亡名星商会
七丁目一言を御灯警備局にけしかけた翌日。ぼくはある喫茶店にいた。今日はちゃんと放課後だ。サボらずに授業をこなした。
ちなみに昨晩、デートから帰ってきた凪茶はかなりご機嫌だった。ディナーは焼き肉の食べ放題だったらしい。色気がねえ。それから七丁目が他の客や店が引くほど暴飲暴食して、凪茶が甲斐甲斐しく肉を焼いているシーンが目に浮かぶようだった。いや凪茶は凪茶で結構食べるんだけど。
昨日の件については五食同盟の連中に根掘り葉掘り聞かれた。七丁目は口が堅いからな。どっかの喧嘩屋には負けるけど。でもあっちは態度で分かり易いか。
閑話休題。
それで、何故喫茶店にいるかだが、ある人物と待ち合わせだ。絆じゃない。女性には違いないが、浮気じゃない。が、ぼくがやるべきことをやるには、『彼女』に逢う必要がある。
本当は絆も逢わせたかったんだが、向こうが拒否してきた。曰わく、ぼくが恋人といちゃつくシーンなど見たくないそうだ。余計なお世話だ。
夜には亡名星商会に行かねばならないので、ここでの用件は手早く済ませたい。
「アホみたいな顔になっとるで」
考え事をしている間に待ち人来たる。だけど、アホみたいな顔って……。
「遅かったな」
「これでも急いだんや」
待ち人こと五食同盟所属の死神、桟前夜は不服そうに肩をすくめた。席に座って店員に紅茶を頼む。
「しっかし、何の用事や、飛翔はん。ウチも忙しいんやけど。主に、昨日の七丁目の大将がしでかしよった暴挙ちゅーか暴走の後始末で」
「大変だな」
当事者だけど他人事みたいに装う。
「普段から迷惑掛けとるから文句は言わんよ。けど、『十戒家』の一角の幹部突然殺して、その直後に女と飯食うってどないな神経してんねん」
「まあ七丁目だからな」
その言葉で納得したらしく、前夜は頷いた。で、ぼくのお冷やを勝手に飲んだ。紅茶が待ちきれないらしい。よっぽど喉が乾いているのか、顔が赤いし。
「せやな。まあ七丁目の大将の話はもうええわ。あんたの話や、飛翔はん」
「ああ。実は昨日の七丁目の行動には、ぼくが密かに受けた依頼と繋がっているんだ」
「……は?」
前夜は唖然としている。
「畦道百足って知ってるか?」
「知識としてはな。えっと、確か、飛翔はんの最初の事件やったよな」
「それで合ってる」
それにしても、皆が皆、畦道についての知識が、『唯原飛翔が最初に倒した男』なんだよなあ。
ぼくがとどめを差したとは言え、少し申し訳ない気がした。まあ同情するような相手ではないか。
どうしようもないクソ野郎だったし。
「それで、その畦道百足がどないしたんや?」
「脱獄した」
「……は?」
「実は昨日、凪茶が畦道に拉致された」
「…………はい?」
「で、怒れる七丁目が畦道をぶっ殺したんだよ」
「はいいいいいい!?」 前夜は立ち上がり、両手でテーブルを叩くというありがちなリアクションを取った。
「前夜、人が見てる。静かに」
「あ、はい、……て、ちゃうわ! 今はそんな場合とちゃう!」
「今の借りてきた猫みたいな反応はレアだな」
「だから何や!」
「可愛かったぞ」
「んな!?」
ぼくの素直な感想に、前夜は二分ほど手足を慌てふためかせ、注文した紅茶が来る頃に、一周回ってようやく落ち着いた。
「ひ、飛翔はん、今の話、ホンマ?」
「ああ、事実だ」
何故か前夜の表情には若干の照れと喜びが。
「かつての禁忌が一つ、『グロテスク・エッグ』の事実上唯一の生き残り、畦道百足は屍笞処刑場から脱獄し、世界の法則を食い尽くした七丁目一言を殺害するために人質として刃宮凪茶を拉致したが、目論見は失敗し、七丁目に殺された」
一つだけ嘘だけど。
「あ、そっち……」
今度は露骨にがっかりされた。
「でも自覚ないちゅーことは、本心やってことやよね……」
と、意味不明な独り言の後、姿勢を直してぼくに向き直した。
「それでどうも、畦道の脱獄に御灯風景が関係していたというか、手引きをしていたんだ。七丁目はそれを知って、風景さんを殺したんだ」
「確かに大将ほど組織に属する者に恨まれる人間はおらんわな……。でも飛翔はん、何でそれをウチに?」
「いや、縁合って、七丁目が畦道を殺す現場にいたもんだからさ。あいつがお前らに言うはずないから、代わりに教えてやろうと思って」
「ホンマは?」
「ちょいと教えて欲しいことがある」
前夜は、やっぱりか、みたいな目をぼくに向けてきた。
「しゃーないな。さっきの情報と、ここのお代で勘弁したるわ」
「悪いな」
「気にせんでええわ。店員さーん、フルーツパフェ二つー」
「二つも食うのかよ」
苦笑いしていると、前夜は不機嫌そうに口を尖らせた。
「片方はあんたのや」
「え?」
「ウチが食べ終わるまで付き合ぃな」
何だそりゃ。お代はぼく持ちなんだよな?
まあ時間はまだあるからいいか。こういう時間も、悪くない。
□
裏世界の人間は多少度合いに違いはあっても、ほとんど全員の人格が歪んでいる。天然も加工品もいる。
壱圏機関を含む『十戒家』には、圧倒的に後者が多い。と思いたい。実際、統計の取りようがないものだし。
だが、亡名星商会には後天的なタイプになる要素が多い。
金を扱う部署だしね。
地獄の沙汰も金で黙らす、『十戒家』第七部署『亡名星』。
金のためなら何でもする訳ではないが、彼ら彼女らの中では、人と金の順位ははっきりしている。
「それは違いますよ、唯原さん。私ども亡名星商会が裏世界の財界に君臨していることは慎んで認めますが、人の命を軽んじたことなど一度もありません。こんなことを言うのは恐縮ですが、我々は真っ当な商売をさせて戴いていますので」
「…………」
裏世界最大の貿易流通会社が、真っ当な商売をやっているはずもないが、まさかそのトップ相手にそんなことを言えるはずもない。
「誤解は無しですよ、唯原さんも、そちらのお嬢さんも」
亡名星商会会長、亡名星十字架。
十字架なんていかつい名前だが、女性だ。綺麗や可愛いより、格好いいって評価が似合う。やり手のキャリアウーマンって感じ。
屍笞階段が裏世界の司法のトップであるように、亡名星十字架は裏財界のトップだ。その支配力は、壱圏さんや階段に次ぐ。つまり、事実上のナンバースリー。
でも、会長って感じではないんだよなあ。むしろ秘書っぽい。仕事は出来そうでも、偉そうではないというか、尊敬よりも警戒が先に来るっていうか。とにかく頂点にいるような人間には見えない。まだ若いし。現時点では、階段の次に最年少。具体的には二十代前半。
現在、そんな十字架さんの食事に付き合っていた。いや、呼んでもらったと言うべきか。完全に向こうの奢りだし。
湖近くの高級レストランで、十字架さんとぼくと絆の三人でディナーを頂いている。昨日、七丁目と凪茶が行ったという焼肉店とは天と地の差があるような店だ。
何故、こんなことになったか。ダイジェストにすると、こんな感じ。
「もしもし? 十字架さん」
『これはこれは。恋人発覚のスキャンダルで忙しい唯原さんではないですか』
「そりゃどうも。それで、ぼくの恋人を十字架さんにも紹介したいんですが」
『そうですか。そうだ、我が社が新たにオープンしたレストランがあるのですが、そこで夕食でもどうです?』
まさか、こんな立派な店とは。
亡名星商会がオーナーってことは裏世界の人間やそれに関わる人間専用の店なんだろうけど、格式たけーよ。
絆なんか、緊張でナイフとフォークを持つ手間違ってんぞ。しかも、本人食べづらいことに気付いてない!
対して、十字架さんはオーナーだけあって落ち着いていた。立場と肩書きの問題で、こういう場所での食事には慣れているんだろう。外食嫌いな壱圏さんや監獄に引きこもっている階段よりは、圧倒的に機会が多いはずだし。
「うーむ。鴨肉をバジルをベースにしたソースに漬けたようですが、相性はいまいちですね……」
「そうですか? 十分美味しいと思いますけど」
「いえ、私も美味しいとは思いますが、万人受けする味とは違います。少々くどい。何より……」
「何より?」
「極地様の舌には合わない気がします」
「壱圏さんの好みは意外と庶民派なので、この店には出せないと思いますが」
「いえ、真に美味しい物とは舌を選ばないものなのです」
十字架さんはウエイターだかギャルソンだかを呼んで、五分くらいダメ出しした後、それをシェフに伝えるように言った。マジ厳しいと思った。ある意味、イメージ通り。
しばらくしてデザートが来た。いかにも高級そうな小さなチーズケーキだった。ぼくはやっぱり、つい数時間前に前夜と食べたパフェの方が好きだ。これ、チーズが濃い。舌が麻痺しそうだ。
「……あまりお気に召さなかったようですね」
食べ終わった後、十字架さんは申し訳なさそうにした。
「すいません。庶民で」
「いえいえ。このようなレストランを選び、無様なシェフを雇った私に非があります。申し訳ありません」
どこまで本気なのか。いや、この人は嘘さえ本気で言うんだけど。
「しかし、唯原さんも人が悪い。交際している相手がおられるなら、私達にも教えてくだされば良かったのに」
「あー、色んな人に言われましたね、それは」
「こんな可愛らしいお嬢さんなのですから、隠すことはなかったと思いますが。あるいは、可愛らしいが故に隠された、ですか?」
相変わらず口が上手い。
絆も真に受けて照れてるし。いや、発言の内容は否定しないけど、内心は嘘だろうから。
亡名星商会の会長をこの年齢で担うには、どれだけの嘘が必要なんだろう。
想像できない。
「それはそうと」
十字架さんを包んでいた空気が変わる。絆は気付いてないっぽい。
「唯原さんは一体、何を調べているんですか?」
「……何のことです?」
「いえ、みいらさんにそう聞いてみるように言われたものですから」
「…………」
満礫みいら。無黒さんから何か聞いたのか? 芸術家なだけじゃなくて探偵だからな。何を読まれたのやら。
「各部署に出向いていることも、その調べていることに関係していそうですね」
「いや、『十戒家』を回っているのは、絆を紹介するためですよ」
今考えてみると、露骨な嘘だよな。
「例えば、そうですね。畦道百足の脱獄についてでしょうか?」
絆が反応しかけた。まあ十字架さんには見抜かれたろうけど。だが、白を切ろうか。
「畦道? ああ、あの変態誘拐犯ですか。懐かしいですね。あいつ、ぼくが初めて逮捕した相手なんですよ。って、脱獄なんてできるはずないじゃないですか。あいつが収容されてんのは、階段の仕切る屍笞処刑場ですよ」
「その畦道が死んだのに、それを極地様や階段さんに報告もせず、何を探っているのですか」
絆が目を見張る。そういえば言ってなかったな。
「死んだ? 改造人間に不似合いな拷問による死亡って感じですか。多分、地獄で驚いてますね、『グロテスク・エッグ』が消滅していて」
監獄から地獄ってのも、滑稽な話だ。
「死んだといえば、昨日の御灯風景氏の件です。七丁目一言を警備局にけしかけたのは、唯原さん、貴方ですね?」
絆は首を傾げた。何で七丁目先輩の名前が出るの? と目が言っている。後で話すから今は静かにしてくれよ。
「何言ってんですか。あの七丁目ですよ? 多分気まぐれですよ、風景さん殺したのは。あいつらしいでしょ?」
殺した。
その単語に、絆が露骨に反応した。十字架さんはそれについては追及せず、話を続けた。話? いや、こんなの尋問だ。
「理由は、畦道脱獄の手引きだけではありませんよね」
「だから畦道は監獄ですって」
「あの七丁目一言が激昂する条件は、身内に何かあった時です。この身内に私達『十戒家』や貴方や彼が属している五食同盟は含まれません。彼にとっての身内とは、刃宮凪茶か、彼を崇拝する狂信者くらいなものでしょう」
そう、『神』を殺した七丁目を新たなる『神』と崇拝する連中は実在する。で、七丁目はそんな彼らに甘いのだ。それこそ、神様みたいに。
「風景氏にとって七丁目一言は目の上のガンです。そして、彼は手段を選ばない強硬派です。畦道と結託して、打倒七丁目一言を企てるかもしれません」
「企てるでしょうね。畦道百足が脱獄していて、その協力者が御灯風景だったらの話ですけど」
「畦道に、凪茶氏を拉致するように助言したのかもしれません。畦道の能力は誘拐に適しています。元より誘拐犯として捕まった訳ですし」
絆がバッとぼくを見る。だから、そんな露骨に反応すんな。え? 凪茶ちゃん誘拐されたの? みたいな目をすんな。今朝、一緒に飯食いながらノロケを聞かされたろうが。
「凪茶氏が通っている高校は、七丁目一言や唯原さんとは別の普通の高校ですから、白昼だろうと、誘拐はさほど困難ではないでしょう。そして凪茶氏の携帯から七丁目一言に呼び出しの電話を掛けることも可能です」
「どうでもいいんですが、凪茶の通っている学校が普通って、ぼくらの学校が普通じゃないみたいじゃないですか。『双堀』の息の掛かってない、真っ当な学校ですよ」
「唯原さんが通っている時点で普通ではありません」
ひどい言い様だった。
「話を戻しましょう。七丁目一言には畦道から電話が来ます。しかし、御灯風景氏は失念していて、畦道は知らなかったのでしょう。いえ、気付いていないと言うべきですか」
十字架さんは空っぽのワイングラスを持ち上げ、ガラスを通して、ぼくを見る。
「七丁目一言のいるすぐ近くには、唯原飛翔がいること。そして」
十字架さんはそこで言葉をためた。
「『不戦』の交渉人、唯原飛翔を相手にした場合、人質はマイナスにしかならないこと」
不戦。
その言葉の重みは、『不殺』より軽く、『失格』より重い。
だから。
「アンタが、その言葉を軽々しく口にするな」
語調がきつくなっていたのか、絆が目に見えて怯えた。
構うか。
「その言葉を己に誓っていいのは、ぼくだけだ」
「…………」
「壱圏さんや明時や七丁目にだって、そんなこと言わせねえよ。勿論、アンタにもな」
『最強』は千影さんから七丁目に受け継がれたが、『不戦』は、誰にも譲るつもりはない。ぼくだけの肩書きだ。
数秒の沈黙の後、何を思ったか、亡名星十字架は拍手をくれた。ぼくに。
「えっと……」
「素晴らしい! そうです、それでこそ唯原飛翔ですよ!」
何故かご機嫌だった。超嬉しそうにしている。狂喜乱舞って感じ。とんでもないレア映像だ。
「腑抜けになったかと心配しましたが、杞憂だったようですね」
そんな心配されていたのか、ぼく。
「みいらさんにも良い報告が出来そうです」
みいらさんにも同じ心配をされていたのか。空恐ろしい。
「考えてみれば、唯原さんは既に一年近く交際しているんでしたね。しかし、そのことに我々は全く気付きませんでした。なら、貴方に変化など起きていない。貴方は、あの唯原飛翔です。『無敵』とまで呼ばれ、あの七丁目一言を欺き、あの『戦争』を唯一利用することに成功した天才、唯原飛翔です!」
指差しされた。
いや、何か怖いッス。
「もしかして、それが目的だったんですか?」
「はい?」
「いや、だからぼく腑抜けていたことを確認するために、あんなデタラメを?」
「デタラメではないでしょう?」
ごまかせると思ったけど、甘くはなかった。
「続きといきましょうか。……七丁目一言に協力を請われた唯原さんは、凪茶さんを救出、畦道百足に勝利。これは確定です。畦道は多分、本気で切れた七丁目一言に殺されたんでしたね。唯原さんは自ら手を汚すような真似はしませんから」
「人聞き悪いですよ。合ってますけど」
本当は違うが、その方がぼくらしいもんな。前夜にも七丁目が殺したって言ったし。
「畦道が死んだ後、七丁目一言は御灯警備局に直行しました。唯原さんがそう仕向けたんでしょうけど」
「何の為にです?」
「真犯人への脅迫、あるいは油断の誘導ではないですか?」
「そんなところです」
悲観的に、次は自分だと恐怖する。
楽観的に、自分は狙われていないと安堵する。
どちらにしても上手く転ぶ。後者に期待しているんだが。
「御灯風景は、あくまで共犯者ですよ。いえ、主犯かもしれませんが、発案者ではないでしょう。凪茶の拉致は彼の独断の可能性が高いですが」
「確証は何なんですか?」
「実は一週間くらい前、『十戒家』関係者の七人が立て続けに、畦道に面会したんですよ」
「その七人が容疑者ですか?」
「ええ。今の段階では白は二人で、後は全員が黒ですね」
「ちなみに、どんな方々が?」
「双堀武人、朝方蒐、御灯風景、鹿羽無黒、銭川木魚、奴鉢法規、朽邦琢磨」
「……全体的にいかついですね。曲者揃いです」
全くだと思う。
「しかし、うちの木魚が畦道に……。それは初耳ですね」
「嘘ですよね」
「バレましたか」
十字架さんは肩をすくめた。いやはや、悪戯っぽい仕草の似合わない人だ。
「銭川木魚は私の命令で監獄に行きました。その命令はみいらさんからの指示です」
「また、みいらさんですか」
よく名前の出る人だ。
「無黒さんが畦道から彼の能力についてリサーチしたことは知っていますよね。あまりにスラスラ話したことを、みいらさんは不審に感じたそうです」
「相変わらず名探偵ですね」
「最初は偽の情報を疑ったようですが、『機嫌が良かった』という無黒さんの言葉に引っかかりました。唯原さんにもよく分かると思いますが、あの屍笞処刑場で機嫌が良いなど有り得るでしょうか。看守ならともかく囚人が」
「……」
有り得ない。皆無だ。
「そして私は木魚を送り込みました。面会の理由は、『グロテスク・エッグ』の資金源の聴取でした。畦道は『戦争』で組織が潰れたとは知りませんでしたから、そのことについては意味もないのに口を割りませんでした。ただ、木魚の印象では何かを心待ちにしていたように見えたそうです。ゲームの発売を待つ子供のように」
そんな無邪気な比喩は、畦道には適さないと思うが。
「そして、そんなタイミングでの唯原さんのスキャンダル。みいらさんは激怒の後に不審に思いました」
「何で激怒したんですか」
「唯原飛翔らしくない行動だと」
命に関わる質問だったのに、スルーされた。
「確かに唯原さんらしくない行動です。非常に貴方らしくない」
何度も繰り返さなくても。
「唯原さんは愛する恋人に『十戒家』という闇を見せようとする人ではありません。そこで、みいらさんは直感したそうです。畦道百足は脱獄し、唯原飛翔はスキャンダルを意図的に起こし、それをカモフラージュに調査をしていると」
「うわあ、大正解です」
それだけの材料で、よくそんな『十戒家』の沽券に関わる大胆な推理が出来たな。さすがは満礫みいら。
「しかし唯原さん、いつの間にか畦道脱獄を認めてましたね」
「今までの、全部みいらさんの推理でしょ?」
「はい。勿論」
「だったら隠しても無駄ですよ」
壱圏さんや階段や、目の前の十字架さんよりも敵に回したくない人だ。当然、七丁目ほどではないけど。
察するに、凪茶がチクったかな。くちどめしたのに。
「それで、唯原さん。主犯は誰なのでしょうか」
「聞いてるでしょ、どうせ」
ぼくは投げやりに言う。
「そうですか」
クールな十字架さんは、テーブルに突っ伏して爆睡している絆に目をやる。
「ようやく睡眠薬が効いたようですね」
「一般人に何使ってんですか」
「一般人、しかも唯原さんの大切な人なので、量を控え目にさせたのですが、減らし過ぎたようですね」
指導が必要ですね、と十字架さんは顔を渋くする。
「薬を使った理由は話を聞かせないためですよ、勿論」
「分かってますよ」
「それは良かった」
十字架さんは口元をナプキンで拭う。
「伝言がありますが、聞きますか?」
ここまでくれば、誰からと聞く必要はない。
「聞きます」
「『こんなつまらないこと、さっさと終わらせなさい』と」
「……なるほど」
簡単に言ってくれるぜ。
「実は私、真犯人のことは聞かされていないんですよ」
「みいらさんらしいですね……」
探偵とは最後まで真実を独占したがる人種なのよ。と、本人が言っていた。
容疑者は七人。
今更、新しい容疑者は出てこない。
朝方蒐は共犯者というより協力者。
鹿羽無黒と銭川木魚が白。
御灯風景は死んだ。
残り三人。全員が本家所属の著名人。うち一人は、当主。
「まあ、その当主が主犯だと最初から決めてかかっていたんですがね」
「ああ、やっぱり彼でしたか」
十字架さんも検討は付けていたらしい。多分、階段も最初から彼を怪しいと思ってたってより、確信していたんだろう。だが、証明できなければ意味がない。だから、ぼくに丸投げしやがった訳だ。
「ちょっと夕涼みに行きますから、絆を頼みました」
ぼくは立ち上がる。
正直眠いから明日に延ばししたかったが、寝ている訳にはいかないよな。みいらさんに発破を掛けられたら。無視したら怖い。
「はい。お気をつけて」
事情を読んだ上で野暮なことを言わない辺り、十字架さんは大人だった。
「さあてと」
終わらせるか。




