが、絆本人が殺した記憶を消すことは出来たはずだ。例えば、強盗に殺されたことにすれば良かった。両親の死は消せないが、両親を殺したという苦痛からは解放されるはずだ。いや、そもそも縛られることさえない。

「それに、明らかに斑崎より茜の方を大切にしている。あくまで斑崎を『表』に立ち止まらせておきたいなら、壱圏の旦那に逢わせるべきじゃない。茜が井伊藍として旦那に逢ったのは限りなく偶然だからな。それに、その一度だけだ」

 藍で逢った頃の茜と、裏世界を知らなかった斑崎の共通点は、『壱圏極地に逢うべきではない』。

「後よ、斑崎が十字架の姉さんに一服盛られて眠らされた時があったんだと。その時、唯原飛翔は斑崎絆を、亡名星十字架に任せたそうだ。……どんな神経があったら、そんなこと出来んだ?」

 亡名星十字架。『十戒家』内では上位三位の立場にある。序列では七番目、二番目に年下。だが、その危険性という一点では、自分の欲望に忠実過ぎる満礫みいら、拷問好きの屍笞階段、『歩く暴風雨』と呼ばれる御灯光景、人体実験中毒の鹿羽無黒、善悪の価値化を放棄した奴鉢定規、背信者に容赦が全くない朽邦達磨の誰も及ばない。危険視でさえ甘い。壱圏極地でさえ、亡名星十字架とはプライベートでは逢いたくないのだ。

 そんな亡名星十字架に、恋人を預けるなどマトモな神経であれば不可能だ。まして、あの時の飛翔には急ぐ理由は皆無だったはずだ。

 いくら満礫みいらからの伝言で発破を掛けられたと言っても、誰か迎えを呼べば良いはずだ。

「そして決定的なのが、先日の件だ。唯原の奴は、何の前置きもなく、自分の出生について斑崎に明かした。俺は言ったぜ? 茜が自分の正体を隠していたことに、斑崎がどんな感想を抱いていたか」

 騙された。

 斑崎絆は、麻川塁に電話でそう言った。あの『酒呑童子』の実子である茜を、心底嫌悪した。それまで築いていた信頼も親愛も関係なく、むしろあったからこそ、絶望した。

 飛翔は、その絶望をわざわざ二回与えた。母との再会を噛み締める為の、厄介払いという理由で。

「唯原殿。俺個人の意見で言わせてもらえば、ご子息にとって最も大切な人間とは腹違いの妹、茜です」

 つまり、斑崎絆ではない。

「だけどおかしいんですよ。あいつは、いつだったかこんなことを言っていたんです。『ぼくは絆に救われた』と。おかしな話だ。あれほど情に厚い男が、恩を仇で……いえ、恩を恋で返すでしょうか?」

 問いながら塁自身、愚問だと思う。

 そして、答えは決まっている。

 有り得ない。

「名探偵と名高い満礫みいら殿」

 塁は雨華を肩に乗せている都合もあり、正面をみいらに向ける。

「貴女は、これをどう推理する?」

 呆然とする四人を尻目に、間が悪い殺し屋、麻川塁は今度こそ、その場を後にした。





 一方、その頃。

 斑崎絆はただ一人で、屋台村を彷徨うように歩いていた。

 頭にあるのは、唯原飛翔について。

「ひっくん……」

 自分だけの愛称で呼ぶが、彼はここにはいない。

 最近、絆は飛翔の出生について知った。彼の父親は、たった一日で日本、いや世界の犯罪史に名前を残したテロリスト、『酒呑童子』だという。

 嘘であって欲しい。だが、間違いで済むような嘘ではない。

 本当なのだと思う。

 だから、彼に関わることが怖くなった。接し方がぎこちなくなっただけでなく、彼との会話さえ抵抗を感じるようになった。もう前のようにはいかない。

 自分のように飛翔を想っている桟前夜や敷石初夏は、飛翔の出生を知ってどう思うのか。

 聞いた話では裏世界の犯罪者でさえ、『酒呑童子』は嫌悪と畏怖と殺意の対象らしい。

 あくまで公にはなっていない彼の秘密。誰にも知られてはならないだろう。危険が及ぶだけでは済まない。彼も、彼の関係者である自分も。

 ならば、自分がすべきことは……

「ん? 斑崎か。どうした、一人なのか?」

 突然声を掛けられる絆。驚きつつも、声のした方を見れば知った顔があった。

「七丁目先輩……」

 生徒会副会長、七丁目一言。

 飛翔は親しい人物のことは下の名前で呼ぶことが多いが、彼だけは名字で呼ぶ。加えて、彼の周りの人間の誰もが七丁目のことを下の名前で呼ぶことはない。いや、絆は意識していないが、学校の同級生でさえ彼を『一言』と呼ぶことはない。彼をそう呼んで良い存在は一人だけ。刃宮凪茶のみだ。

 そんな七丁目は今、『アンケート』と書かれた木箱を抱えていた。

「てっきり唯原の奴とイチャイチャしているもんだと思ったが。もしや、喧嘩でもしたか?」

 七丁目は何気なく言ったつもりだったが、その言葉は絆を苛立たせた。

「いえ、そんなんじゃありません。ちょっと気まずいことがあっただけです」

「ふうん」

 どうでも良さげな七丁目。

 そして、どうでも良さそうにこんな質問をした。

「奴の出生の秘密でも聞かされたか?」

 絆は目を大きく見開いた。

 もしかしてこの人は、唯原飛翔の血縁を知っているの?

 絆が驚愕する様子を見て、七丁目は面倒くさそうに舌打ちした。

「唯原の奴、詳しい説明してないな……。まあ、いいか。混乱してもあれだ。おい、斑崎。ちょっとついて来い。話をしてやる」

 混乱しながらも、言われるがままに七丁目の後をついて行く絆。

 到着したのは生徒会室だった。

「そこらに座れ」

 七丁目は絆にそう指示してから、木箱を机に置き、コーヒーを煎れ始めた。

「先に確認しておく。お前は唯原飛翔について、どの程度知っている?」

 唐突な質問。

 てっきりコーヒーを出してから話を始めると思っていた絆はやや戸惑いながら、自分の知っている飛翔の情報を出していく。そのほとんどが、ここ一カ月で知ったことだった。

「ひっくん……唯原君は普通の高校生の振り、裏世界で、交渉人? って仕事をやっていて、『十戒家』って組織の人達がお得意様で、ちょっとした有名人で、『不戦』って呼ばれているみたいです。ああ、前は『無敵』って呼ばれていたみたいですけど。そして……」

「そして、『酒呑童子』の子供」

「……七丁目先輩も、『五食同盟』っていう集団の一人なんですよね?」

「その知識は正しいが、認識としては間違いだ。ライオンを肉食獣と思うのと同じだ。……唯原から『戦争』について聞いていないのか?」

 また『戦争』。

 裏世界の人達は事あるごとにその言葉を口にする。だが、明確な説明をしてくれたことは一度もない。皆、血色を悪くして口をつむぐ。

 だが、七丁目一言は違う。当然だ。あれは、彼自身が起こした災厄なのだから。

「『戦争』ってのは、一人の自殺志願が世界相手に大暴れした一連の流れを指す言葉さ」

 まるで他人事のように語る七丁目。

「そういえば、地底人が絶滅したとか何とかって話を聞いたことが……それですか?」

「正しくそれだ」

「まさか、自殺志願って七丁目先輩のことじゃないですよね?」

「よく分かったな。その通りだ」

 七丁目がおどけるように返したので、絆も本当に七丁目がその自殺志願だったとは気付かなかった。

 世界を相手に生き残り、逆に世界を滅ぼすとまで言われ、亜人を絶滅させ、魔物や妖怪や聖獣を虐殺し、天使や悪魔を殺戮し、『酒呑童子』を超えた狂気を振るい、『神』さえ殺害した男が、目の前の先輩であることを、彼女は知らなかった。

 知らぬが仏で、知らぬが神だった。

「まあ、話を戻すが唯原についてだ。……唯原が『酒呑童子』の息子であることは知ったようだが、母親の方はどうだ?」

「確か、ひっくんを捨てたんですよね。もしかして、ひっくんが『酒呑童子』の息子だから、ひっくんのお母さんはひっくんを捨てたんですか?」

「らしいな」

 絆は唇を噛んだ。

「ひどい。捨てるくらいなら……」

「最初から生まなければ良かったのに、かな? 唯原には言うなよ。あいつはあれでマザコンなんだ」

 七丁目は真顔だ。いつもの仏頂面だ。だからか、声の調子が変わらないと本心が分からない。

「自分を捨てた母親を、愛するっていうんですか」

「自分の両親を殺した奴に、あいつの気持ちは分からんよ」

 七丁目は遠慮しない。絆はただ唇を噛むことしか出来なかった。

「いや、逆かな。お前の気持ちを、唯原は分かっていない。微塵もな」

 七丁目は深い溜め息を吐く。

「いや、人が人の気持ちが分からないなんてよくある話か。俺も姉さんの抱えているものに気付けなかったし、凪茶の想いもあの日まで分かってやれなかった。今だって理解しているか怪しいもんだ」

「先輩と凪茶ちゃんは、お似合いじゃないですか」

「よく言われるよ。ただなあ、俺はそれをあの二人に言ってやりたかったんだ。いや、言うことになると勝手に確信していたんだ。あれこそ予想出来なかったなあ、本当」

「? 誰と誰のことですか?」

「ああ、実は……」

 と、その時だった。

 ピロリロリーン。ピロリロリーン。

「あ、すいません。私の携帯です」

 絆は携帯をポケットから出して、開く。

 メールが一件だけ入っていた。

 送信者は『ひっくん』、要件は『旧校舎の教室まで来てくれ』だった。

「と、すいません。ひっくんから呼び出されました」

「ん? その唯原の話をしようってんだが、聞かなくていいのか?」

「いえ、ひっくんと一緒に聞くことにします」

「……趣味悪いぞ」

「大事なことなんですよね? なら、そんな大事ことを何故黙っていたのか追求しながら聞こうと思います」

「あっそ。なら、早く行け。って、俺、生徒会の仕事あるから日を改めてな」

「はい。お手数を掛けます」

 絆は生徒会を後にした。

「……やっぱり、斑崎に唯原は不釣り合いな気がするんだよなあ」

 七丁目はコーヒーを飲み干して、窓から屋台村と雑踏を見下ろす。そして、不思議そうに、不愉快そうに、呟いた。

「なあ、唯原。何でお前は、敷石初夏を選ばなかったんだ?」





「よお、業火」

「……唯原か。……一人か?」

「現在、絆を捜索中なんだよ。絆見なかったか?」

「……知らん。携帯で呼び出せば?」

「おお! それだ、業火! お前は天才か!」

「……お前、馬鹿」

「うるせえよ。じゃあ早速、ん? あれ? あれれれ?」

「……どうした?」

「携帯、落としたみたいだ」

「……やっぱり、馬鹿」

「だからうるせえって、え? 嘘だろ、マジかよ」

「……今度は、どした?」

「旧校舎が燃えてる」


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