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白い虫取り撫子に乾杯!

作者: 怪連堂
掲載日:2026/04/05

 嗚呼、全く。やるせない。

 またミスをして叱られている部下を見て、深々と溜息を吐く。

 万年人手不足のこの部署へ新人が来たのは実に喜ばしいことなのだが、如何せんその新人がやらかしまくることこの上ない。

 説明しても上の空。月に一回は遅刻する。単純なミスも多いしその上、謝罪しない。のらりくらりと責任逃れをして「でもでも、だって」のオンパレード。だというのに被害者面は一人前。

 俺が怒鳴るからいけない。

 ずっと睨んでいるから仕事がやりづらい。

 苛立ちが雰囲気を悪くして委縮してしまうからミスをする。

 俺だって怒鳴りたかないさ。怒鳴る力があるのなら、別の仕事に使いたい。睨んでいる暇があったら資料に目を通したい。イライラするのはお前がミスをしても一人では満足に後片付けができないからだろう。

 また溜息を吐く。最近はこんな感じで碌に仕事が片付けられないから余計に腹立たしい。

 いけない、いけない。今日は結婚記念日だ。

 妻と出会い結婚してから、結婚記念日を欠かすことは無かった。

 帰ったら美味しい妻の手料理と、この日のために取り寄せた高級ワインが待っている。

 今日だけは新人がどんなことをしても仕方が無いと許せそうだ。

 今日は結婚記念日だと新人に話したら面食らっていた。俺に家族がいることがそんなに変か?


 退勤間際、新人に呼び出された。

 何だろう。恨み言か何かか?いつも怒鳴ってしまっているのは悪いと思っている。だが何もこんな時に呼び出すことは無いだろう。今日は早く帰りたいというのに、何故にまた屋上なんかに。

 渋々行ってみると、新人は緊張した面持ちで小さな花束を差し出した。小さな白い花と紫の花が可愛らしい。

 これは何だと聞くといつものお礼だと。そして妻にプレゼントしてやってくれ、と。

 あれだけ叱りつけてしまっていたから、てっきり嫌われているものだと思っていた。勇気を振り絞り渡してくれたのだろう。どうにも照れ臭く、感謝を述べると新人はどこか引き攣ったような笑顔を見せた。

 やっぱり嫌われている。だがこんな素敵な贈り物をくれたことは素直に嬉しい。久しぶりにこそばゆいと感じた。自分の努力というか、やっていることが報われるというのはやはり胸が熱くなるものだ。余韻に浸ろうと、フェンスに寄りかかると嫌な音がした。

 めきり。

 浮遊感。

 金星が光る夜空。

 空気が後ろから前へ流れていく。

 かろうじて見えたのは、醜悪な新人の笑み。

 地面が迫る。俺は涙が溢れる目を閉じた。

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