夢で会えたら
私はこの惑星に同じ星系の同胞達とやって来た。
蛍光緑のグリッド線が光を放つ計器を見つめていた私達は、合図と共にハッチから跳び込む体勢を整えた。
「じゃあな」
「うん」
彼は私に親指を立てて笑うと、白煙をあげながら、私とは別の赴任先へ向けて降下して行った。
眼下に広がる青い大海原のような成層圏を突き進んでいく。
彼を見送ると、私は私で自分の赴任先へダイブした。
記録的な猛暑日に、私と彼はこうしてこの星で産声を上げた。
私は日本の湯けむりの街で、彼は日本の裏側、ブエノスアイレスという都市に生まれた。
彼と私はお互いがバディ、この星ではソウルメイトとかツインソウルとか呼ばれているものに近い。
私達はこの星へ調査隊として派遣されてきた。
私も彼も他の同胞達も全く同じ顔、同じ体型をしている。
本来はラファエロの天使画のようななり、キューピッドみたいな見た目をしている。それがざっと七人いる。
地球ではそれだと不味いので、それぞれ別の体を持って個体差をつけて活動するようにしている。それから小さな翼もあるんだけれど、この星では必要なさそうだから肩甲骨にしまってある。
私には性別はないが、今回の任務では女性のボディを借りることにした。彼は男性のボディにしたみたいだ。
「どう、この星に馴染めている?」
「ああ順調さ」
私達は主に夢の中で交信、情報交換をしている。
いちいち眠らなくても、意識を強く向ければ彼の様子を知ることが出来たりはする。
彼はブエノスアイレスでコンサルタント業をしていて、広い中庭を持つ邸宅に住んでいる。
その中庭でキュートな恋人と今寛いでいるところだ。
彼はギターを弾くのが上手い。アコースティックギターじゃなくて、ええと···そうそう、フラメンコギターという種類のものだ。
仕事もプライベートも順調そうでなによりだ。
私は大人になるまで、なかなかこの星に馴染めなくて戸惑っていた。この体を得てから、記憶を思い出すのに時間がかかってしまったから、訳がわからずはじめはパニックになりそうだった。
死んでもいいから早く帰りたい、同胞が自分を連れ戻してくれる日をとにかく心待ちにしていた。
訳もなく空を見上げ、見えるはずのない自分がかつていた星を探した。
7歳の時、はしかによる高熱にうなされ苦しんでいた私がふと目を開けると、そこに6人の子ども達が、ベッドに横たわっている私を囲んでいた。
なぜか子ども達はみな同じ顔をしていた。一瞬ぎょっとしたが恐ろしくはなかった。それはみんな私と同じ顔だったからだ。
「大丈夫か?」
「ねえ、覚えてる?」
「名前を当ててみて」
6人が同時に口々に言ったので「うるさいなあ」と思った。
そこへ様子を見に来たお母さんがドアを開けたから、一斉に彼らはお母さんの方を向いた。
驚いて悲鳴をあげたり気絶させてはいけないから、彼らは「じゃあまたね」と言って瞬時に消え去った。
「いっ、今のは何? 幻? それとも······分身?」
「私、忍者じゃないよ。お母さんも熱があるんじゃない?」
そう言ってなんとか誤魔化した。
その時以来、同胞達には直接会うことはないけれど、今でもたまに彼らと交信はしている。
母艦には定期的に調査レポートを送信している。というよりも、勝手にデータを抜き取られているといった方がいいかもしれない。
私はまだまだ帰れない。
この星での生き辛さを抱えつつ、日々任務を遂行中。
それでも、夢では仲間で会えるから、何も怖くないし不安はない。
ただ、この星のことを思うと、幾ばくかの憂いと、それに対して干渉できない無力感は拭えない。
この美しき惑いの星を、今日も愛を込めて見守ろう。
(了)