第31話 灰の上の希望
王城の崩壊から三日。
かつて白亜だった城壁は黒く焦げ、塔は折れ、
庭園にはまだ煙の匂いが残っていた。
けれど、瓦礫の中には命の気配もあった。
負傷した兵たちは互いを支え合い、
民は壊れた橋を直し、井戸を浄化しようとしている。
「……強いものですね、人って」
アマリアが祈りの手を胸に当てながら、小さく呟いた。
隣でミディアが肩をすくめる。
「強いのかしら、それとも愚直なのかしら。
どちらにせよ、舞台はまだ続いているようですわね」
ジークは焦げ跡の地面に膝をつき、黙って地面を見つめていた。
そこには、青く焦げ付いた剣痕が一本、深く刻まれていた。
◇ ◇ ◇
「……勇者のものだ」
ジークは呟いた。
「この焦げ方、あいつの剣の火花と同じだ」
アマリアが顔を上げる。
「じゃあ……! 勇者さまは生きているんですか?」
「断言はできませんわね」ミディアが冷静に答える。
「ただ、魔力の痕跡は今も残っている。
“消滅”したのではなく、“どこかへ消えた”……そんな感じですわ」
ジークは拳を握りしめた。
「……なら探す。城の地下はまだ崩落したままだが、必ず通路があるはずだ」
◇ ◇ ◇
その夜。
三人は焼け残った王城の一角に野営を張っていた。
崩れた壁の向こうから、風がひゅうと鳴る。
焚き火の火が弱く揺れ、橙の光が三人の顔を照らした。
「なぁ、アマリア」ジークが低く言った。
「お前はまだ信じてるのか? あいつを」
アマリアは目を閉じ、静かに答える。
「ええ。どれほど闇に近づいても……勇者さまの中には、光があります。
それを信じられなくなったら、私は僧侶でいられません」
ミディアが火の粉を見つめながら、柔らかく笑った。
「信じる、ね……。
でもね、あの子はきっと、“信じられる”ことさえ演出に使う人よ」
「どういう意味だ」ジークが眉をひそめる。
「彼は、舞台の上で生きる人。
誰かが見ていなきゃ呼吸もできない。
だから、きっと――見せてくれるわ。
私たちの想像を裏切る“次の幕”を」
◇ ◇ ◇
風が吹き抜け、火が小さく爆ぜた。
夜空の彼方で、雲が裂け、ひとすじの光が差し込む。
アマリアがそれを見上げ、手を合わせた。
「どうか……この光が、勇者さまのいる場所にも届きますように」
ジークは剣を握り、立ち上がった。
「必ず見つけ出す。
たとえこの城が崩れ、世界が変わっても――あいつを取り戻す」
ミディアはゆっくり立ち上がり、夜風に髪をなびかせる。
「ふふ……なら、探しましょう。
幕が下りていないなら、観客として最後まで見届けてあげなくちゃ」
◇ ◇ ◇
焚き火の明かりが三人の影を重ねる。
その足元で、瓦礫の隙間から――かすかな青い火花が瞬いた。
まるで、遠くの地下で誰かが笑ったように。




