表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/20

第13話 王都に広がるさざ波

水路に投げ込まれようとした瓶は、ジークの剣で砕け散った。

毒は水に混じる前に床石へ飛び散り、黒い染みを残す。

敵の一団は短い戦闘の末に退き、残された兵士の口から「仮面の主」の名が洩れた。


──それがすべて昨夜の出来事。


夜明けとともに王都の大通りを歩くと、広場には噂が広がっていた。

「南区の井戸が濁ったらしい」

「魚が死んで浮いてたそうだ」

「毒だって? まさか……」


まだ市全体が混乱しているわけではない。だが、さざ波のように恐怖は静かに広がっている。


◇ ◇ ◇


王城の執務室。

将校たちが集まり、地図の上に赤い石を並べていた。

「異常が確認された井戸は三箇所。いずれも水路に近い場所だ」

「昨夜の襲撃が阻止されていなければ、被害はもっと広がっていたでしょうな」


ジークが腕を組み、真剣な眼差しで言う。

「王都の水を汚す……戦争行為に等しいぞ。誰の仕業だ?」


重苦しい沈黙。

そして僕は口を開いた。

「仮面の主、だ」


室内の空気がぴしりと凍った。


◇ ◇ ◇


「勇者殿、それは確かか?」

一人の文官が声を荒げる。


「倒れた兵の口から直接聞いた。奴らは仮面の下で王都を操ろうとしている」

僕は平然と答えた。


「馬鹿な……仮面の貴族たちは陛下の忠実な……」

別の将校が反発しかけ、口をつぐんだ。


ミディアがくすりと笑い、杖の石突を床に鳴らす。

「否定が早いほど怪しいものですわね」


アマリアは顔を曇らせ、両手を組んで祈った。

「もし本当なら……この国の根幹が揺らぎます」


◇ ◇ ◇


その夜、僕は一人、王都の路地裏を歩いた。

祭りの後の余韻は消え、夜の王都は静まり返っている。

だが、ところどころに黒装束の影がちらつき、仮面の印を壁に残していく。


「やはり……彼らは街全体を舞台に変えるつもりか」

僕は壁に刻まれた印を指でなぞり、笑った。


仮面の主たちが演出する混乱。

それを利用して、さらに大きな舞台を描くのは──僕だ。


◇ ◇ ◇


翌朝。

王城の広間で、王は厳しい顔をして告げた。

「勇者よ。王都を乱す陰謀を暴け。民の不安を払うのは、お前の使命だ」


「承知しました、陛下」僕は恭しく頭を下げた。

だがその胸の奥では、別の言葉を囁く。


──使命? 違う。

僕が望むのは、舞台を支配する黒幕の座。

仮面の主か、あるいは僕自身か。

観客が選ぶのは、どちらの芝居だろうな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ