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文化祭

これ、最終章にしようと思います。


 一年以上付き合ってきた『ホームズ』メンバーのその後を述べたいと思う。

 灯台下千影は、この町から姿を消した。所在不明の風来坊。それがあの妖怪の本来の姿だ。文句を言われる謂われはないだろう。

 万屋正義は、御灯光景に敗北し死亡した。彼にとっては殉職みたいなもんだから本望だったんじゃないか。光景さん曰わく、『百鬼夜行』らしい最後だったようだしな。

 首塚花道と不知火由紀は、別の町に引っ越した。まあ、隣町なんだけど。家族が増えるそうで、広めのマンションを借りたらしい。とりあえずおめでとうさん。

 音岳は、生死不明で行方不明。

 刃宮凪茶は、七丁目一言と同棲を始めた。おいおい。でも、あの二人なら爛れた生活は送らないんだろうなあ。

 清水流水は、まあ、帰国して崩壊した『ホームズ』を見て仰天していた。当然だ。そして、これを機会に海外に拠点を移すみたいだ。どこまでもトレジャーハンターで冒険家だった。

 如月傘子は、しばらくネットカフェ難民をするそうだ。ダメ人間一歩手間な発想だ。派遣じゃなくて普通に医者として働いているのに。

 井伊藍こと藤代茜は、母さんと『唯原』の屋敷に住むことになった。一応、『十戒家』の名簿にはまだ母さんの名前が残っていた。誰の仕業かは言うに及ばない。で、茜だが、母さんの養子ということになって、名前も『唯原茜』に改名した。『双堀』の新しい当主さんの計らいで、双堀訓練校に通い始めたとのこと。礼を言いたいが機会に巡り合えない。学校に行き始めたはいいが、変な虫がつかないか心配だ。

 斑崎絆は、前夜の家にしばらくやっかいになるそうだ。まあ、代わりに、ぼくが前夜と映画を見に行く約束を取り付けたが。勿論、ぼくのおごり。しかも五回。ぼくみたいな奴と映画見て楽しいのかねえ。絆にはこの約束については黙っている。絶対嫉妬するしな。

 最後にぼく、唯原飛翔だが、ようやく退院した。今、新しい部屋を探している。絆の分も探さないといけないから大変だ。荷物は明時や塁に預かってもらっているが、ちょっと不安。あの二人、防犯意識が薄いし、物の扱い方が雑なんだよなあ。

 余談だが、今日はぼくの高校の文化祭だったりする。

 だから部屋探しは今日は休みだ。

 さて、文化祭を楽しむか。



 なんて、今朝の内までは思っていた。平和に、不変に終わるんだと。

 だが、今日を境にぼくの人生は別の道に逸れていくことになる。

 悪夢だとも地獄だとも戦争だとも絶望だとも言わない。

 だが。

 ぼくが描こうと努力していた未来とは対極にある。


 さあ、失敗の後始末をするとしよう。

『不戦の交渉人』唯原飛翔、最後の交渉だ。





 我が高校の文化祭では、各クラスや各部活が校庭や中庭に店や展示物などの出し物をする。

 いや、味気ないくらい普通のことなんだけど、我が校では明らかに他の高校とは違う点がある。それは……

「どこですか、七丁目副会長ー!」

「副会長ー! キャベツの千切り手伝ってくださーい!」

「あの、七丁目先輩、このコロッケ後どのくらい揚げればベストでしょーか」

「七丁目君、予備の紙皿どこー?」

「七丁目。ガスが出ないんだが、どこをどうすればいいんだ?」

「副会長、ここにいたんですか!? 早く体育館に行ってください! プログラムは副会長の挨拶がないと始まらないんですから!」

「おま、勝手に先輩連れてくなよ!」

「すぐ戻る」

「本当に急いで戻ってくださいよー! アンタがいないと回らないんだからな! 七丁目副会長ー!」

 ご覧のように、一人の生徒会副会長が引っ張りだこなのだ。

 後輩の一年二年だけではなく、同級生の三年にまで頼られている。

 信頼性が化け物だな。新『神』だけはある。

 明らかに生徒会の業務を超えた内容と容量の手伝いなので、七丁目は見返りとして食べ物を要求している。分かり易いよ、大食漢が。

 ちなみに、全く名前を呼ばれない生徒会会長、守永明時はと言えば、

「んぐ、んぐ、ん~。美味い! やっぱり文化祭と言えば焼もろこしは外せないよなー」

 文化祭を堪能していた。右手に持った焼もろこしを食べていたかと思えば、左手に持ったアイスを舐める。

「ん~♪」

 すげー幸せそうだった。こちらはこちらで分かり易い。

 他の生徒会メンバー、塁は見回りと嘯いて雨華と遊び回っていて、業火は保険室で寝ていて、前夜は学校間交流と称して凪茶や仮名美やその友達を案内している。

 なんだか皆がサボっている分の仕事が七丁目に回っているような気が……。いや、塁と前夜は建て前の理由を並べているからいいが(本当は良くない)、業火は普通にサボっているだけだ。

 まあ、他人のことはいいや。

 自分のクラスの出し物に集中しようということで、ぼくは辺りを見渡す。

 ぼくのクラスの出し物は、中庭に作られたステージで行われるこれだ。

「では問題です。日本一高い山……」

 ピポン!

 軽快な音が響き、一つのランプが光る。そして、そのランプのボタンを押した一年生が力強く叫ぶ。

「富士山!」

「残念、不正解です。問題は最後までちゃんと聞きましょう」

「畜生!」

 一年生は吐き捨てて、机を叩く。

「何やってんのよ!」

「このクズ!」

「そんな単純な問題出る訳ねえだろうが!」

 外野席から一年生に向けて野次が飛ぶ。

「そうだ! あの唯原先輩が問題作ったんだぞ! 馬鹿みたいに意地悪なのしかねえよ!」

「はい、黙れよ、外野席。殴るぞ」

「ごめんなさい!」

「では問題の続きです。日本一高い山は富士山ですが、日本一人口の多い都道府県はどこでしょう?」

 ピポン!

「はい! 東京都!」

「正解」

「前振りの富士山言うほど関係ねえーじゃん!」

 元気なツッコミが入ったところで分かったと思うが、ぼくのクラスの出し物とは『クイズ大会』だ。

 各クラスの代表者が回答者となり、一番正解数の多いクラスが優勝という単純なもの。

 ただ、何故こうもデッドヒートしているかと言えば理由がある。と言うか、豪華な景品がある。まあ、簡単に言えば高級牛肉なんだが。文化祭後の打ち上げでバーベキューをする為、皆、血眼なのだ。

 この肉は壱圏さんの好意で安く手に入れられた。勿論、我がクラスの打ち上げ用の肉は別に確保している。

「さーて、次の問題です」

 出題者はぼくを含む数人が十問ごとにローテーションを組んでいる。

 さっさとあと九問を出題して、屋台で食べ歩きをしよう。人も待たせていることだし。

「おでんの具には……」

 ピポン!

「卵!」

「不正解」

「同じミスを繰り返すなぁぁぁ!」





 クイズ大会午前の部が終了し、ぼくの出番は終わった。肉はすでに担当者に渡してあるし、出題は別の人間がやってくれる。これで文化祭終了までの六時間、ぼくは自由な訳だ。

 さて、これ以上、あの人を待ちぼうけさせるのも悪いし、急ぐとしよう。

 という訳で、ぼくは校庭に設置された食事スペースという名の机と椅子が並ばれた場所にやってきた。

 あの人を探した。すぐ見つかった。向こうもこちらに気付いたようだ。手を振ってきた。

「よお、飛翔」

「どうも、壱圏さん」

 裏世界の重要人物の一人、『十戒家』家長兼壱圏機関機関長こと壱圏極地が、肩書きを忘れるくらいラフな服装で、焼き鳥を食べていた。

「お久しぶりです、唯原様」

 ぺこりとお辞儀をするのは、『壱圏』家のメイド、敷石春夏。さすがにメイド服は来ていないが、その動作は隙がない。発育がいいからか、三つも年下なんだが同い年に見える。背丈は越えられたしな。姉の初夏と同じくらい美少女。やっぱり姉妹だよな。

「やあー、飛翔君じゃないか」

 だらーとしている青年は、双堀訓練校校長こと双堀ふたほり武士たけし。つい最近『双堀』当主になった。つまり、壱圏さんと同じくらいの裏世界重鎮。『十戒家』当主では三番目に若く、屍笞階段と亡名星十字架を除いて、他の当主は全員が彼の高校時代の先輩に当たる。

 この間、茜が双堀訓練校に入るのに便宜してくれた人だ。

「茜のこと、改めてありがとうございます、武士さん」

「ん? ああ、いいよいいよ、お礼なんて。葛葉さんには中学生の時に世話になったし、飛翔君にもウチの馬鹿爺を止めてもらった礼があるからね」

 のそーとした動作でリンゴ飴をかじる武士さん。甘党だよな、この人。

「どうしてもって言うなら、そこのチョコバナナを奢ってくれよ。イチゴチョコ味のナッツ風味キャラメルソース漬けのラージサイズ、二本」

 聞いただけで歯が溶けそうなトッピングだな。

「俺もそれをもらおうか」

 壱圏さんが挙手した。

 そうだ、忘れてた。この人、祭りとお菓子が大好きなんだ。仕事中の風格は異様にかっこいいのに、プライベートは子供みたいなんだよなあ。

 春夏が目を細めている。呆れているようだ。

「分かりましたよ、壱圏さんの分も奢っておきます」

「そうか。悪いな」

「とか言いながら、席を立たないでください。どこに行く気ですか、二人とも」

「ちょっとそこのパフェとクレープを」

「俺も追加でたこ焼きとコロッケと豆腐饅頭とかき氷と串カツと蒸し芋を」

「ご主人様。食べ過ぎです。太ります。ご主人様の体調を管理するメイドとして、そのような暴食は許可出来ません」

 春夏が壱圏さんを引き留める。

「いいじゃないか、これは会食じゃないんだ。文化祭なんだ。オフくらい好きに食わせろ」

「ダメです」

「ちっ。だから一人で来たかったんだ」

「ご主人様、ご自分の立場を自覚してください。あなたはあの『十戒家』の家長なのですよ? 護衛も無しに外出など危険です」

「護衛など足手まといにしかならないがな。経験則からして」

「SPの立場がない発言をしないでください。あと、私も傷付きました」

「あ、それは悪かった」

「本当に悪いと思っているならその焼き鳥を私に『あーん』してください」

 その男としては滅茶苦茶嬉しい要求に、壱圏さんは平然としていた。

「ほれ、あーん」

「あーん」

 多分だけど、壱圏さん、やり慣れてるな。

 焼き鳥をもぐもぐしながら、春夏は意味深な笑顔を浮かべて、ぼくに囁いた。

「本当、ご主人様は競争率が高いから大変です」

「玉の輿狙いかよ」

 ま、当然か。『十戒家』の女で壱圏さんに興味がないのは、絶対的な相手がいるか、変わり者だろう。まして、春夏は身の回りの世話までしている。彼女しか知らない魅力を知っていたりするのかもしれないな。

「最悪三号でもいいです」

「愛人がいるの前提なんだな」

「ご主人様、女たらしですから。一人で満足出来るはずがありません。それと、それは最低目標なので、ご主人様が結婚なさるまでは本気で本命を取りに行きます」

 意外と野心家のメイドだった。

「うわー、美人さんだぜ」

 少し離れた場所から、そんな声が向けられた。制服で見たことのある顔だから同学年だろう。春夏は得意顔だった。

「隣にいるの、唯原じゃね?」

「ああ、間違いない。不良で有名な唯原だ」

「恋人が月並みな唯原だ」

「浮気かな?」

「むしろあっちが本命じゃね?」

「すると、あの二人は何だ?」

「話に聞いた唯原の兄さんじゃねえの。ちょっと似てるし」

「マフィアって噂の、例の奴か」

 当たらずとも遠からず。

「マフィアってより、青年実業家っぽいけどな……。着てるもん、結構いいもんばっかしだし」

「あのリンゴ飴食ってる方は、美人さんの方の兄さんとかかな?」

 いや、春夏と武士さんに血縁関係は皆無じゃないけど、かなり昔まで遡ってみないと共通の先祖には会えないって。

「あ、飛翔先輩じゃないですか」

「仕事終わったみたいやな、飛翔はん」

「お疲れ様でした、飛翔さん」

 と、鎌倉仮名美、刃宮凪茶、桟前夜の仲良しトリオがやって来た。仮名美は猫のぬいぐるみを持っている。射的でもやったらしいな。

「死神に、刃宮凪茶に……もう一人は知らないな」

 壱圏さんがつくねを食べながら三人を見比べる。品定めするような目だ。自分の兄的な存在にして欲しい目ではないので、即刻止めて欲しい。

 案の定、壱圏さんのことを知らない仮名美は露骨に警戒を露わにする。

「ひ、飛翔先輩、この変……、紳士はどちら様?」

 今、変態って言おうとした? いや、否定はしないけどさ。

 話を振られたぼくの代わりに、凪茶が答える。

「仮名美さん、こちら、『壱圏』現当主にして『十戒家』家長、壱圏極地様でいらっしゃいます」

「ええ!? この人が、あの!? 話に聞いていた壱圏極地さん!?」

「そう、その話に聞かせていた極地様です」

 派手に驚く仮名美に、凪茶はクールに告げる。

「にしても、極地はんか。珍しいやないか、と言いたいところやけど、考えたらアンタとウチ、こういう場所でしか会ったことなかったな」

「そうだな、死神」

 前夜は壱圏さんの態度が気に入らなかったのか、鼻を鳴らした。

 空気が険悪にならないように、話を切り替えるとしよう。

「壱圏さん、こちら、ぼくの彼女の中学校時代の後輩で鎌倉業火の妹の、鎌倉仮名美です」

「先輩、あの兄の妹として紹介しないでください」

 仮名美が反射的に要求してきた。こいつのこれは、ツンデレじゃなくてガチの嫌悪だよな。

 対して、壱圏さんは思案顔。

「……鎌倉業火の妹、か。なら鎌倉融の妹でもあるのか?」

 鎌倉融。

 仮名美は明らかにその名前に反応した。悪い意味で。

「馬鹿な兄だけじゃなくて、腐った兄もご存知なんですか?」

「ああ。最悪な意味でな」

 壱圏さんが苦虫を潰したような顔になる。

 仮名美は申し訳なさそうに俯く。

「なんか、すいません」

「気にするな。大事にはなっていない。……君も苦労するな」

「お気持ちだけ、ありがとうございます」

 仮名美はさらっと流したが、それ以外のメンツはぼくを含めて目が飛び出るほど驚いていた。

 あ、あの、あの壱圏極地が、他人を労っただとぞ! ぼくや明時でさえそんな経験ないのに! 鎌倉仮名美、すげーよ、お前!

「えっと、皆さん、どうしたんですか?」

「あ、はい、何でもないぞ!」

 明らかに挙動不審だろうが、無理矢理流すことにした。

「仮名美、こちらは『双堀』当主の武士さんだ。壱圏さんと同じくらい偉いんだぜ? こっちは敷石春夏。凪茶と同じ満礫美術館の出だ。こう見えて、中学二年生のメイドさんなんだぜ?」

「中二って、年下!? メイド!?」

 春夏の紹介がインパクトあり過ぎて、武士さんの紹介については全く反応がなかった。

 春夏は立ち上がって、スカートの前で手を合わし、恭しくお辞儀をした。

「敷石春夏と申します。仮名美さんのお話は凪茶さんや前夜さんから窺っております。どうかよろしくお願いします」

「こ、こちらこそ!」

 仮名美もつられてお辞儀を慌ただしくする。

「うわあ、見ろよ、あの集団。めちゃレベル高いぞ」

 気付けば、ぼくらは周囲から注目を浴びていた。春夏だけでも視線を集めていたんだから当然か。

「あれ、生徒会の桟だな」

「あの子、いいよなあ」

「純和風って感じでグッとくる!」

「関西弁なのに雰囲気が清楚で、ギャップがな」

「スレンダー過ぎるけど」

「早い話が胸ないよな」

 前夜が机をバン! と叩いた。

「飛翔はん、ちょっとあいつら殺してええかな?」

「落ち着け」

 こいつ、涙目だよ。

 どんだけ傷付いてんだよ。繊細過ぎるよ。乙女過ぎるよ。でも、そういう部分が可愛いんだよなあ、この死神は。

「俺は隣の髪の長い子がタイプだな。私服だから他校の子かな」

「馬鹿、お前。あれ、副会長の彼女だぞ?」

「え! あれがか!」

「この間、一緒にイタリアンの店に入ってくのを見たから多分間違いない」

「やっぱり副会長くらい出来る人だと彼女のレベルも高いんだな」

「あんな黒髪美人が恋人って。さすがは我らの副会長だ」

 しかし凪茶はそんな雑音など全く気にしていないようだ。

「そういえば飛翔さん、一言はどこにいるんでしょうか?」

「今は反対側の屋台村でサンドイッチ作ってるよ」

「何だ、その奴の信者どもが拝み出しそうなサンドイッチは」

 壱圏さんが突っ込む。

 文化祭の手伝いを申し出た信者もいたらしいが、七丁目はそれを全て断った。「代わりに文化祭を全力で楽しんでくれ」と言おうものなら、連中、感涙しやがった。

「あのポニーテールの子は?」

「いいな。可愛らしい」

「元気そうで、明るそうだ。勝ち気っぽいし、体育会系かな」

「でも誰かに似ているような……」

「確かに。誰に似ているんだ? 生徒会の誰かだと思うんだが」

 仮名美は途端に苛立ち、地団駄を踏み出した。

「ちっくしょう。そんなに、私が、あの、クソな、兄貴に、似てんのかよ!」

「落ち着けって」

 兄妹仲が悪過ぎだろ。名前も出てないのに似ていると言われただけで、どれだけキレてんだよ。

「そういえば飛翔さん、絆さんと一緒じゃないんですね」

「そういえばそうだね。文化祭デートとかしてそうだったのに」

「ああ。ちょっと、な」

 自分の出生を明かしてから、絆とは深い溝が出来てしまった。当然だ。自分の彼氏があの『酒呑童子』の息子だと知らされて、そのままにいける訳がないんだ。

 明時や壱圏さんは割とすぐに元通りになったが、それは過ごした時間の問題だと思う。

 絆はぼくの母親が『百鬼夜行』幹部であったことも知らなかったんだからショックが大きかったはずだ。

「はあ。複雑な問題だよなあ」

 時間が解決してくれるとも思えないし。交渉人の肩書きが泣くぜ。

「飛翔。簡単に問題を解決する方法があるぞ」

「え。何ですか、壱圏さん」

 つい身を乗り出したぼくに、壱圏さんは言う。

「あの女と別れろ」

 ちょっと予想していた答えだ。

「そうすれば、あの女はお前に気を使わなくなるさ。恋人なんて関係だから上手く対応出来ないんだ。後のことは安心しろ。お前がやっていたあの女の金の世話も、次の彼女の紹介も俺がやってやる。ちょうど見合いを探している良家があってな。どうだ?」

 絆と別れる、か。

「ある意味完璧な作戦なんだろうけど、断るよ」

 ぼくは立ち上がった。

「どこに行く?」

「ちょっと絆を探してくる。やっぱり、今のままは気持ち悪い。思いの丈をぶつけてくるよ」

 壱圏さんはちょっと舌打ちしそうな顔になった。

「問題が悪化するといいな」

「すげーこと言われた」

「あ。チョコバナナも忘れずにね」

「分かってますって」

 だが、ぼくは何も分かっていなかった。チョコバナナは買えなかったし、最悪、壱圏さんの提案に首を縦に振るべきだったのだ。

 そして。

「武士さんにも、絆を紹介しますから」

「それは楽しみだ」

 その約束も守れなかった。


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