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御灯警備局

チートの登場です。

 七丁目ななちょうめ一言ひとこと

 妖刀遣い。自殺志願。五食同盟所属。生徒会副会長。三年生。無愛想。無表情。苦労人。大食漢。某ストーカーの標的。孤独主義者。天才で、天災。睡眠が趣味。不死身。頼りがいがある。勘が鋭い。口が固い。不器用者。割と単純。身内にベタ甘。恐怖の対象。畏怖の代表。『殺神犯』。

 そして、誰よりも何よりも強い。『最強』。

 世界に相手に生き残った男。

 四つの禁忌を食い尽くした怪物。

 歴史上で唯一、『神』を殺害した人間。





「畦道百足? 誰だったかな。ああ、お前が監獄送りにした、あの変態のことか。懐かしいな。嘘だがな。懐かしい訳がない。当時は、俺とお前に接点はなかったからな。『十戒家』所属なこと以外は」

 同居人達と銭湯に行った翌日の昼休憩、ぼくは生徒会を訪れていた。

 ただし生徒会に用事があった訳じゃない。生徒会副会長に用事があるだけだ。まあ、今の生徒会においてはほとんど同じ意味だけど。

 何故なら、会長、会計、書記、庶務がほとんど働かないから。つうか、ほとんど部屋にいない。特に、生徒会長が。何と言っても、あの守永明時だし。

「相変わらず、仕事熱心だな」

「お互いにな。家が潰れたんだから、律儀に『十戒家』からの依頼を受ける必要などないと思うが」

「そうもいかないよ。『壱圏』の当主が、あの人」

 壱圏極地。

「なんだから」

「よく言う」

 七丁目は苦笑した。

「壱圏極地。ただ一人、俺が殺し損ねた『壱圏』の直系だ。本来なら有り得ないが、あいつは生き残って、当主になった。まあ、主な要因はお前だが」

 暗に、壱圏極地が『十戒家』の頭になったのはお前の功績だろう、と言ってくる七丁目。

「それで、畦道って奴がどうした?」

「脱獄した」

「ふーん」

 気楽に極秘情報を伝えたぼくに、どうでも良さそうな七丁目。さすが、肝が据わってらっしゃる。

「明時からそんな話を聞いた覚えはないから、マル秘か?」

「ああ。ぼく以外には、壱圏さんと階段と絆くらいしか知らない」

「斑崎が?」

 七丁目は首を傾げるが「ああ……」とすぐに思い出した。

「バラしたんだったか。酔狂な真似をする。何を考えてんだか」

「何にも考えてないのさ」

「いや、お前は何かを狙ってはいる」

 妙に確信めいた物言いの七丁目。本当に何も考えてないんだけどさ。

 いつだって、ぼくは行き当たりばったりだ。

 だから、あの時も失敗した。

「それで畦道のこと、一応は警戒しておいてくれ。もしかしたら、この街に現れるかもしれない」

「えーっと、畦道ってどんな奴だったっけ?」

 七丁目は天井を仰ぐ。

 どうやら、当時は直接の関係者でなかったからか、畦道がどんな人間だったかは覚えていないらしい。まあ関係のない変態の情報など、うろ覚えが普通だろう。まして、六年も前に捕まったのだ。ぼくと奴の被害者達以外は忘れてしまっただろう。『表』の雑多な事件のように。

「右目に義眼入れていて、ニメートル近い身長で、肩に割れた卵の刺青が入ってる、キモイオッサンだよ」

 監獄にいたと言っても、これらの外見は変わっていないはずた。まさか獄中で性転換したってことはないだろう。

「何だそりゃ。どこいても目立つだろ」

「そうでもないよ。奴は超能力者だからね。意識を操るタイプの」

 鹿羽無黒は存在感が稀薄だが、あれはわざとじゃない。天然だ。畦道はそれをコントロール出来るのだ。言わば人間ステルス。他人の意識を自分から逸らしたり、反対に注目を集めたり出来る。猫型ロボットの道具にも似たような物があったと思う。

 それを聞いて、七丁目は不愉快そうに眉をひそめる。

「確か『グロテスク・エッグ』の改造人間で、死ににくいんだったかな。その能力はその一環か?」

「いや面倒なことに天然。『グロテスク・エッグ』に入る前から、同じようなことはやってたし、能力がキッカケでスカウトされた身だからな」

 だが、改造で新たなる力も得ている。おまけに純粋な肉体強化もされているから面倒この上ない。

 六年前のぼく、よくあいつを捕まえられたよな。どれだけ無鉄砲だったんだか。

「あと、今日の放課後、『御灯』に自慢の彼女を自慢しに行くんだが、何か伝言はあるか?」

「何で俺が」

「実家だろう?」

「大元だっただけで、俺の家はもうないよ」

 七丁目は若干引きつる。気に障ったらしい。

 七丁目の実家だった『十戒家』第五部署『御灯』第五十八分家『七丁目』。

 今はもう存在していない。七丁目の代で断絶した。ぼくの『唯原』のように。

「気をつけろよ」

 部屋から出ようとしたら出し抜けに言われた。

「……お前からそう言われると余計に気をつけないといけない気がするな」

 いや、縁起悪いくらい察しの良い奴だからさ。

 と、思った時だった。

 室内に最近流行りのフォークソングが流れ出した。

 七丁目が胸ポケットから携帯電話を取り出した。おい、生徒会の癖に校則を破るなよ。

「てか、着メロの選曲が意外だ」

「俺の趣味じゃねえ」

 なら誰の趣味かと言えば、聞くまでもない。七丁目一言の携帯をいじるような太い神経の人間は、どこぞの追っかけくらいだ。

 そもそも七丁目に電話を寄越すのだって、彼女を除けばぼくと明時くらいだしな。電話以外を使って意志疎通をやる奴なら、『一体』はいるが。

「誰から?」

「ストーカーから」

 なるほど、凪茶からか。

 立ち聞きも失礼だし、立ち去るか。

「もしもし……、ん? 誰だ、お前?」

 だが、七丁目の言葉が耳に入って、気が変わった。足が止まる。

「あー、俺みたいな化け物を愛する酔狂な女の携帯からの電話のはずなんだが、何故、オッサンらしき声がするのかな?」

 七丁目の声がドンドン尖っていく。剣呑な雰囲気になってきた。

「凪茶に何をした? 返答次第では、お前の組織を食い潰さないといけなくなるが?」

 とりあえず、凪茶の身に何かあったみたいだな……。勘弁してくれよ。

「何? もう潰していたか。それでお前は誰だ? ふむふむ……。少し待て」

 七丁目は携帯の下を抑えて、相手にこちらの会話が聞こえないようにしてから、こんな質問をした。

「唯原、畦道百足ってこいつで合ってる?」





 馬鹿が。

 あの変態、本物の馬鹿だ。

 よりによって、刃宮凪茶を拉致してんじゃねえよ! 監獄生活してたからって、七丁目の恐怖を知らないはず……はっ。そういえば、『戦争』前からいる囚人どもには、『戦争』のことを知らせてねえんだった。理由は実際に目の当たりにしないと、信じられないから。

 仮に知ったとしても、普通は信じないし、信じられないし、信じたくないはずだ。禁忌が滅ぶなど、笑えない冗談なのだから。五年前までは。

 畦道が収監されたのは六年前。だから『戦争』を知らない。七丁目一言の規格外を知らない。己の所属していた組織がどうやって食い潰されたのかを知らない。

 七丁目一言。

 『戦争』を知る者は、彼を敵に回そうとする発想がまずない。台風や津波に兵器で対抗しようとする人間がいないように。

 誰かが、畦道に七丁目のことを教えた。そりゃ自分の組織がなくなってたんだから誰だって何かあったとは思うだろうが、すぐに七丁目に辿り着けるはずかない。

 協力者がいる。それも、階段から貰ったリストの誰かだ。

 屍笞処刑場の看守達は有り得ない。奴らの性癖からして。

 鹿羽研究所の鹿羽無黒は外していい。そもそもあの人が共犯だったら、畦道よりやばい奴を選ぶはずだ。

 満礫美術館の朝方蒐も違うと思う。共犯の一人でこそあれ、主犯ではない。

 リストにあった人間の所属や能力や信念を考えると、答えは出る。多分、階段も最初から分かってはいたはずだ。だが証拠はない。だからこそ、部外者のぼくを頼りにした。

 賢明な判断だ。

 あの泣き虫がよくここまで考えられるようになったな。感慨深くて歯軋りしちゃうよ。

 七丁目の携帯に聞き耳立てて、畦道の肉声を六年ぶりに聞いた。

 あの日のことが鮮明に蘇るようだった。

『初めまして、七丁目一言。俺は畦道百足。貴様が潰した『グロテスク・エッグ』の幹部だ』

「それはさっき聞いた」

 落ち着いているように見えるが、七丁目も内心は慌てているはずだ。

 ストーカー呼ばわりしているが、凪茶は七丁目にとって唯一無二の存在なのだから。

 電話の向こう側で、畦道が鼻を鳴らした。

『ふん。強気だな。貴様がどのようにしてボスを殺したのかは知らんが、同じ手は俺には通じない』

「………………」

 七丁目が無言でぼくを見る。

 ああ、何が言いたいかは分かる。だが、今は黙って電話の相手をしろ。

「どうだろうな。あれを潰してからもう五年だ。俺にも新しい手は増えた。お前の能力だろうと……」

『くっくっく。確かに、俺の能力だけでは苦戦するだろう。だが今俺の許には貴様の恋人がいる。これでは貴様も手も足も出せないのではないか?』

 確かに七丁目みたいなタイプに、人質は有効だ。だが畦道は勘違いをしている。いや、させられているのか。

「一つ確認させろ」

『何だ?』

「凪茶は無事だろうな?」

『今はな』

 頼むから、七丁目を挑発するようなことを言わないでくれ。ぼくと七丁目の携帯の寿命が縮まる。

『何なら声を聞かせてやろう』

 そんな台詞の後に、物音。猿ぐつわでも噛まされているのか。こっちの不安を煽るために、わざと音を聞かせているんだろう。いやだから、七丁目の神経を逆撫でさせてんじゃねえよ。携帯がメキメキと、着メロとは似つかない音を立て始めたぞ。

『一言?』

 どこかおっとりした凪茶の声。拉致されてもマイペースだな……。

「別に心配じゃないが、お約束だから聞いてやる。大丈夫か?」

 ツンデレですか!?

『うん。大丈夫』

 奇妙なほど落ち着いているらしい凪茶。

 だが、次の言葉でその落ち着きの理由に納得した。

『私は、一言が助けてくれるから大丈夫。何も心配してない』

 気持ち悪い信頼関係だ。

 畦道もそう思ったのか、動揺を隠そうとしている声になっていた。

『と、とにかく、この女の命が惜しければ一人で、町外れの廃工場まで来い。一時間以内に、勿論、武器は持たずにな』

 電話はそれで切れた。

 直後に、ぶっ壊れた。物理的な意味で。七丁目が握り潰したのだ。

 携帯の残骸を机に放置して、立ち上がる。目が据わっていた。いつもの無表情が、明確な怒気で彩られる。

 それでいて、口元は笑っていた。まあ怒りで歪んでいるだけなんだけど。そこから見える牙のような歯が、恐怖を煽る。

 太古の時代から生物が持つ根源的恐怖の一つ--『喰われる』という恐怖に、本能が反応する。

 こんな七丁目を見ても、畦道は先程と同じ台詞が吐けるだろうか。

「なあ、唯原ぁ」

「な、何だ?」

 おっかなびっくりな態度のぼくに、七丁目は言う。

「手っていうか頭と目玉、貸してくれないか?」

 出席日数はギリギリだが、この七丁目の『命令』を断れるほど、ぼくは自殺志願ではなかった。





 大変申し訳ないが、結果だけ述べさせてもらう。

 現在、ぼくの目の前で七丁目が凪茶の無事を喜んでいた。

「………………」

 無言で、安堵の涙をお供に、凪茶を抱き締めながら。

「一言、ちょっと苦しい」

 見ろよ、ストーカーの方が辟易してるぜ。まんざらでもなさそうだけど。

 まあ凪茶からしてみれば七丁目が自分を助けてくれることは決定事項どころか確定事項なんだから、改めて感激する必要もないってか。ナイトのやりがいのない奴。

 え? 畦道はどうしたって?

 そこで、転がってるよ。両足と右手と左手首を失って、右耳と、義眼の入っていた右目を改めて潰されて、血まみれになって。内臓も三割って感じ。ああ、無事が三割で、有事つうか損失が七割ね。

 それでも生きている辺り、こいつも化け物だ。まあ、能力は使えないだろうが。

「ぐぁ、が」

 しかもまだ声が出るらしい。逆を言えば、喉と舌がかろうじて損なっていないだが。

 ぼやける眼で、ぼくを睨んでいる……はずだ。

「き、貴様、唯原飛翔か」

 まだ会話も出来るか。

「よお、畦道百足。まだぼくの名前を覚えていたんだな」

 七丁目に喧嘩を売ったから、てっきりぼくのことは忘れているのかとも思ったけど。「忘れるはずがないだろう、貴様の所為で俺はあんな場所に行く羽目に……」

 恨めしく言われても困るよ。

「てめえが『十戒家』相手に連続誘拐事件なんか起こすからだろうが」

 自業自得だ。と毒づいてやる。

 こいつが起こした連続誘拐事件。ぼくが初めて解決した事件。だからこそ印象深いが、胸くそが悪い。被害者には虐待や性的暴行を受けた者もいた。全部で七件。内一件はかろうじて未遂に終わらせた。身の代金目的の誘拐ではなく、『十戒家』への挑発が動機だった。つまり、ほとんど趣味でやってやがった。

 ふざけてやがる。

 ぼくから、あるいは被害者やその関係者からすれば、死刑でも軽いくらいだ。

 あろうことか脱獄とは。

「調子に乗るなよ、ガキが」

 見下げるぼくに、畦道は負け犬オーラ全開で言う。

「何故ボスが死んだくらいで『グロテスク・エッグ』が解散したかは知らんが、かつての同胞達が貴様らを……」

「……呆れた」

 思ったことがつい口から漏れた。いいや、まさか噛みついてこないだろ。どうせすぐ死ぬし。

「畦道、お前、『グロテスク・エッグ』が解散したと本気で思っているのか?」

「何?」

 畦道はぼくの発言の意味に気付いていないのか、怪訝そうにする。

「あの男が嘘を言っていると? 確かに我が組織は禁忌の一つとされているが、実際どこの支部とも連絡がつかんし、どこの酒場で聞いても解散したと……」

「悪い。ぼくの言い方が悪かった」

 それから、楽観視すんな。

 まだ健在だとか、良いように考えるな。『戦争』を自分の目で見ていないからって、気分が悪くなる憶測を立てるな。

「いいか、よく聞け。『グロテスク・エッグ』は解散したんじゃない。壊滅したんだよ」

「なっ……」

 畦道はすぐに言葉が出ないようだった。

「馬鹿なことを言うな! 我らの同胞が何人いると思っている! ボスが死んだからといって……」

「はい、そこ」

 ぼくは、さっきから抱き合ったまま動かない美人と野獣なカップルを尻目に、真実を教えた。

 荒唐無稽な現実を。

「どんな風に聞かされたか知らないが、七丁目が殺したのはお前のボスだけじゃない」

「何だと、幹部の誰かか?」

 ぼくは首を横に振った。哀れむように。

「幹部の全員と、それら以下の全構成員の九割だ」

「ば、馬鹿な」

 まだ信じようとしない畦道に、ならばと聞いてみる。

「この光景を見て、七丁目にそれが出来ないと本気で思うか?」

 ぼくは辺りを見渡す。

 まあ、廃工場があったはずなんだが、


 荒野になっていた。


 更地とも言う。

 七丁目は『これ』を素手でやってみせた。

 何より、畦道自身が七丁目に全く歯が立たなかったのだ。ゲームのチートプレイってあんな感じなのかも。レベルの差が確実に百はあった。

 実力差が、桁どころか単位違いだった。

「ちなみに、七丁目が食い潰した禁忌はお前のとこだけじゃないぞ」

「は?」

 畦道は間抜けな声を上げた。知らなかったらしい。しかし血だらけのオッサンが間抜けな顔しても何も可愛くないな。やっぱりマヌケな声は天然少女に似合うな。ギャップルールで、クール美人でも可。

 それはともかく、七丁目の罪状……いや功績かな。

「『天流八武衆』、『残骸財団』、『赤闇一族』はもう原型が残ってないし、『百鬼夜行』は半壊、『十戒家』だって一割が死んだ。あ、一般人も巻き込まれて三万人ほど死んだし、地底人やら海底人やらもほぼ絶滅したし、先代『最強』の灯台下千影も負けた」

 たった三年で、それだけのことをやった。正確にはこれだけを二年と半年でやって、もう半年は『神』の殺害に費やしたんだが、機密事項なので言わない。

 どうせ死んだら分かることだし。

 地獄に墜ちて、悪魔達から聞いてくれ。

「あ、有り得ん、そんな馬鹿げたことが……」

「あっはっは」

 思わず笑った。

「いいよなあ、『戦争』を知らない奴は。七丁目を知らなくて」

 お前がいたのが監獄なら、五年前から世界は地獄だったんだぜ?

「常識が破壊される恐怖に慣れたぼくらと、監獄で時代に取り残されたお前らとでは、生きる時代が違い過ぎる」

 もう、お前を捕まった六年前とは違うんだよ。

 ぼくは懐から拳銃を取り出す。

 それを見て、畦道が何か喚く。だが、ぼくの耳には届かない。

 マイルールによって、ぼくは禁忌と対峙する時には銃を持つ。こいつはもう禁忌じゃないが、前時代に敬意を払って。

 せめて禁忌として殺してやろう。


 ぼくは引き金を引いた。


 もうじき出血多量で死んだであろう畦道は、完全に死んだ。

「…………ふう」

 憂鬱な気分だ。

「おい、『不戦』」

「何だ、『最強』」

 七丁目はハグをいつの間にか止めて、ぼくの背後に立っていた。凪茶は当たり前のように七丁目の腕に絡みついていた。

「人と戦うのは嫌でも、人を殺すんだな」

「当たり前じゃん」

 戦うのと殺すのは、別な話だし。七丁目の言い方を借りるなら、戦闘と殺人は別腹だ。

「いや、俺はそんな言い回しを使った覚えはない」

 スルー。

「ぼくは不戦を誓いはしたけど、不殺を誓った覚えはないからな」

「…………」

 七丁目は無言で自分の頭を掻いた。

「ねえ、一言」

「何だ、凪茶」

 一言の腕に抱き付いた凪茶が割って入ってきた。

「今回のこと、別に気にしないでいいからね」

 屈託のない笑顔の凪茶。

 多分本心なんだろうが、狙っているとしか思えない発言だ。

 七丁目はいつもの仏頂面をやや歪ませて、

「……凪茶」

「なぁに、一言」

「何か望みを言ってみろ」

「望み? うーん。そうね、一言と二人で食事したいなあ」

「……今晩、空いてるか?」

「え?」

 凪茶には自覚がない。こいつ、ストーカーの癖に鈍いよなあ……。

 いや一応は相思相愛だから、ストーカーではないのかな。でも盗聴器とか仕掛けてるし、家庭内ストーカーってやつか?

 ぼくは周囲を確認する。畦道が張っていた結界のおかげで、人も獣も影も形もない。

 よーし、博打するぞ。

「七丁目、今回の件には裏がありそうだ」

 意味深に切り出したぼくに、七丁目は無言で続きを促す。

「畦道の知識には偏りがあった。お前が『グロテスク・エッグ』を潰したことは知っていたのに、『戦争』のことは知らなかった」

 それに、七丁目とぼくの関係も知らないようだった。もし知っていれば、人質はもう一人増えていたはずだし。

「畦道は脱獄したばかりだ。その脱獄には協力者がいたことが分かっている。多分、その協力者に都合のいい、間違った情報を教えられたんだろ。教えないといけない情報も教えてなかったみたいだが」

 七丁目の戦闘力とか七丁目の桁外れさとか。まあ知っていたところで、ぼくの作戦には支障ないけど。力任せの作戦なんてやってないよ。人質いたんだし。

「唯原、その協力者ってのは誰だ?」

「……悪いが教えられない」

 七丁目は苛立ちを隠そうとせず、ぼくの頭にアイアンクローをしてきた。これ、一歩間違えば本当に頭蓋骨が砕かれるな。

「分かった。死にたくない。教える」

 我ながらわざとらしい三文芝居だ。

「誰だ? 凪茶をこんな目に遭わせた、八回殺しても足りないようなゴミは一体誰だ!」

 らしくもなく憤る七丁目を見て、凪茶はぼくの意図を察したらしい。困惑した目を向けてくる。

 悪い。ちょっと利用させてくれ。

 そして、ぼくは裏切り者を売った。





 その夜の『ホームズ』。

「ねえ、ひっくん。ホントに今日、後藤さんのところに行かなくて良かったの?」

「ああ、予定変更。慌てることもないって。御灯警備局は後回しにして、明日にでも亡名星商会に行こう。あと、絆、字が違うからな。後藤じゃない、御灯」

「そういや、なぎちゃんは?」

「何でも七丁目くんとデートで、今日は食べて帰ってくるそうです」

「へえ、珍しいこともあるもんだ」

「ん? 飛翔、携帯鳴ってんぞ」

「あ、はい。あ、壱圏さんからだ。……はい、ぼくですが」

『飛翔。つい二時間前、七丁目の奴が警備局に突然やってきて、御灯風景を白昼堂々殺していったそうだ』

「それはビックリですね」

『……目撃者の話によると、七丁目は尋常ではないくらい怒っていたらしい。ドアも壁ごと破壊したみたいだしな』

「あいつらしいですね」

『……それから、畦道がどうたらこうたら言っていて、風景は七丁目の言葉に動揺していたらしい』

「畦道ですか。件の脱獄と何か関係あるんでしょうか」

『……飛翔』

「はい」

『俺の周りはどうしてこうも、確信犯だらけなんだろうな』

「人徳じゃないですか?」

『どういう意味だ』

「そういう意味です」

 では、さらば。

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