第18話 揺らぐ絆、迫る危機
翌朝の王都は、ざわめきに覆われていた。
市場では水桶を抱えて逃げる者たちの姿。
「井戸から変な臭いがする!」
「昨日までは平気だったのに……」
民の声は恐怖に染まり、広場には泣き叫ぶ子供を抱えた母親が集まっていた。
──恐怖は止まらない。
昨日までは噂にすぎなかったものが、今では現実の被害として広がっていた。
◇ ◇ ◇
王城の執務室。
将校たちは机を叩き、声を荒げていた。
「このままでは民の不安が暴動に繋がる!」
「仮面の連中を処刑しろ!」
「証拠もないのに、軽々に動けば国は割れる!」
混乱を収める役を押し付けられたのは、やはり僕たち勇者一行だった。
「勇者よ、頼む」王が厳しい顔で言った。
「民は今、英雄を必要としている。人々の心をつなぎとめられるのは、お前だけだ」
……英雄。
その言葉に、胸の奥で火花が弾ける。
僕は英雄じゃない。望んでいるのは、混乱の舞台の黒幕だ。
◇ ◇ ◇
執務室を出ると、仲間たちの間に重苦しい空気が流れていた。
「勇者」ジークが切り出す。
「昨日の態度……本気で仮面の主の話を聞くつもりじゃないだろうな」
僕は肩をすくめた。
「聞くくらいはいいだろう。敵を知ることは、戦いに必要だ」
「……いや。お前は、敵の言葉に共鳴していた」ジークの目は鋭い。
「俺はお前を信じたい。だが、もし裏切るなら、その時は剣を振るう」
アマリアが慌てて割って入る。
「やめてください! 勇者さまは……そんなことなさらないはずです」
だが彼女の声は震えていた。
信じたい気持ちと、心の奥の疑念がせめぎ合っているのだろう。
ミディアは横で微笑んでいた。
「ふふ、いいですわね。絆が揺らぐほど、舞台は面白くなる」
◇ ◇ ◇
その夜。
南区の水路で、また黒装束の影が目撃されたとの報せが届いた。
「行くぞ!」ジークが先頭に立つ。
「これ以上、王都を好き勝手にさせるわけにはいかん!」
アマリアも頷き、ミディアは楽しげに杖を構える。
そして僕は……胸の奥で青い火花を燃やしながら、ひそかに思った。
──この混乱がもっと広がればいい。
仮面の主と僕、どちらが本物の黒幕にふさわしいか。
その答えを決めるのは、怯えきった王都の民衆だ。
◇ ◇ ◇
王都の夜を駆け抜ける勇者一行。
その絆は揺らぎ、心は分裂し始めていた。
そして闇の奥では、再び毒の舞台装置が動き出している。