第28話 崩壊の中の対話
「――浄火の陣、発動」
仮面の主の声が響いた瞬間、王の間の床に刻まれた紋様が紅蓮に輝いた。
眩い光が大理石の床を這い、柱を包み、壁を焦がす。
空気が震え、炎が音を立てて踊り出す。
王が叫ぶ。
「止めろ! このままでは城が――!」
ジークは剣を抜き、光の壁に斬りかかるが、刃は弾かれた。
アマリアの祈りは焼かれるようにかき消され、ミディアの魔弾は空間の歪みに飲まれて消える。
全員が押し寄せる光に目を覆う中、僕だけが、その中心へと歩み出していた。
◇ ◇ ◇
「勇者!」ジークが叫ぶ。
「お前、何をしている!」
僕は振り返らずに答えた。
「……幕が下りる瞬間に、主役が立っていなきゃ締まらないだろ?」
「ふざけてる場合か!」
ミディアが息を呑み、目を見開いた。
「待って……この魔法、勇者ちゃんの魔力を吸ってる……! そんなに近づいたら――」
「構わない」
僕は光の中心、仮面の主のもとへと歩を進めた。
炎の向こうで、あの白い仮面がゆらりと笑う。
◇ ◇ ◇
「やはり来たか、勇者」
「当然だろ。お前が幕を上げたんだ。僕が下ろさなきゃ、筋が通らない」
「筋、か」仮面の主は低く笑う。
「ならば問おう。お前の筋は、どこに通じている?」
僕は足を止めた。
「……それは観客が決めることさ」
「観客?」
「この世界の誰もが、僕たちの芝居を見てる。
民も、王も、神すらも――。
だから僕は、最後まで“勇者”を演じる。
だが幕の裏で、魔王に憧れる自分を隠しきれないまま、ね」
◇ ◇ ◇
仮面の主が一歩、僕に近づいた。
炎に照らされた仮面の奥で、瞳がかすかに光る。
「……やはり、面白い。
お前のような勇者がいれば、世界はもっと壊せる」
「壊すのが目的か?」
「違う。壊れた後に立つ“新しい秩序”が目的だ」
仮面の主が手を伸ばす。
「来い、勇者。共に新たな物語を創ろう」
◇ ◇ ◇
その瞬間、僕の胸の奥で青い火花が爆ぜた。
……心が、熱い。
これは怒りでも正義でもなく、ただ“劇の興奮”そのもの。
「誘いは悪くない」
僕は笑った。
「けど、演出が単調だ」
剣を抜き、仮面の主の腕を弾く。
刃が火花を散らし、光の奔流が二人を包んだ。
「僕の舞台に、共演者は一人で十分だ」
◇ ◇ ◇
光が頂点に達した瞬間、轟音が響いた。
壁が裂け、天井が崩れ、王の間が白い閃光に飲み込まれる。
仲間たちの叫びが遠くで聞こえた気がした。
ジークの怒声、アマリアの祈り、ミディアの嘆息。
すべてが光に溶けていく中、
僕はただ、仮面の主と向かい合っていた。
「勇者……」
「魔王に憧れた勇者、だ」
二人の影が重なり、やがて爆発音と共に、すべてが白に染まった。




