はじまり
「は?あ、あんだて?」
女は目の前の男に今ではほとんど使わない地方語でそう聞き返してしまった。
「いや、あの…旦那様どうやら私のこの耳は腐って聞こえにくくなってしまったようで…失礼ですがもう一度おっしゃっていただけませんか?」
「だからね君は選ばれたのだよ、賢者帝の誕生日に行われる「帝付き侍女候補」選定会に。いやあ~、帝都から知らせが届いた時には一瞬冗談かとびっくりしたよ。何せ候補に選ばれるのはほとんど貴族のご令嬢だからねえ」
男こと、このガイン地方を治めるアドニス・ガイン子爵は女ことガイン家に仕える侍女メリースに笑いながら答えた。
「……それで私に帝都に行けと」
「メリース、独り身の僕には君は可愛い娘みたいなようなもので、父としては行かせたくないよ。でも、帝付き侍女候補は選ばれると教養を受けられるし、もし選ばれなくてもここに帰ってこれる。…………それに帝都からのお達しだしね!」
「旦那様、後者が本音ですね………わかりましたよ。帝都に行って撃沈してくればいいんででしょう」
「ちなみにね、帝都エイルダまで馬車で一週間かかるんだけど帝の誕生日も一週間後なんだ。出来れば今すぐ荷物を括って今日中に出発して欲しいんだよねえ」
「…………旦那様、急すぎます」
かくして物語とメリースの帝都エイルダへの旅は始まったのだった。