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猫なんか飼っていない

私は多分人間が嫌いだ。

自分も人間だけど、それでもそうなのだ。


私は家族や友人や恋人を大切にしない人、不誠実な人はもちろん嫌いだけれど、それ以上に自分のペットを大事にしない人、適切に飼えない人を嫌悪する。


学生時代の同級生は犬を二匹飼っていたが、散歩をさせたことがないと言う。


「飼い主に似て散歩嫌いなの」


と彼女は笑っていた。


私は犬を飼ったことが無いので、散歩をさせなくていいのかなと疑問には思ったけれど、深く追及をしなかった。


犬は山の家と称する父親の工場の庭で、牛を飼うような柵を作って放し飼いにされていた。


「ここに放しているから散歩は必要ないんだよ」


彼女はそれを私に示しながら説明した。


「雨が降った時はどうするの?」


犬小屋らしきものがなかったので、これでは雨ざらしだと思ったからだ。


「う~ん、多分家に入れてる······かな?」


知らんのかい!?


実に怪し過ぎる返事だった。


この家の人はなんか変だと感じていた。



それから一年後、彼女の父の工場は倒産して、廃業を余儀なくされて更に田舎の土地へ引っ越した。


「ねえ、犬たちはどうしたの?」

「······」

「······まさか殺処分?」

「だって仕方ないじゃない!」


生活苦から手放したらしいけれど、引っ越した家は以前の家よりも新しくて広かったし、四阿まであるほどの庭の広さだった。


破産による借金は保証人が負い、彼女の両親は偽装離婚して、借金の取り立てから逃げた。


ここでなら、犬はせいせいと飼えた筈だ。



それから一年ほど経った頃、彼女の母親が寂しいからと言って小型犬を飼いはじめた。


部屋飼いの犬だから、今度はちゃんと散歩させる筈だと思っていた。


「最近、太り気味で困っちゃう。運動不足かな」

「じゃあ、犬の散歩をすれば?それなら一石二鳥でしょ?」

「······えっ? ああ、あのね、うちの子って散歩嫌いなんだよね······」


また!?


なんだか実に怪しい受け答えが返って来た。


それって、させていないってこと?


散歩させるのが面倒臭い感じがプンプンした。


今度の家の庭には塀も柵はないから、放し飼もさせられないようだ。


その頃には、以前は無知だった私も散歩させてあげないといけないことを既に知っていたので不安になった。


なので、「犬って散歩させないと死んでしまうらしいから、犬を飼うって大変だね」とわざと促すようなことを言ってみた。


彼女はずっと無言だった。


少し経ってから、「散歩は母がさせている」と答えた。


「そうなんだ。お母さんも気分転換になって良かったね」


彼女は部屋で犬を抱っこしている写真をメールして来てはいたけれど、散歩中の写真は一枚もなかった。


そのうち彼女は


「散歩中に飼い犬が野犬に襲われて怪我をしたから、もう怖くて散歩させられない」

「散歩を怖がるから家から出せない」


という、散歩をしなくても言い訳が立つようなことを言い出した。


この人は、昔からこのような都合のいい嘘を平気でつく。


この人の人間性はもう治らないとしても、飼い犬の方が心配だ。


適切な世話をできない、お世話をする気が無い人が安易にペットを飼うことは、ペットには災難だ。


しかも初めて飼うのではなくて、二度目なのに。


その後その犬は亡くなったが、平均寿命の半分くらいで旅立った。



今度は野良猫に餌をやっていつかれてしまい、去勢や避妊処置をしないでいたから、どんどん子を産んで増えてしまい困っているという。


保護猫活動をしている人に相談するとか、里親を募集したらと言っても返事をしない。


彼女はネットをあまり見ない人なので、スーパーとかの掲示板、地域の広報誌などに里親募集とかのページがあるから、そこに出してみたらと言っても反応が無い。


「ねえ、本当に困っているなら早くしないと、もっと増えてしまうよ」

「飼うならちゃんと去勢や避妊しなきゃダメだよ」


私以外の友人達が言っても何の反応もない。


私は、これはまた嘘をついているのではないかという疑念を抱いた。


犬の時は写真を見せて来たけど、猫の写真は一度も送って来なかったからだ。


彼女は自分のトラブルや問題をでっち上げて、同情や心配、他者の関心を引こうとする嘘を平気でつく人だ。


何せ、ストーカーで困っていると騒いでいていたのに、自分の新居の住所と電話番号をそのストーカーに自分から教えていたり、今でもそのストーカーと年賀状までやり取りしている人なのだからね。


みんながそれぞれ多忙になると、構ってオーラ出して嘘をつくとか、騙すようなことをするので、私は、ああこの人とはもう限界かなと思った。


家が倒産や破産するのは気の毒ではあるけれど、そうなるずっと前からこんな人なのだから、親友も恋人も夫もできないのでしょうね。


それは家や親のせいではなくて、彼女自身のせいでしかない。


引っ越しの準備もあるというのに、相談があるからと呼び出されて、迷惑な虚言に振り回されるのは勘弁して欲しい。


夫の転勤を機に、この人からフェードアウトしようと決意した。


引っ越しも近づき、私の送別会をしてもらった席で彼女に聞いてみた。


「ねえ、猫の件はどうなったの?」

「私、猫なんて飼っていないよ」


彼女の猫の件を知っている人達は唖然とした。


私は、ああ、本当にこの人とはもう終わりだなと思いつつ


「そうなんだ、じゃあ大丈夫だね」


今後もう何が起きても私は助けないし、相談にも乗ることは無いよ、さようなら。


という思いを込めて私は愛想笑いを返した。


もしも、この人が本当に多頭飼育崩壊を放置しているとしたら、きっとあの家は地獄絵図だろう。


でも、あの神経質な彼女の母親が、それではとてもじゃないけど我慢できないだろうから、恐らく嘘なのだろうと思う。


「動物を部屋で飼うなんてありえない」


と言う母親なのだから。


だからあの山の家では庭に放し飼いだったのだ。


はじめから本当かなあ······、嘘臭いなあと思っていたから、かまをかけてみると、見事に反応する。


彼女は平気で嘘をつくベテランだけど、こっちだって嘘をつかれることには年季が入っているからね。


そう、彼女ははじめから猫なんか飼ってはいないのだ。


それでも、「猫なんて飼っていない」という言葉が、猫達が手に余って、保健所に引き渡していての、「猫はもういない」という意味の言葉だったとしたら、恐ろしくなる。


殺処分しておいて、平然とそんなことを言えるとしたら、怖すぎる。


長年飼っていた愛犬をもう飼えないからと殺処分に出す人だから、野良猫達が邪魔になったら殺処分する可能性もゼロではない。


それはなんと身勝手で残酷なことだろう。


動物を飼うならば、最後までちゃんと世話をして欲しい。


適切に飼えないのならば、飼わないで欲しい。

身体障がい者だって、車椅子や杖をつきながらでも、愛犬をちゃんと散歩させているものだ。


健常者なのに理由をつけてはやらないなんて怠惰の極みだ。


そこにペットへの本物の愛情があればできると思う。


散々他者に迷惑をかけ、動物達にまで迷惑をかけるなんて······。


人間とはなんて恐ろしい生き物なのだろうか。


良い人間もいるけれど、最悪の人間の様子を見せられると、人間が嫌になってしまう。



「私は、猫なんて(はじめから)飼っていない」


どうかそれが本当であって欲しくてたまらない。



(了)

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