第22話 玉座の影
翌朝、王城の空気は張りつめていた。
兵士たちが慌ただしく廊下を駆け、文官が顔を青ざめさせて紙束を抱え走り抜ける。
民衆の暴動は表面上は沈静化したが、城内のざわめきはその何倍も激しかった。
「……妙だ」ジークが低くつぶやいた。
「王都が揺れている最中だというのに、警備の配置が薄すぎる」
ミディアは扇子を開いて口元を隠し、涼やかに笑った。
「まるで、わざと穴を作っているかのようですわね」
アマリアは不安げに首を振る。
「そんな……王城の中に、裏切り者が?」
◇ ◇ ◇
やがて僕らは王に呼ばれた。
謁見の間に足を踏み入れると、王の隣に数名の貴族が並んでいた。
彼らは口々に王へ進言していた。
「勇者をもっと前に出すべきだ」
「いっそ民衆を武力で鎮圧せよ!」
「いや、それでは余計に不信を招く。ここは財を与えて黙らせるべきだ!」
──混乱の極み。
それぞれの意見は民を守るためというより、自分たちの地位や利益を守るために響いていた。
「静まれ!」王が声を張った。
「勇者よ。お前の意見を聞かせてくれ」
僕は一歩進み出た。
「……民はすでに王家への不信を募らせています。力ずくでも、施しでも、解決にはならない」
「ではどうすればよいと言うのだ」
僕は玉座を見上げ、言葉を選んだ。
「──黒幕を炙り出すことです」
◇ ◇ ◇
その時だった。
扉の外で兵士の怒声が響き、次いで血の匂いが流れ込んできた。
「な、何事だ!」
駆け込んできた兵が叫ぶ。
「西塔の文庫が襲撃されました! 記録庫が……燃えています!」
王の顔が青ざめる。
「文庫……あそこには王家の財務と人事の記録が……!」
ジークは剣を抜き放ち、険しい顔で言った。
「勇者、やはり城の内側に敵が潜んでいる!」
◇ ◇ ◇
煙に包まれる西塔に駆けつけた僕らが見たものは、燃え盛る棚と、倒れた兵士たち。
そして炎の中を悠然と歩き去ろうとする、仮面をかぶった影だった。
「仮面の……!」アマリアが息を呑む。
「王城の中にまで……!」
その影は振り返り、燃えさかる炎を背に言い放った。
「記録はすべて消えた。これで玉座は裸同然だ」
◇ ◇ ◇
ジークが剣を構え、ミディアが呪文を紡ぐ。
僕は立ち止まり、胸の奥の火花を感じていた。
──王城内に潜む裏切り者。
玉座を揺るがす陰謀が、いま白日の下にさらされた。
だがそれは同時に、僕が望む舞台の幕が開いたことを意味していた。




