第25話 疑念の種
夜明け。
王城の鐘が静かに鳴り響く。
けれど、僕の胸の奥ではまだ昨夜の“仮面の集会”の残響がくすぶっていた。
十数人の仮面、王を倒そうとする計画。
そのすべてを――僕は、あえて報告しなかった。
なぜか?
単純だ。
まだ“物語”が熟していない。今ここで真実を晒せば、舞台が終わってしまう。
僕はそれを望んでいない。
◇ ◇ ◇
朝食の席。
木製の長卓に並ぶ僕たちは、誰一人として口を開かなかった。
沈黙の中、ナイフとフォークの触れ合う音だけが乾いた空気を刻んでいた。
最初に口を開いたのはジークだった。
「……昨夜、どこへ行っていた?」
僕はパンをちぎりながら笑う。
「眠れなくて、外の空気を吸っていただけさ」
「嘘だな」ジークの声は低く、鋭かった。
「城の地下で火の気が動いた。お前の足跡も残っていた」
アマリアが息を呑む。
「勇者さま……本当ですか?」
「何を探していたの?」ミディアは穏やかに問いながらも、目だけが笑っていなかった。
◇ ◇ ◇
僕はしばし黙った。
三人の視線が、刺すように僕を見つめている。
「……調べていたんだ。仮面の連中が城に潜んでいる気配を感じてね」
「単独でか?」ジークの拳が卓を叩く。
「俺たちは仲間だろう! なぜ一言も言わなかった!」
「ジークさん……」アマリアが止めようとするが、彼は振り払った。
「俺たちは命を預け合ってきた! それを裏切るような真似を――」
「裏切り?」僕は静かに言葉を返した。
「なら聞くけど、裏切りとは何だ? “正義”の形を決めるのは、誰?」
◇ ◇ ◇
一瞬、空気が凍った。
ミディアがゆっくりと笑い、杖をくるりと回す。
「あら、哲学的になりましたわね。勇者ちゃんらしくないわ」
アマリアは悲しげに首を振る。
「勇者さま……前と違います。前のあなたはもっと、みんなを信じていました」
僕は視線を逸らし、カップの中の冷めたスープを見つめた。
……信じる、か。
その言葉ほど、曖昧で危ういものはない。
「信じるのは舞台の筋書きだけさ。
それ以外は、全部――演出だ」
◇ ◇ ◇
ジークは立ち上がり、椅子が軋んだ。
「……次に勝手な真似をしたら、俺はお前を斬る。たとえ“勇者”でもな」
アマリアの目に涙が浮かぶ。
ミディアはため息をつき、肩をすくめた。
「ふふ……舞台が壊れそうですわね。けれど、それも見物だわ」
◇ ◇ ◇
ジークたちが部屋を出ていくのを見送りながら、僕はひとり呟いた。
「……壊れた舞台ほど、観客は喜ぶものさ」
窓の外では、朝日が昇る。
けれど僕の心に差し込むのは、光ではなく――
青い火花の、微かな閃きだった。




