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交渉人と五食同盟

「彼女と年上のきれい系なお姉さんとロリ可愛い少女と一緒に昼食とか、ちょっとしたハーレム状態じゃんか。どんなリア充だよ。この半熟卵野郎」

「何だ半熟卵野郎って」

「うっせ。カス、馬鹿、アホ、リア充、チキン」

 相変わらず口の悪い殺し屋だな。

「ぼくは業火を呼んだ覚えはあるが、お前を呼んだ覚えは一切ないんだが」

「良いじゃねえか。鎌倉はこうして俺の同行を許可してくれてんだから。なー鎌倉」

 殺し屋はフレンドリーに肩に手を置くが、喧嘩屋は顔色を渋くして眉間を押さえる。

「……不覚」

「どういう意味だ」

「……黙秘」

「その態度が内心を物語ってんぞお?」

「るーいん、馬鹿の癖に『物語る』とか使わないの」

 藍が塁をたしなめる。

「うるせえ! 誰が馬鹿だ! 例え馬鹿でもそこまで馬鹿じゃねえ! 第一、ニートのお前に言われたくねえよ!」

 ムキになる塁を見て、藍が意地悪く笑う。無邪気なのに、意地悪く。

「じゃあ、三辺の長さが3、4、5の三角形ABCで、コサインAは何でしょう?」

「ん? こさいんって何だ?」

「るーいん、本当に高校生?」

 お前が本当に十三歳かよ。まさか今の中学生はもう三角比を習うのか。やばい。このままでは、ニートに遅れを取ってしまう。塁と同系列に語られるなど、交渉人どころか高校生として危うい。

「そういや由紀さんは?」

「買い物」

 今晩の夕食のおかずを探しに。個人的な希望を述べれば、焼き魚が良いかな。

「……質問」

 業火が手を上げる。

 紹介が遅れたが、こいつが鎌倉業火。物静かな喧嘩屋。裏有名人だが、普段は真面目で無口な高校生をやっている。

 どこかの殺し屋みたいに馬鹿でもなく、どこかの死神みたいに守銭奴でもなく、どこかの妖刀遣いみたいに自殺志願でもなく、どこかの道化師みたいに最悪でもない。『五食同盟』では一番まともだ。比較的まともなだけだが。

「何だ?」

「……如月先生は?」

「かっさんなら仕事だよ」

「……残念」

 生きの悪い野菜みたいに、しゅんとなる業火。なるほど。目的は傘子さんだったのか。

 あんな漫画マニアの何が良いんだ? 女医属性でもあるのか? 本人には悪いが、そんなに美人でもない。可もなく不可もなく、月並み。頭はそこそこらしいけどさ。

「……唯原」

「ん?」

「……会長、退屈、危険、悪巧み、要注意」

 暗号か電報かよ。用件しか口にしていない。

 要約すると、生徒会長、つまり守永明時が退屈している。危険だ。悪巧みをしていないか注意する必要がある。と、言っているのだ。

「昨日の今日でかよ」

「……会長、飽きっぽい、故、副会長、いる」

「あんな奴を片腕にしてる癖に退屈出来る神経が信じらんないよ」

「……致し方無し」

「致し方なくない」

 正確には片腕でも腹心でもないけどさ。仲間でも同志でもなく、仕事の同僚。いつ裏切るかもしれないような、微妙にして奇妙な関係。

 明時と七丁目だけではなく、『五食同盟』全員に言えることだ。業火も塁も、今ここにいない前夜も、いつ『五食同盟』を抜けるか分からない。いつ誰が『五食同盟』の敵に回るか知れない。


 きっと『五食同盟』は、いつか解散する。


 どうせ解散するなら早く頼む。世界の為に。もしくは、ぼくの為に。

 無駄な労力が半分以下になる。

「うわー、暇だー。なあ鎌倉、後で駅前にでもナンパしに行かないか?」

「……拒否」

「んでだよ。どうせ傘子さん、お前なんかに振り返らないって」

「…………」

「いだっ! 何しやがる! 真実を言っただけ……、ぐお! だぎゃ! ぐじょ!」

 すごい声を上げながら、塁の顔が変形していく。業火、結構遠慮なく殴っている。

 本気の業火に塁は為す術もなく、無駄な抵抗をしているが、馬鹿だから防げていない。

 塁。常々思ってたけどさ。お前、殺し屋に向いてないよ。

「た、タンマ! 鎌倉タンマ! ちょ、止めろ! マジマジマジ! やばいから! これ以上殴ったら……、ぐお!」

「うけけけ! るーいん、最高! ごうたん、もっとやれやれ! うけけけ!」

 性格悪っ!

「てめえ藍、最悪だな!」

「うけけけ! 性格悪いのはるーいんだし、最悪なのはめっちゃんじゃん」 そうだけどさ。

 怖がってないかと、隣にいる絆をそっと見てみる。恐怖はなかったが、何だか、悲しそうで寂しそうな顔をしていた。

「っ……。あ」

 ぼくの視線に気付いた絆は、取り繕った笑みを浮かべた。わざとらしい、これまで見たこともなかった、見たくもなかった表情だった。

 絆らしくない。

「いつもこんな感じなの?」

 不自然な顔のまま、そんな質問をしてきた。

「ん、まあね」

「なんか、ズルいなあ……」

 は? ズルい?

 何が?

「私を除け者にして、こんなに楽しそうにしてたんだ」

「いや、言うほど楽しくないぞ?」

 苦労の方が多いくらいだ。決して、不幸せとは言わないけど。

「でも絆だって、ぼくがしたいような普通の会話をしていたんだぜ?」

「あ、ごめん。そういうことじゃなくてさ……」

「うん?」

 絆が何を言いたいか、いまいち、ぼくには分からなかった。

「きず……」

「いでえ!」

 見れば、塁が関節技を決められていた。

「おい唯原! 見てないで助けろ! お、折れる折れる! 本当に折れる! ポキッといっちまうから!」

「ごうたん、やっちまいな!」

「……承知」

「承知すんなあ!」

 そして、塁の断末魔が『ホームズ』に響き渡る。


「ぎゃあああああああああああああ!」


 またご近所さんから誤解されるな……。





「何やねん。絆ちゃん、思ったより元気そうやないか」

「きゃー。前ちゃんご心配ありがとう」

「無理に元気の振りせんでええでー」

「わー、気を遣わせてごめーん」

 何だ、このやり取り。

「珍しいね、ぜんやんが『ホームズ』に来るのって」

 同感。

 しかも手土産のケーキまで持ってきた。明日は天気予報が外れて台風が上陸しやがるぜ、きっと。

「あれやあれ。絆ちゃんの入居祝いや。藍ちゃんの時にも来たやん?」

「……? そうだっけ?」

「飛翔はん、ウチ来たよなあ?」

 前夜の目が『話を合わせろ』と言っていた。怖っ。

「ああ。来た来た。藍、記憶力の良いお前にしては珍しいな。まあ、一年くらい前だから曖昧になってもしょうがないけどさ」

「えー……。うーん、思い出せない。ごめんね、ぜんやん」

「構へん構へん。ウチは大きな女やから」

「胸は小さいけどな」

 塁の不用意な言葉に、辺りが凍る。

 おそるおそる、前夜の顔を窺う。ぼくだけでなく、絆も藍も業火も。

 頭が悪い殺し屋だけが呑気に構えている。

「え、えーと、ぜんやん。気にすることないよ、あたしだって同じくらいだし」

 あ、馬鹿。刺激すんな。

「……っさいわ」

「え……?」

「うっさいわあ!」

 前夜が机を叩いた。ご立腹どころか大逆鱗だ。

 そして勢いのまま、塁を殴る。

「ぐへ!? 何しやがる!」

「何しやがるやあらへんわ! 言ってはならんことを平気で言うやない! アンタホンマ阿呆やな! 乙女のデリケートな部分を何やと思っとんのや! しかも……」

 前夜はそこで言葉を区切って、何故か、ぼくの様子を窺ってきた。いや本当に何で? 瞳が潤んでいたから、何も言えなかったけど。

「し、しかも何だよ?」

「~~~っ、何でもないわあ!」

 そう叫んで、前夜は飛び出ていった。

 元々変な奴だけど、こんな奇行する奴だったっけ?

 しかし状況を飲み込めずキョトンとしているのはぼくと塁だけで、業火は渋い顔をしながら首を横に振っていた。

「……無情」

 そして絆と藍は、

「まさかとは思ってたけど、前ちゃん……やっぱり、そうだったんだ……」

「ぜんやん、健気」

 と、意味深な風に呟いた。





 前夜と入れ違いに、由紀さんが買い物から帰ってきた。

「今日はいい時間ですし、食べていってください」

「イエイ! ゴチになります由紀さん!」

「……感謝」

「いえいえ。お二人とも豚肉は大丈夫ですよね?」

「大丈夫っす! 俺に食べらんないのは野菜くらいですから!」

「……心配無用」

「あ。もしかしてトンカツですか?」

「いえ、豚しゃぶ鍋です」

「今五月ですよ!?」

「……違和」

「文句あるなら……」

「ないっすないっす! 鍋大好きっす!」

 というやり取りがあって、夕飯に殺し屋と喧嘩屋が同席することになった。

 正直、ぼくも今の時期に鍋はどうかと思う。

 由紀さんからしたら、絆の入居祝いのつもりなんだろう。『祝い事の時は鍋』が由紀さんの自分ルールらしいし。

 塁達を夕飯に誘ったのも、それが理由なんだろうな。

「ゆっきー」

「何でしょうか?」

「ぜんやん誘っていい?」

「? 何でダメなんですか?」

 おまけに、死神も戻ってくることになった。

 おそらくストーカーってやがるだろう凪茶に、今夜は鍋だとメールを入れておいた。そうしないと、なかなか帰って来ないからな、あの女は。とんだ夜遊びもあったもんだよ。

 このメールを見た凪茶は七丁目を誘うだろうが、あいつは絶対に来ないだろう。そういう奴なのだ。

 花さんも傘子さんも千影さんや正義さんも音岳さんも、夜には帰ってくる。まあ、流水さんは今頃、海外だが。


 今夜は、賑やかな鍋パーティーになりそうだ。

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