少女が少年を愛そうと決めた理由
「ふざけんな!」
少年は怒鳴った。
「ふざけんなよ、てめえ何を考えてんだ!」
少女はその様子を見ていた。
少女は少年の近くに隠れていた。だが、少年は少女に気付いていなかった。普段なら有り得ないことだった。それほどまでに少年は怒っているのだ。
「それだけの理由でこれだけのことをやったのか? 甘えんな。犯罪者の身内だからって、そんなのが言い訳になるか!」
今の少年は少女が知っている少年とは違っていた。
「そりゃお前に罪はねえよ。だけどな、これじゃあダメだろう! それじゃあダメなんだよ!」
違い過ぎていた。
「ぼくが、『ぼく達』がどんな思いで生きていると思ってんだ! 自分の体に流れる血にビクビク怯えながら、自分の心に潜む闇にヒヤヒヤ震えながら、周りの人間に仮初めの自分を見せながら生きていくのが、偽物の自分を見せることでしか生きていけないことが、どれだけ辛いか、どれだけ気持ち悪いか、てめえに想像出来るのか!」
少女の知る少年は、強く、硬く、雄々しく、格好良いはずだった。
しかし。
「これが本物の自分だって錯覚したいよ! でもな、ぼく達にそれは許されないんだよ! そんな権利もチャンスもねえんだよ!」
しかし、今の少年は、弱く、脆く、女々しく、格好悪かった。
「自分がどれだけ恵まれているか、考えたことねえだろうが! 最悪の不幸も知らない癖に、簡単に折れてんじゃねえ!」
強いと避けていたのに弱くて。
堅いと断じていたのに脆くて。
「自分が不幸だと思うなら、断崖絶壁から落ちてみろ! 踏みとどまってんじゃねえよ!」
遠いと感じていたのに、こんなに近くて。
違うと悟っていたのに、こんなに同じで。
「助かりたいと思うなら、全力で世界と対面しろ!」
嫌いだと思っていたのに、こんなに好きになった。
「出来る出来ないの問題じゃねえ。望むことすら出来ないなら、お前の命に価値なんてねえんだよ!」
だから。
「ぼくは全力でお前を否定する」
この人の傍にいたい。
この人の隣に行きたい。
この人に愛して欲しい。
そう願った。
「ぼくは、ぼくを、『ぼく達』を全力で肯定してやる!」
少女は生まれて初めて、胸が熱くなった。
「認めてやるし、愛してやる!」
少女はこれが、“愛”だと知った。




