第27話 王の間の決断
王城の大扉が、轟音を立てて開かれた。
吹き込む冷たい風が、燃え盛る炎と血の匂いを運び込む。
王の間に、仮面の群れがなだれ込んだ。
「陛下を守れ!」
ジークの怒声が響き、兵たちが盾を構える。
だが敵の数は多く、そして何より――内部から導かれているかのように、迷いなく道を進んでくる。
ミディアの魔弾が炸裂し、アマリアの祈りが白光となって弾ける。
混乱と怒号の中で、王が立ち上がった。
「勇者よ! この国を――!」
その声が、鼓膜を震わせる。
けれど僕は、すぐには答えなかった。
◇ ◇ ◇
戦場の中心に立つ豪奢な仮面。
その人物がゆっくりと手を掲げると、仮面の群れが一斉に動きを止めた。
静寂。
その中で、仮面の主が低く笑った。
「勇者よ。
正義と忠誠を捨て、真の自由を選ぶ時が来た。
王は弱く、民は盲目だ。
お前ほどの者が、なぜ“駒”で終わろうとする?」
王の眉がひそめられる。
「貴様、勇者を惑わすな!」
豪奢な仮面はわずかに頭を下げ、まるで芝居の台詞を紡ぐように言った。
「惑わせる? 違う。彼はもう、こちら側を見ている」
◇ ◇ ◇
ジークが剣を構え、間に割って入る。
「勇者、聞くな! こいつらは王都を壊す気だ!」
アマリアが祈りながら叫ぶ。
「勇者さま、私たちを信じてください……!」
ミディアは片目を閉じ、薄く笑った。
「どちらを選んでも、舞台は盛り上がりますわ。
さあ、どんな結末を選ぶのかしら?」
◇ ◇ ◇
僕は剣を持つ手をゆっくりと下ろした。
視線は王と、仮面の主と、その間で揺れる仲間たちへ。
王の背後には黄金の玉座。
仮面の主の背後には、炎に照らされる黒い影の群れ。
どちらも舞台。
どちらも観客を惹きつけるには十分だ。
「……なるほど。面白い」
僕は静かに笑い、剣先を地面に突き立てた。
「ここが最終幕か――それとも、第二章の開幕か」
◇ ◇ ◇
その言葉と同時に、床を這う魔法陣が光を放った。
ミディアが顔色を変える。
「これは……!」
仮面の主が笑う。
「王の間そのものを呑み込む、“浄火の陣”。
この国を浄化し、すべてを白紙に戻す――再生の儀だ」
ジークが叫ぶ。
「勇者! 止めろ!」
アマリアが祈りを捧げ、光が勇者の背を包む。
僕はその中で目を閉じ、青い火花が心の奥で弾けた。
──選ぶのは、誰でもない。
この舞台の主は、いつだって“物語”そのものだ。
◇ ◇ ◇
剣を構え、僕は仮面の主へと歩み出した。
「……なら、幕引きは僕がやる」
炎が広がり、王の間が光に包まれる。
正義と闇、信仰と裏切り、歓声と悲鳴――そのすべてが渾然一体となって燃え上がった。




