Rhapsody in Blue
激しい雨音に隠れるように聞こえてきた音楽にふと少年は足を止めた。
「なんだろう」
なぜかリズムがすこしずれた、それでいて調和した音色に惹かれ少年はその音のする方に歩き出した。
その音源に近づくにつれなぜか心が浮いてくる。
きっと楽しい事が待っているのだろうと少年は足を速める。
それから30秒も歩くと一軒のカフェに着いた。『Rhapsody in Blue』それがこのカフェの店名だ。
ゆっくりとその戸を少年は開くとそっと中へ体を滑り込ませた。
「いらっしゃいませ。お席へどうぞ」
そうにこやかにカフェの店員の可愛らしい少女が言い少年は言われるままカウンター席に着く。
「少年、ここは初めてか?」
ふとそんな声を聞き、少年はその声の主を見る。
それはとても品のいい老紳士だった。
「ええ、まあ」
「この音楽に誘われて来たのか?」
「そうです」
少年がそういうと老紳士は顔をほころばせた。
「なら運がいい、この曲は雨の日にしか流さないんじゃよ」
「はあ、なんでですか?」
「それは―――
「あ、いっけない空が晴れるわ」
店員の少女はそういい曲を止めた。
魔法はもうおしまいと言うように。
「それじゃあ、わしは行くかの」
「まってください」
少年は気が付くとそう口にしていた。
「どうしてあの曲は雨の日にしか流さないんですか?」
「あの曲の名前をしっとるか?」
「いえ」
「あの曲の名前はRhapsody in Blue。意味は――この曲はまだ青い」
「?」
あっけにとられる少年をよそに老紳士は去ってゆく。
青すぎた少年は、ただそれを見つめた。