表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/67

第31話 灰の上の希望

王城の崩壊から三日。

かつて白亜だった城壁は黒く焦げ、塔は折れ、

庭園にはまだ煙の匂いが残っていた。


けれど、瓦礫の中には命の気配もあった。

負傷した兵たちは互いを支え合い、

民は壊れた橋を直し、井戸を浄化しようとしている。


「……強いものですね、人って」

アマリアが祈りの手を胸に当てながら、小さく呟いた。


隣でミディアが肩をすくめる。

「強いのかしら、それとも愚直なのかしら。

 どちらにせよ、舞台はまだ続いているようですわね」


ジークは焦げ跡の地面に膝をつき、黙って地面を見つめていた。

そこには、青く焦げ付いた剣痕が一本、深く刻まれていた。


◇ ◇ ◇


「……勇者のものだ」

ジークは呟いた。

「この焦げ方、あいつの剣の火花と同じだ」


アマリアが顔を上げる。

「じゃあ……! 勇者さまは生きているんですか?」


「断言はできませんわね」ミディアが冷静に答える。

「ただ、魔力の痕跡は今も残っている。

 “消滅”したのではなく、“どこかへ消えた”……そんな感じですわ」


ジークは拳を握りしめた。

「……なら探す。城の地下はまだ崩落したままだが、必ず通路があるはずだ」


◇ ◇ ◇


その夜。

三人は焼け残った王城の一角に野営を張っていた。

崩れた壁の向こうから、風がひゅうと鳴る。

焚き火の火が弱く揺れ、橙の光が三人の顔を照らした。


「なぁ、アマリア」ジークが低く言った。

「お前はまだ信じてるのか? あいつを」


アマリアは目を閉じ、静かに答える。

「ええ。どれほど闇に近づいても……勇者さまの中には、光があります。

 それを信じられなくなったら、私は僧侶でいられません」


ミディアが火の粉を見つめながら、柔らかく笑った。

「信じる、ね……。

 でもね、あの子はきっと、“信じられる”ことさえ演出に使う人よ」


「どういう意味だ」ジークが眉をひそめる。


「彼は、舞台の上で生きる人。

 誰かが見ていなきゃ呼吸もできない。

 だから、きっと――見せてくれるわ。

 私たちの想像を裏切る“次の幕”を」


◇ ◇ ◇


風が吹き抜け、火が小さく爆ぜた。

夜空の彼方で、雲が裂け、ひとすじの光が差し込む。


アマリアがそれを見上げ、手を合わせた。

「どうか……この光が、勇者さまのいる場所にも届きますように」


ジークは剣を握り、立ち上がった。

「必ず見つけ出す。

 たとえこの城が崩れ、世界が変わっても――あいつを取り戻す」


ミディアはゆっくり立ち上がり、夜風に髪をなびかせる。

「ふふ……なら、探しましょう。

 幕が下りていないなら、観客として最後まで見届けてあげなくちゃ」


◇ ◇ ◇


焚き火の明かりが三人の影を重ねる。

その足元で、瓦礫の隙間から――かすかな青い火花が瞬いた。


まるで、遠くの地下で誰かが笑ったように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ