交渉人の人間関係
前書いたやつがダメなので新しいやつを書きました。
二作目です。
斑崎絆は、ぼくの彼女だ。
て、違う違う。
間違えた。その話はとりあえず後だ。言いたいことから話したら、聞く方は混乱してしまう。順序はきちんと整理して話をしないと。
とは言え、何から話したものか。
あー、例えばだけど、自分の周辺に、『普通』の人がいない状況って想像出来るかい?
お節介が好きなトレジャーハンターやら、口うるさい家出人やら、童謡が好きな殺人鬼やら、ロリコンテロリストやら、オネエな怪盗やら、物静かな喧嘩屋やら、死にたがりの妖刀遣いやら、男勝りな巫女やら、災厄を撒き散らす道化師やら、凶器マニアのストーカーやら、かなり自己中な支配者やら、人間になることを諦めた妖怪やら、暗所恐怖症の魔術師やら、謎を解かない探偵やら、漫画ばっか読む医者やら、マッドサイエンティストやら、好戦的な超能力者やら、肉食主義の音楽家やら、涙もろい死神やら、生粋で無粋な変態やら、間が悪い殺し屋やら、面倒臭がりな秘密結社の構成員やら。
変人奇人悪人怪人罪人。変わり種で、廃人もいる。
そんな連中しか身の回りにいない、そんな人間しか知り合いにいない、そんな人生が、想像出来るかい?
文字通り、想像を絶する。代わりたいなら、是非もない。代わってくれ。主人公の立場も語り部の役割もくれてやる。
まあ、誰も欲しくないか、そんなもの。 まあ、周りの人間が変人奇人なら話は簡単なんだ。でも、ぼくの場合はそこまで簡単じゃない。
何故なら、ぼくも『普通』じゃないからだ。
『普通』って概念がちゃんと理解できやがる癖に、ぼく自身はちっとも『普通』じゃない。
ぼくの人生も、ぼくの人格も、ぼくの能力も、何一つ『普通』なんかなかった癖に、ぼくは、『普通』を認識し、『普通』に基づいて考えることが出来てしまうという矛盾。
奇妙忌憚、奇想天外な人間関係より、認識している常識と現状が欠片も釣り合っていないことの方が、深刻な悩みだ。
申し遅れた。
ぼくは裏世界の交渉人、唯原飛翔。人は、ぼくの仕事に対するスタイルから、ぼくのことを『不戦の唯原』と呼ぶ。
そう、『不戦』。 ぼくは、戦わない。戦わずして、勝つ。いや、戦わず、勝たず負けず、逃げず向かわず、終わらせる。
決して不死でも不殺でもないが、ぼくは戦わない。
絶対に、戦わない。
何故なら、戦えば犠牲者が出るから。敵にも味方にも、悪にも正義にも、強者にも弱者にも、身体にも精神にも時間にも空間にも環境にも関係にも、自由にも平和にも安寧にも、被害が出る。
痛々しく苦々しい、目を背けたくなる程、目を向けなくてはならない程、誰かが傷つく。
だから、ぼくは戦わない。それが最善でなくとも、それが最悪であろうとも。
ぼくは、戦わないと、交渉人になった日から、絆に出逢った日から、彼女を知り救われたその日から、そう決めた。誰に約束した訳ではなかった。ただ、この魂に誓った。
他人としか戦ったことのないぼくは、自分を含めた人間全てを敵視しかしたことのないぼくは、自分も他人も平等に破壊してきたぼくは、誰とも戦わないことを誓った。
おかげで、人生がかなり良いものに変わった。錯覚だとしても構わない。所詮、人生における感覚など八割は錯覚だ。
本当に、絆にはいくら感謝してもしたりない。
さて。
いよいよ、絆の話をしよう。
可愛くて思いやりがあって癒し系で天然さんでドジで抜けてて単純でいつも元気でワガママで乱暴だけどそこもまた魅力的で頑張り屋で誰とでも仲良くなれて気丈で優しくて根は良い子で少しひねくれ者で子供好きで子供っぽくて動物好きで猫っぽくて虫が苦手で照れ屋で怖がりで綺麗好きで料理好きだけど苦手で甘党で突っ込みが上手で嘘つきで笑顔が素敵で方向音痴で歌が上手で泣き虫で寂しがり屋でお人好しで集中が苦手で継続が苦手で不器用で漫画はジャンプが好きで時々男前で優柔不断だけど一途で熱心で存在するだけで救いで傍にいてくれるだけで安心できて、ぼくを信頼してくれてぼくを親愛してくれて--何より『普通』で常識人な、ぼくの彼女の話を。 ………あれ?
いや、ほとんど語ちゃったな。
えーと、補足があるとすれば、同い年で、背は日本人女子高生の平均的サイズで、柔和な顔立ちをしていて、全体的にぽわーんとしていて、発育はボチボチで、服はワンピースがお気に入りで、時々伊達メガネをして、髪型は定期的に変えていて、今はポニーテール………。こんな感じか? まだ語り足りない気がしないでもないが。
ぼく程度の言葉で、絆を判断して欲しくないんだよ。うん。
とにかくさ、この話はそんな『普通』な絆と、絆の恋人で交渉人のぼくと、ぼくと知り合いな変人奇人達の物語だ。
ぼくの戦わない日々を、とくと見てくれ。
人様に見せるほど、自慢できるものじゃないけどさ。