第20話 暴動と喝采
王都の朝。
鐘の音が鳴り響くと同時に、広場から悲鳴が上がった。
「水が……! もう飲めない!」
「子供がまた倒れた!」
「王家は何をしているんだ!」
「貴族どもは私腹を肥やすばかりだ!」
恐怖は怒号に変わり、怒号は暴力の火種となった。
井戸を囲んだ群衆が石を投げつけ、互いに押し合い、混乱は広がる一方だった。
──怒りの矛先は、目に見える権力者へ。
◇ ◇ ◇
「止めるぞ!」ジークが剣を抜き、広場へ駆け出す。
「勇者ちゃん、見せ場ですわね」ミディアは皮肉を言いながらも後に続く。
アマリアは青ざめ、祈りを唱えながら人々に手を伸ばした。
そして僕は……群衆の中心に立った。
王都の民衆の目が、一斉に僕を射抜く。
「勇者だ!」
「勇者さまが来た!」
「助けてくれ!」
叫びは絶望からの縋りつき。
彼らは僕を英雄と信じ、舞台に押し上げる。
◇ ◇ ◇
僕は剣を掲げ、声を張り上げた。
「皆、落ち着け! 毒の正体も、その背後にいる者も──必ず僕が暴く!」
その瞬間、広場に大きな歓声が響いた。
「勇者さまー!」
「やっぱり勇者がいる!」
民衆は涙を流し、手を合わせ、僕に祈りを捧げる。
彼らの視線は純粋な期待と信仰。
──だが僕にとっては、それは舞台上の観客席からの喝采にすぎなかった。
◇ ◇ ◇
「……演じてるな」
背後からジークの低い声が聞こえた。
「本当に守るつもりで言ってるのか、それともただ役をこなしているだけなのか」
「役者であることに違いはありませんわ」
ミディアが冷ややかに囁く。
「でも観客が喜ぶなら、それもまた勇者の務めではなくて?」
「やめて……!」アマリアは涙目で叫んだ。
「勇者さまは……本物です! きっと、そうでなければならないんです!」
仲間たちの声は交わらず、広場の人々の歓声だけが僕を包む。
◇ ◇ ◇
心の奥で青い火花が爆ぜる。
──英雄の芝居を演じさせられるのは癪だが、これも悪くない。
喝采を浴びながら、僕は確かに黒幕への階段を登っている。
なぜなら、群衆が熱狂するほど──その落差として訪れる絶望は、より鮮烈な悲鳴となるのだから。




