第23話 城内に潜む影
西塔の炎は夜半まで燃え続けた。
財務と人事を記した文庫は灰となり、王都の秩序を支える根幹が失われた。
──だが何より深刻だったのは、その火が「城の内側」から生じたという事実だ。
「門も守りも破られていない。ならば……」
ジークは焦げた書架の前で剣を握りしめ、唸る。
「敵はすでに、この城の中にいる」
◇ ◇ ◇
翌朝、王城全体に緊張が走った。
侍従や文官が互いを疑い、兵士たちは同僚に剣を向けそうなほど神経を尖らせている。
「誰かが仮面に通じているのではないか」
「裏切り者を見つけ出せ!」
怒声が飛び交い、廊下の空気は血の匂いを孕んでいた。
「このままでは内輪揉めで城が崩れますわね」ミディアが冷ややかに呟く。
「ええ……疑心暗鬼は毒よりも速く広がります」アマリアが胸の前で祈る。
ジークは勇者である僕を振り返り、低く言った。
「勇者、ここからは戦場ではなく内偵だ。裏切り者を見つけなければ王城ごと飲み込まれる」
◇ ◇ ◇
数刻後。
僕らは王から密命を受けた。
「勇者よ……城に潜む裏切り者を探し出してほしい。
表立っては騒ぎにできぬ。だが今のままでは、民に示す顔がない」
「……陛下。信じてよろしいのですね?」
ジークの問いに、王は険しい顔で頷いた。
「信じねばならぬ。お前たちしか頼れぬのだ」
◇ ◇ ◇
夜。
僕らは三手に分かれて探索を始めた。
ジークは兵舎へ、ミディアは魔導書庫へ、アマリアは礼拝堂へ。
僕は──王の近臣たちが集う執務棟へ足を踏み入れた。
廊下の奥から、囁き声が聞こえる。
「……文庫は消えた。次は……」
「勇者の動きを見張れ。奴は……」
足を止めた僕の耳に、かすかな音が届いた。
小さな金属の擦れる音。
扉の隙間から覗いたその先に──白い仮面を手にする文官の姿があった。
◇ ◇ ◇
「……やはり、いるじゃないか」
僕は笑みを浮かべた。
心の奥で青い火花がぱちりと弾ける。
仲間に報せることもできた。
だが、あえてしなかった。
なぜならこれは、舞台の“裏側”を知る絶好の機会だからだ。
「裏切り者を暴く芝居……悪くない」
僕は仮面をかぶろうとする文官の姿を見据え、そっと扉に手をかけた。




