第29話 瓦礫の中の空白
──世界が、静かだった。
どれほど時間が経ったのだろう。
空はまだ曇り、焼け焦げた王城からは薄い煙が立ちのぼっている。
瓦礫の中で、崩れた石壁と折れた柱が無造作に散らばり、
焦げた布の匂いと鉄の臭気が風に流れていった。
その中に、アマリアの声が響いた。
「……勇者さま! どこですか、勇者さま!」
彼女の白いローブはすすで汚れ、手は血に滲んでいた。
それでも、祈るように瓦礫をどけ、呼び続ける。
ミディアは肩をすくめながらも、無言で魔法の光を放ち、捜索を続けていた。
ジークは黙ったまま、剣の柄を強く握っていた。
◇ ◇ ◇
「……王は?」
ジークが低く問う。
「ご無事です。けれど……重傷で」アマリアの声が震える。
「玉座も、すべて……」
ミディアが息を吐く。
「王城は崩壊寸前。 あの“浄火の陣”、威力が想像を超えていましたわね」
「勇者は、奴と相打ちになったのか?」
「そう見えますわね」ミディアが淡々と答える。
「仮面の主の姿も消えていましたし」
アマリアは震える声で呟いた。
「……そんな。そんなはず、ありません。勇者さまが……」
◇ ◇ ◇
彼女は両手を組み、瓦礫の山の前で膝をついた。
「神よ……どうかお導きください。彼の魂がまだこの地にあるなら――」
祈りの光がゆらりと揺れた。
その瞬間、遠くの崩れた壁の隙間で、何かがきらめいた。
「……!」アマリアが駆け寄る。
そこにあったのは、焦げた地面に突き刺さった一本の剣。
柄の部分に、青い火花が微かに瞬いていた。
「これ……勇者さまの……!」
◇ ◇ ◇
ジークが剣を手に取り、まじまじと見つめる。
「……熱い。まだ、力が残ってる」
ミディアが目を細める。
「魔力の残留。彼自身の“意思”が、剣に宿っているのかもしれませんわね」
アマリアは涙を拭いながら、剣を両手で抱いた。
「勇者さま……絶対に、戻ってきてください」
ジークは拳を握りしめる。
「戻るまで、俺たちは戦い続ける。
王城は壊れたが、国はまだ死んじゃいない」
◇ ◇ ◇
その頃――。
崩れた王城の地下、ひとつの影がゆっくりと目を開けていた。
視界はまだ霞み、耳鳴りが止まらない。
……ここは、どこだ?
焼け焦げた壁、崩れた天井。
その中で、かすかに青い火花が漂っていた。
僕は息を吸い込み、笑った。
「……どうやら、まだ幕は下りてないらしい」




