第33話 青い影、再び
夜明け前の王都は、まだ静まり返っていた。
だが、沈黙の底では確かに何かが“蠢いていた”。
崩れた城壁の影から、淡い光が漏れ出している。
青白く、幽かに揺れ、まるで夜の息のように漂っていた。
それは炎ではない。
魔法でもない。
ただ、世界そのものが“呼吸”しているかのような光。
そして――その光を最初に見つけたのは、アマリアだった。
◇ ◇ ◇
「……見えますか?」
彼女は祈りの鈴を握りしめながら、震える声で言った。
ミディアが目を細める。
「ええ。魔力の波……けれど、これは自然なものじゃないわ」
ジークは剣を構え、ゆっくりと前に出る。
「魔物の気配はない。けど、魔力が逆流してる……?」
風が止んだ。
次の瞬間、瓦礫の隙間から青い光がふわりと浮かび上がった。
まるで、そこに誰かの“影”が立ち上がるように。
アマリアが息を呑む。
「……勇者、さま?」
◇ ◇ ◇
光の中から、声が聞こえた。
それは、確かに“彼”の声だった。
『……まだ、幕は閉じてないよ』
幻聴のように、柔らかく、しかし確かに。
その声は夜気を震わせ、アマリアの胸に響いた。
ミディアが驚いたように目を見開く。
「……魔力共鳴? でも、これは……意志そのものよ」
ジークが剣を握り直す。
「生きてる。あいつ、生きてるんだな……!」
◇ ◇ ◇
青い光が揺れ、ゆっくりと形を変えていく。
やがて、それは人の形を模した“残像”となった。
ぼやけた輪郭、けれど確かに勇者の姿。
だが、その影の背後に――もうひとつの“紅い光”がちらついた。
ミディアが目を細める。
「……見える? もう一つ、重なってるわ」
アマリアが振り向く。
「どういうことですか?」
「まるで……二つの魂が、同じ座標に存在しているみたい」
ジークが低く唸る。
「まさか……仮面の主か」
◇ ◇ ◇
青と紅。
ふたつの光が重なり、空中でゆらめく。
まるで水面に映る月と太陽。
そしてその境界が、音もなく裂けた。
風が逆流し、瓦礫が浮かび上がる。
空気そのものが悲鳴を上げた。
ミディアが杖を構える。
「……空間が歪んでる! このままだと――」
彼女の言葉を遮るように、アマリアが叫んだ。
「勇者さまっ!」
◇ ◇ ◇
だがその瞬間、青と紅の光が弾け飛んだ。
まるで見えない波が世界を叩いたように、地面が震える。
風が一気に吹き抜け、空が白く染まる。
視界が戻った時、光は消えていた。
ただ、地面にはひとつの紋章が刻まれていた。
青と紅が交差する“双環の印”。
ジークがそれを見下ろし、低く呟いた。
「……再契約の印、か」
ミディアが顔をしかめる。
「勇者ちゃん、まさか――」
アマリアは膝をつき、地面に手を置いた。
「でも……感じます。彼はまだ、私たちを見てる」
◇ ◇ ◇
空を見上げると、夜明けの光が差していた。
その空の端に、ほんの一瞬――青い火花が走った。
それはまるで、彼が“舞台の裏”から笑っているようだった。




