第21話 仮面の囁き
暴動は表面上、鎮まった。
人々は勇者の言葉にすがり、広場は一時的な静けさを取り戻した。
だが、王都の裏路地や酒場では、別のざわめきが広がり続けていた。
「王家は何もしてくれない」
「貴族どもが毒を流したんだ」
「いっそ誰かが新しい秩序を作ってくれれば……」
──不信と怒り。
それはまるで油のように町中に撒かれ、いつ火がついても燃え上がる危うさを孕んでいた。
◇ ◇ ◇
その夜。
王城に戻った僕らは謁見の間に呼び出された。
王は玉座に腰掛け、憔悴した顔で言う。
「勇者よ……民を落ち着かせてくれたこと、感謝する。だが王都は今、限界に近い。
黒幕を暴かなければ、国は民に呑み込まれるだろう」
ジークが剣に手を置き、強く頷く。
「陛下、必ず俺たちが奴らを討ちます」
「……祈りましょう。神が必ず導いてくださるはずです」アマリアは両手を組み、目を閉じる。
ミディアは横で小さく笑った。
「祈りよりも、現実的な策が必要ですわね」
僕は玉座を見上げながら、心の奥で別の笑みを浮かべていた。
──仮面の主たちの狙いは、この玉座。
王の姿は、まさに舞台の頂点に立つ役者そのもの。
◇ ◇ ◇
謁見を終えて部屋に戻った時だった。
コツン、と小石が窓枠に当たる音がした。
不審に思って窓を開けると、外の窓台に小石が置かれている。
その表面には赤い墨で描かれた印──円に斜線。仮面の合図だった。
「勇者よ」低い声が闇から響いた。
「王都の混乱を収めるのは容易い。我らに加われば、すぐに民は新しい秩序を受け入れるだろう」
僕は窓辺に立ち、闇の向こうを見つめた。
そこには人影の輪郭がかすかに浮かんでいる。
白い仮面が月明かりに光り、嗤った。
「だが、王を守るなら──やがてお前は民の敵となる」
◇ ◇ ◇
背後でジークが剣に手をかける。
「勇者、聞くな! こいつらの言葉は毒そのものだ!」
「……でも」アマリアは小さく呟いた。
「人々はすでに、王や貴族を信じていません。もし……仮面の言葉に従う者が増えたら……」
ミディアは目を細めて僕を見た。
「さて、勇者ちゃん。あなたはどちらの舞台に立つおつもり?」
◇ ◇ ◇
僕は仲間たちの声を背に、仮面の囁きに応じるように笑った。
「民の期待も、王の信頼も──どちらも悪くない舞台装置だ。
けれど、幕を操るのは……黒幕だけだ」
白い仮面は何も言わず、ただ静かに頷くと、闇の中に消えていった。
胸の奥で青い火花が爆ぜる。
──英雄か、反逆者か。
観客が選ぶ役割の狭間で、僕はますます黒幕の座に近づいていく。




