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前世なんか「それはそれ」です

私が書店で本を探していたら、「あなたは前世で僕の恋人だったから、僕と付き合ってくれ」と初対面の男性に言われた。


(これって、もしかして新手のナンパ?)


面食らったというよりも、この人、頭大丈夫なのかと心配になった。


前世とかを信じないわけではないのだけれど、前世で恋人や夫婦だったから、今世でもまた恋人や夫婦になるとは限らない。


前世でも、どうやっても上手くいかなかった相手なのかもしれないのだし!?


縁があるとは言っても、良縁もあれば悪縁だってあるわけで、過去世での知り合いが、すべて良い人であるとは限らないと思うのよね。


自分の経験上、何もかもをすぐに「ご縁」とするお花畑スピリチュアルをかじった、無理矢理ご縁のごり押しをする人に良い人やまともな人はいなかったので、余計にそう思う。


私は前世がどうだったかよりも、今どうなのかを大切にしたい。


前世がどうであれ、今嫌いであるとか、気が進まない相手とは無理に付き合う必要はないと思っている。


前世で姉妹だったとか、前世でも友人や仲間だったからなどを、付き合う理由にするような人は、相手を自分に繋ぎ止める言い訳が欲しいだけよね。

人との関わりで前世とかを持ち出して利用する人を私は信用できない。


今上手くいかないのならば、前世がどうであろうと、嫌なら関わならない、別れることを選ぶ。


前世で親しくしていたのなら、同じように今世も仲良くしようと相手に言うのは、違うと思っている。


前世は前世、今世は今世だ。


それがわからないとか、受け入れられない人を、私は好きにはなれない。


しつこく食い下がる人は特に。


話が通じない人は、自分にとって今世において関係を持つ必要はない相手だと判断することにしている。



私に交際をせがむその人が本当に前世の自分の恋人だとは、とても思えなかったのと、こちらが断ってるのにあまりにしぶといので、その人には内緒で前世療法というものを受けて見ることにした。



ネットでいくつか探して、宗教っぽくないこと、料金も良心的なところを選んだ。


リクライニング型の上質な椅子に座り、ヒーリング系の音楽を流され、セラスピストの美しい声に誘導されて、私は初めて自分の前世というものを見て味わった。


石畳を歩く私の足は革製のサンダルを素足で履いていた。

古代ローマのような町並みと人の姿が見えて来た。

誘導されたまま素直に見てゆくと、前世の私らしき人物の姿と、名前も思い出した。


私に交際を申し込んで来た人も確かに私の暮らしていた地域にはいたけれど、その人は恋人ではなかった。


私はある男性に想いを寄せていたけれど、想いを告げずに親の決めた別の男性に嫁いだようだ。


そして私に交際を申し込んで来た人は、夫のいる私を誘惑しようとしていたようで、私はまったく相手にせず最後まで応じなかった。


(恋人なんかじゃ、全然ないじゃない!)


私は軽く怒りを覚えた。


前世で私が後悔していたのは、想いを告げずにいた人が、その後向かった戦地でほどなく亡くなってしまったこと。


こんなことならば、振られても良いから想いを告げていたら······というものだった。


はるか昔のことである筈の記憶と感情に私は涙が溢れていた。


セラピストにティッシュを渡されて涙を拭った。


セッションが無事に終わり、セラピストとのやり取りで、「もしかすると今世で会えるかもしれませんね」と言われた。


「あなたは感覚が鋭いので、会えばわかると思います」


それはクライアントへの気休め、営業トークかなと思い、私は本気にしていなかった。


恋に恋する乙女とは程遠い、女子力のなさも手伝って、その事はすっかり忘れてしまった。



セッション受けた後、なぜかすぐにあのしつこく交際を迫って来た男も来なくなったので、ホッとした。


「人によっては、本命と引っかけ役のフェイクがいることもあるので気をつけて」


セラピストにそう言われた時、とても腑におちた。


あのしつこい男は嘘をついてまで私と付き合おうとした、とんでもないフェイク野郎だった。


前世でも今世でも私はまったく靡かなかった。


私は元々しつこい人が嫌いだから、しつこい人はフェイクだと思うことにした。



それから一年後、私はとても懐かしい人に会った。


転勤してきた職場の上司だった。


上司と言っても彼はまだ若く、七歳しか違わなかった。


まさか私達は前世でお会いしていますよねなんて、言うわけがない。


他の女性社員が「独身ですか?」「年齢は?」 「彼女いますか?」とかを彼の歓迎会で質問責めで聞いてくれたから、私がわざわざ聞く必要もなかった。


私は恋の相手というよりも、部下として信用されるように努めた。


こちらが好きでも、向こうが私を好きになってくれるとは限らないから。


相手があるものは、すべてそういうものだ。


相手の意向を無視して突っ走るとか強要するなんて、愚かだし、相手に失礼なことだ。


本命にならば、好きならば何をしてもいいということではないのだから。


彼に告白して玉砕した同僚もいるから、尚更慎重になった。


社内恋愛は、上手く行けばいいけれど、上手くいかなくなると、気まずいしその職場にいずらくなってしまう。

職場が相手と離れていればまだいいけれど、それでも社内の噂の格好の餌食にもなる。

不倫などすれば大抵クビだ。それで退社した同期もチラホラいる。

私はそんな強メンタルではない。




それから二年後、私は再び転勤する彼に、妻としてついていくことになった。


結婚してからも私は前世のことは一言も話してはいない。


前世でどうであれ、今が良い関係で、幸せならばそれでいいのだから。



(了)

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