プロローグ
東京都内、夜の静けさを切り裂くように、スマートフォンの画面が明るく光っている。画面には、乙女ゲーム『エターナルナイツ』の最後のシーンが映し出されていた。プレイヤーキャラクターが恋する騎士団長アルトリウス・フォン・エインズワースとのエンディングを迎える。彼の美しい笑顔が画面を埋め尽くし、心臓が高鳴るのを感じた。
「アルトリウス様…」佐藤美咲はため息をつきながら、スマートフォンをそっと枕元に置いた。「現実にもこんな素敵な人がいたらな…」
彼女は24歳の平凡なOLで、仕事のストレスを癒す唯一の楽しみが、この乙女ゲームだった。毎晩寝る前に少しだけプレイして、アルトリウスとの仮想の恋愛に心を癒していた。しかし、今夜はその癒しが訪れる前に、何かが違うと感じた。
突然、部屋の外から大きな音が聞こえた。驚いてベッドから起き上がると、窓の外にトラックが突っ込んでくるのが見えた。「嘘でしょ!」と叫ぶ間もなく、衝撃が全身を襲い、意識が遠のいた。
***
目を覚ますと、周りには見慣れない風景が広がっていた。木漏れ日が差し込む広大な森の中に、美咲は横たわっていた。「ここはどこ?」と呟きながら、ゆっくりと起き上がった。
服装が明らかに変わっていることに気づく。手元を見ると、美しいドレスを身にまとっていた。まるでゲームの中の貴族令嬢のようだ。「まさか…これって夢?」自分の頬をつねってみるが、痛みが走るだけで目覚める気配はない。
「どういうこと?」頭の中は混乱でいっぱいだったが、ふと足音が近づいてくるのを感じた。振り向くと、そこには見覚えのある顔があった。
「お嬢様、ご無事ですか?」若い男性が心配そうに駆け寄ってくる。彼の装いは騎士そのもので、金髪の髪が日差しに輝いていた。美咲の心は一瞬で凍りついた。「アルトリウス…様?」
「お嬢様、何かお怪我はありませんか?」アルトリウスは優しく彼女の手を取った。美咲の心臓は早鐘のように打ち始めた。「これはどういうこと?私はゲームの中にいるの?」
アルトリウスは美咲の驚きと戸惑いを感じ取り、穏やかな笑顔で彼女を安心させようとした。「お嬢様、どうか落ち着いてください。今は安全です。城までお連れいたします。」
彼の手の温かさが現実感をもたらし、美咲は少しずつ冷静さを取り戻した。「これは夢じゃない…本当に『エターナルナイツ』の世界に来てしまったの?」
道中、美咲は自分がなぜここにいるのか、そしてどのようにしてこの世界に来たのかを必死に考えた。現実世界ではトラックに轢かれたが、目覚めたら異世界の貴族令嬢になっていた。これは転生と言っていいのだろうか?そして、アルトリウスが目の前にいるということは、彼は推しキャラそのものだ。
「この世界で何が起こるか分からないけど、少なくともアルトリウス様がいるなら大丈夫かもしれない…」美咲は心の中でそう決意し、アルトリウスと共に歩き始めた。
この新しい世界で、何が待ち受けているのか。美咲の冒険は今、始まったばかりだった。