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転生者の極み

作者: きゆつき

単発短編です。

 俺は死んだ。


 よく思い出せないが、とてもとても情けない死に方をしたような気がする。


 思い出せないし、思い出さないし、思い出したくもない。


 思い出せこそしないが、俺が死んだということも、しょうもない死に様だったことも間違いなさそうだ。


 ――何故ならば。


《【人類史上最もファニーな死に方をする】の実績を獲得しました》


 という謎の音声が頭の中に響き渡ったからだ。


 ところで、何故『ファニー』なんだろうか? 『面白い』とか『滑稽』でいいんじゃないんだろうか?


 そんなことを思っている俺の前に、声を掛けてくる存在いた。


「ようこそ……ふふっ……いらっしゃい……ま……ひ、ひひひひっ……ひひひーーひっはっはは」


 失笑を隠しきれない――おそらく女神と思しき――女が、堪えきれずとうとう涙まで流して笑っていた。


「えっと……」


 とりあえずこいつが落ち着くまで待つしかなさそうだ。


「ひーひーふー……すーはー」


 呼吸を整えていると見せかけて、俺を煽っているんじゃないだろうか?


「えー。んんっ」


 咳払いを一つ。


「あなたは大変ゆか……ではなく、残念なことに、人類史上類を見ないほどのさいこ……ではなく、非業な死を迎えてしまいました」


 人の死に様を最高に愉快だとさ。


「そんなあなたに救済として、今の記憶を保持したまま転生する権利が与えられました。おめでとう!」


 死んで祝われることになるとは。


「あ、申し遅れました。わたくしは転生を司る女神です」


「はあ」


「というわけで早速、剣と魔法のファンタジー世界の人間として転生していただきます。いってらっしゃいませー」


「え? おい」


 俺の意識はそこで途切れた。




 ――さて。久しぶりに愉快な気持ちにさせてもらったあの男の姿、しばらく追いかけさせてもらうとしますか。


 二度目の人生、有意義に過ごしてもらえればいいのですが――



 

「ただいま」


「え?」


 俺の目の前には、再びあの女神がポカーンと口を開いてこちらを見ていた。


「一分も経ってない……ですよね?」


 女神がそう言う。どうやら、転生した後の俺の様子を見ていなかったようだ。


 ……見る間もなく俺が死んだということでもある。


 そして、今回もまた、不名誉な実績を獲得してしまった。


《【異世界転生後五分以内に死ぬ】の実績を獲得しました》


「一体何があったのですか?」


 女神が恐る恐るといった感じで訊いてくる。


「転生したと思ったら、目の前に狼みたいな姿のモンスターがいて、噛み殺された」


「目の前に?」


「目の前に」


「噛み殺された?」


「噛み殺された」


 こんな短い間に二回も死ぬとは思ってもみなかった。


「わかりました」


 何がわかったのか全くわからんが、女神が強く頷く。


「次は貴族の子供として転生させましょう。

 そうすれば目の前にモンスターがいて殺されるということもありませんし、貴族の子供です。ある程度の年齢までは生きることも容易いどころか、その権力でアレコレしたい放題も夢ではありません!」


 変な家に産まれませんように、祈っている間に意識が飛んだ。



 

 ――今度は何があってもいいようにすぐに彼の行方を追いましょう。


 もしかすると面白いものが、見れるかもしれませんし、今度は見逃すわけにはいかないですし!


 え?


 ええええええ?


 そんな――




「ただいま」


 俺は三度女神の前に戻ってきた。


《【高貴なる家の子息として転生して五分以内に死ぬ】の実績を獲得しました》


 というメッセージと共に。


「ええと……ご愁傷様です?」


 『ご愁傷様』という言葉は、女神が死んだ本人に言う台詞として適切であるか議論したいところではあるが、今はスルーしてやろう。


「俺はなんで殺されたんですかね?」


 生後まもなく殺されるとは思いもよらなかった。


 思いもよらないことが続く日である。


 もうこれ以上は勘弁願いたいところだ。


「あなたはあの世界のとある国の王の子として転生したのですが、あの国には王家に双子が産まれた際、そのどちらかが黒い髪である時、その黒い髪の子が国を破滅に導くとされていて、あなたはその狭い条件にピタリとハマって産まれたことで、その場で殺されたようですね」


 女神は俯き加減でそう告げる。


 色々と納得いかないが、一番納得いかないのは、俯いている女神が、悲しみや同情からではなく、明らかに笑いを堪えていることだろう。


「女神さま?」


 女神は大きく深呼吸をしてから言う。


「では次は力を持つ者――封印されし魔王に転生しましょう。

 あなたが転生すると共に封印が解かれます。

 あとは、悪逆非道を極めるなり、世界を征服するなり、世界の半分を明け渡すなり好きになさるといいでしょう」


「それって目の前に勇者がいて殺されるパターンでは?」


 という俺の訴えが女神に届いたかどうかというタイミングで意識が無くなった。



 ――どうやら彼は最高の運命を持つ者のようです。


 一秒たりとも見逃せません。


 さあ、次はどうなることか、目ん玉かっぽじって見て差し上げましょう!


 ああ、正しくは耳の穴をかっぽじって、目ん玉はひん剥くでしたっけ? そんなことは彼の運命の前では些事に過ぎません。


 さてどうなりますやら?


 あ。


 今度はそうきましたか。


 彼はスゴイですね。


 最高に愉快です。


 彼が戻ってくる前に平常心を取り戻す自信がありません――



「……ただいま」


 何度目かの死と女神の元への帰還。


「ふ――――――」


 女神さまは笑い声を堪えているようです。


 土下座のような体勢で、床をばしばしと手のひらで叩いておられます。


「もういっそ大声で笑ってください」


「ふはひゃひゃひゃひゃ! あーっはっはっはっは」


 それはそれで腹立ちますね。


《【魔王として転生して五分以内に右腕と信頼する部下に裏切られ殺される】の実績を獲得しました》


 勇者ではなく部下に殺された。


 なんでも、封印されている間は謎の結界に護られていたらしいが、封印が解けたことでそれが無くなり、殺すことができるようになったらしい。


 殺せるようになったから即殺すとか、血の気の多いヤツだ。


「女神さま?」


「は、はひっ? ひひっ」


 まだ笑ってらっしゃるようで。


「もう転生は十分です。成仏させてください」


「女神に成仏はさせられません。別窓口です」


 ようやく落ち着いたらしい女神さまがそうおっしゃった。


「ではその窓口に取り次いでください」


「無理です」


 断られた。


「ということで次の転生にまいりましょう!」



 

 ――「……ただー」



 ――「……はあ」



 ――「……」



 ――「…………」



 ――「………………」



 ――「」



 ――「もうむりっす……」 



 

《【一時間以内に十回転生する】の実績を獲得しました》


《【転生者の極み】の称号を獲得しました》

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