ドアマットヒロインの反撃は
見てくれもそれほど悪くはなく、塾にも通わず家庭教師もつけてもらえずに来たわりに成績は良く、他人に迷惑をかけるような性格ではないのに、なぜか家族や友人からは下に見られ、理不尽な扱いを受けて来た。
それは社会人になってからも同じだ。
彼らはみな、自分の不安や自信の無さ、自分のコンプレックスを受け入れられられなくなると、たちまち私を利用して自分の憂さ晴らしをしたがる。
······はあ、なんてちっさい人達なのかしらと、私はただただ呆れるばかり。
虐げられることは不本意だけれど、私はその人達のことが少しだけ心配になる。
なぜならば、私を虐げる人は必ず不幸になるからだ。
それを教えてあげてもいいのだけれど、聞く耳を持たないから、どうしょうもないのよね。
私がオドオド、びくびくしているように見えるのは、虐げてくる人達自身を恐れているのではないのよね。
脅える私、困り顔の私にゾクゾク、ハアハアしているなら、勘違いも甚だしいわ。
虐げる人達の背後にいる負の存在が大きくなっていくのが見えてしまうからなの。
その負の存在は、いずれその人に害を与えるのがわかっているから、既にカウントダウン状態なのよね。
私の守護天使には、「あなたは仕返しをしてはいけない」と言われているから、悲しくて悔しいけれど、怒りも表さずに淡々と耐えている。
「大丈夫、もうすぐですから」
天使の言うその「もうすぐ」が、私はちょっと怖い。
今まで私を虐げていた人は、事故や病気になったり、失明するとか自殺したり、不随になることが殆どなの。
あるいは、その人の家族が急死したり、倒産や破産、退学して学校や職場から去って行った。
私が反撃や復讐しなくても、自然にそうなってしまうの。
相手が大人しくて、何も言わないからとか、こいつは逆らわないからと、いい気になってやっていると、いずれは『ざまぁ』がやって来る。
私の『ざまぁ』は、意図しなくても自然にそうなっていく。
自分のやってきたこと、していることが、今ツケが何も来ていない、今まで何も起きずに来たから、それで安心するのは愚かでしかない。
ざまぁが起きる速度は人それぞれだからね。
私に何かやったらすぐにざまぁになっていたら、私のせいだと思われてしまうから、そこは天使の計らいで、絶妙なタイミングで起きるように調整されているみたい。
天使の守護は至れり尽くせり。時々天使って悪魔的だと思ってしまうわ。
優しい人や優しい神、優しい存在程キレると怖いって言うのは本当ね。
人の一面ばかりを都合良く捉えて、この人は優しいからとか、この人は何も言わない、反撃してこないから、大人しいから大丈夫だとか舐めていたり、見くびっていると痛い目に遇うのは当たり前だ。
本当に、馬鹿よね。
誰かを虐げて喜んでいられるなんて、今のうちだけよ。
今理不尽な目に遇わされている人達にも守護者は必ずいるものよ。
孤立しているとか、ぼっちだからとか、自分側には仲間や子分がいるとたかをくくって、やりたい放題なんて、
まったく救いがたい馬鹿よね。
先日私の職場のセクハラ上司と、何かと因縁つけてはしつこく私に突っかかって来た女性の同僚が亡くなったの。
別に命まで取って欲しいなんて微塵も思っていないし、願ったこともなくても、そうなってしまうのよね。
私はセレモニーの類いがちょっと苦手だから、葬儀に参列するのも億劫なの。
自分を虐げてきた人の葬儀なんて特に。
だから、死ぬまでじゃなくていいから、長期入院とか異動や転勤とか首にするだけで良かったのに。
どうやら天使達は、私には過保護過ぎるみたいだ。
あら、また弔辞連絡だわ·····。
懲りない人達って、命がいくつあっても足りないものなのね。
(了)