第30話 闇にて再会す
湿った空気。
焦げた石の匂いと、遠くで滴る水音。
──ここは、王城の地下。
崩壊の衝撃で天井が落ち、地上との通路は完全に塞がっていた。
僕はゆっくりと上体を起こした。
全身に鈍い痛みが走る。
けれど、まだ動ける。
そして何より、剣が――青い火花を散らしながら、僕のすぐ傍にあった。
「……やっぱり、生き延びちまったか」
喉の奥で乾いた笑いが漏れる。
◇ ◇ ◇
闇の奥に、微かな光が揺れた。
足音がひとつ。
――いや、二つ。
「……目を覚ましたか、勇者」
その声を、僕は知っていた。
低く、深く、まるで舞台の幕間に響くナレーションのような声。
炎に照らされた岩壁の影から現れたのは、
昨夜、王の間で消えたはずの男――豪奢な仮面の主だった。
◇ ◇ ◇
「お前……生きてたのか」
「お前もな」
仮面の奥の声が、愉快そうに笑った。
二人の間に漂う沈黙は、緊張ではなく、どこか“共演者”のような間だった。
「王はどうなった?」
「知らん。だが、玉座は燃え落ちた。
あの瞬間、世界はほんの少しだが――書き換わった」
仮面の主は壁にもたれ、淡々と語る。
「だが幕は終わっていない。観客はまだ、次の幕を求めている」
僕は剣を握りしめた。
「……観客、ね。お前もそう思うのか」
「当然だ。
この世界は一つの劇場。
王も民も、そして我らすら、舞台の上の登場人物に過ぎぬ」
◇ ◇ ◇
僕は笑った。
「同感だ。……けど、脚本を書くのは観客じゃない」
「なら、誰だ?」
「役者だよ。
“勇者”っていう役を、僕は最後まで演じてやる。
でもその結末は――観客の望む“正義”なんかじゃない」
仮面の主は静かに頷いた。
「やはりお前は、こちら側だ」
◇ ◇ ◇
沈黙。
二人の間に、青と紅の光が交錯した。
僕の剣の青い火花と、彼の掌に宿る紅い魔力が、地下の闇を照らし出す。
「……勇者よ。
次の幕を共に創ろう。
王も貴族も神も滅びた後の、新しい舞台を」
僕は剣先をわずかに持ち上げ、にやりと笑った。
「悪くない提案だ。
でも“共演者”は一人で十分って、前にも言ったろ」
◇ ◇ ◇
剣が振るわれ、紅い光がはじけた。
爆ぜるような衝突音。
しかしその直後、二人の姿は光の中に溶けていった。
崩れた地下の奥で、再び火花が弾ける。
青と紅――二つの光が交錯し、まるで新しい“幕”の火点しのように、暗闇を照らした。




