表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/67

第45話 紫の勇者、舞台へ

世界が静止していた。

白い空、白い大地、白い人々。

すべてが均等で、すべてが無音――まるで時間そのものが息を止めたようだった。


だがその中心に、ひとつだけ異物があった。


紫の炎。


それは、青と紅、そして黒の狭間から生まれた。

理想でも、絶望でも、秩序でもない。

“心”という名の、曖昧で不完全な輝きだった。


◇ ◇ ◇


【大広間】


黒の勇者は静かに立っていた。

その表情は相変わらず無機質で、

だが、彼の足元で床が微かに震えている。


アマリアの祈り鈴が鳴るたびに、

白の世界がわずかに“揺らぐ”のだ。


「……不要な干渉です。排除します」


黒の勇者が腕を上げる。

その指先から、白い光が放たれ、

鈴の音を掻き消そうとする。


だが、その瞬間――光の奥から声が響いた。


『――鈴の音を消すなんて、ずいぶん趣味が悪いね』


白い光が裂け、紫の閃光が爆ぜた。


◇ ◇ ◇


白の大地が波打ち、

そこに“彼”が現れた。


かつての勇者。

けれど、その瞳にはかつてなかった色が宿っている。

冷たさと優しさ、憧憬と絶望――それらが均衡した紫の光。


「……久しぶりだね。僕の“理想”」


黒の勇者が振り向く。

無表情の奥で、何かが微かに揺れた。


「あなたは、もう不要です。

 世界は完全に統一されました。

 あなたの“心”は、混乱の源にしかならない」


勇者は笑った。

「知ってる。

 心ってのは、めんどくさいし、痛いし、汚い。

 でもね――それが、僕たちを人にしてるんだ」


◇ ◇ ◇


二人の間に、空気が走る。

紫と白。

まるで“神”と“物語”が衝突するような、静かな緊張。


ミディアが塔の上から叫んだ。

「勇者ちゃんっ! 感情干渉波が広がってるわ!」


ジークが剣を握る。

「いいぞ……やってみせろ、勇者!」


アマリアが祈る。

「あなたの心が、世界を取り戻しますように……!」


◇ ◇ ◇


黒の勇者が一歩踏み出した。

「不要な概念を削除します。心、感情、記憶――全てを無へ」


彼が放った白い光が、直線的に勇者へ向かう。

だが紫の勇者はそれを避けず、ただ静かに手を伸ばした。


「ねぇ。君は“理想”を選んだ僕の影だろう?

 なら、せめて僕の痛みも知ってから消えなよ」


指先が触れた瞬間、

紫の光が弾け、世界が反転した。


◇ ◇ ◇


二人は“心の世界”へ落ちていく。

無限の闇の中、記憶が漂い、声が木霊する。


『助けて……』

『ありがとう……』

『僕は君になりたかった』

『僕は君に憧れていた』


勇者はその声の中に立ち、

静かに目を閉じた。


「……君は僕の夢だったんだね」


黒の勇者が息を呑む。

「夢……?」


「うん。

 君は“完璧な勇者になりたい僕”が作った幻。

 だけどね、物語は完璧じゃ終われない。

 欠けたままでも、生きていくのが――僕たち人間だ」


◇ ◇ ◇


闇が裂け、光が降り注ぐ。

紫の勇者が剣を掲げた。


「――だから、ここで終わりにしよう」


黒の勇者は静かに笑った。

「理解しました。あなたは、私の“原典”だったのですね」


そして目を閉じた。

「ならば、消滅をもって感謝としましょう」


紫の剣が振り下ろされ、

黒の光が霧のように散る。


だがその最後の瞬間、黒の勇者は微笑んだ。


「……心。

 悪くない、ですね」


◇ ◇ ◇


白の世界が崩壊し、

紫の光が空へと広がっていく。

それは炎でも、奇跡でもない。


――“心”が再び脈打つ音だった。


ミディアの頬を涙が伝い、

ジークは笑いながら剣を掲げ、

アマリアは祈り鈴を高く鳴らした。


チリ――チリ――


その音が、世界のリズムを取り戻す。


◇ ◇ ◇


【虚空】


勇者は静かに空を見上げていた。

彼の背後で、崩れた幕がゆっくりと閉じていく。


「幕は閉じたけど……

 観客が笑ってるなら、それでいいや」


彼は手を伸ばし、

一片の光を掴む。

それは、黒の勇者が残した小さな欠片。


「ありがとう。

 君がいなければ、僕は“自分”を思い出せなかった」


◇ ◇ ◇


紫の空。

世界は、ようやく再び“心”を持った。

そして物語は――まだ終わらない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ