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いじめられっ子をやめる日

「新谷さん、あなた滝本さんにいじめられているの?」


わたしは新谷恵、小学五年生。今さっき担任の内山先生にそう尋ねられた。


わたしはすぐには答えなかった。


話が全く通じない馬鹿に迷惑をかけられていて困っているのは事実だけど、これはいじめと呼ぶのかどうかわからなかったから。


いじめられていると思って先生に言ってくれた人には感謝するけど、わたしは結局「いいえ」と答えた。


いじめられている子は大抵孤立しているけど、わたしは孤立していないし、普通に友人もいたから、いじめとはちょっと違うかもって思った。


それに、このクラスで孤立しているのは滝本ひな子、彼女の方だということがわかっていたから。


誰からも好かれてなくて、このクラスからいなくなって欲しいとクラス全員から思われていたのは、わたしをいじめていると言われているその子自身。


わたしは大人しいとか気が弱いとかまわりには思われているのかもしれないけど、自分ではそうは思ってはいない。


言おうと思えば言えるし、強い態度に出ようと思えば出れるからだ。


ただ、滝本ひな子には、まだそうしていなかっただけ。


わたしはそれほど強いわけではないけど、でも弱いわけではない。


いじめられるとか、こんな立場なんて簡単にひっくり返せるものよね。


それをわかっていない、わからない方が馬鹿なのよね。


いじめ、いじめられという関係がこのままずっと続くと思っている方が馬鹿なのよ。




もう色々面倒だから、いじめられていると思われてしまう関係を、わたしはそろそろひっくり返すことにした。


わたしがひな子の言うことを全く聞かないようになると、たちまち慌てたのはひな子だった。


ひな子のごり押しも聞かずに「いや」と強気で断ると、こちらに簡単にヘイコラして来るから、本当に馬鹿みたい。


手のひら返しで自分からわたしの子分のような態度になって、わたしの顔色を気にしてびくびくしはじめたわ。


「先生に言わないで」「お母さんには言いつけないで」とか恥ずかしくて情けないことを平気で言って来る。


それって、やってはいけないことを散々今までわたしにしていたことを自覚していたわけよね。


この人の母親って幼稚園の先生なのよね。


それなのに、こんな残念な性格の娘になるって、どうなってるの?


娘のいい子の仮面には気がつかない人なんだろうね。


わたしが強気にならなければ、バレなければこれからもずっとやり続けるつもりでいたわけだ。


それってどうしょうもないクズよね。


まあ、まず良い性格ではないのは間違いない。


先生や親、大人の前ではいい子ぶる、そんな人にいい人はいない。


「ごめん、謝るから、もうしないから、これからも友だちでいて」

「は?!」


何をこの人は言っているの?


本当に頭おかしい。


わたしがあまりにも呆れ過ぎて黙っていたら、ひな子は泣き出した。


鼻水を10センチぐらい垂らしているのが見えた。


「これからもつき合って」

「いやだ」

「謝ってるのに?わたし、泣いているんだよ!」



それがどうした?



謝りさえすれば何でも許してもらえるとか


謝ればすべてチャラにできるとか


泣けば許してもらえるとか


しつこく強く頼めば何でも自分の思う通り、自分の期待したシチュエーションにできる筈だと思っている人は、


救い難い大馬鹿だ。


そういう人は、ろくな人がいない。


それに、恐ろしく自己中だ。


自己中な人って、結局頭が悪いんだよね。



馬鹿だから他人をいじめるんだよ。


自己中な馬鹿だから性格も悪くなってしまうんだよね。


学校の勉強はできても馬鹿な人はいる。


本当に賢くて頭の良い人はいじめをしない。


それに性格もそれほど悪くない。


他者に無害な優しい馬鹿なら性格は良いので問題はないし、嫌われたりしない。


それに、勉強はできなくても、反省や成長をできる人は、人間的には馬鹿ではない。




わたしが「いやだ」を貫いたら


「······わかった」


と言って、今のは全部嘘泣きだったかのようにスッと能面のような無表情な顔に豹変した。


(この人は元々能面のような顔なんだけど)


ええ?!これ全部演技だったの?


怖すぎるって思った。


わたしの反応や様子をみながらやっていたということよね。


なんという打算。


自在に泣ける(鼻水まで)、泣くのをサッと引っ込められるなんて······


なんて器用なの?!



ひな子はわたしが冷たいだの、わからず屋だの、こちらを責めるようなことを散々吐き捨ててその場からいなくなった。




その後わたしはひな子からは絡まれることはほぼなくなった。

向こうから接点を減らしてきたから助かった。


その代わり、「わたしは新しい友だちを見つけたの。あんたなんていなくても平気だから」


っていう、全くわけのわかならないマウントを取って来た。


なんという性格と意地の悪さ。やっぱり自己中な馬鹿はどこまでも馬鹿なんだなって思った。


あなたのは『友だち』じゃあなくて、『生け贄』でしょ。


自分の都合のいい手駒、奴隷のような相手を「友だち」と呼ぶ、その神経や感覚は全く理解できない。


その新しいお友達、新しい生け贄にも、すぐに愛想をつかされていたみたいだった。



大人しく見える人、気弱そうな人にも、自尊心や意志はちゃんとあるものだ。

そのような人だって怒るし、キレることもある。


相手の堪忍袋の緒が切れるまで、相手の限界が来るまで際限なくやる人はどうしょうもない馬鹿だよね。


捨てられそうになって慌てふためく、そんなつもりじゃなかったとか言って自分に繋ぎとめようとするなんて馬鹿の極みだ。



いつでもどんな立場や関係も簡単に逆転する可能性があるというのを知らないと、自分が孤立するだけよね。



頭の悪い人は、そこがわからないのよ。



いつまでも自分が常に強者でいられる、相手を自分が支配できると勘違いしているのは、馬鹿だけよ。


他人をいじめるとか支配しようとする人の方が弱い人間なんだよね。



わたしは小学五年生でそれを学んだわ。


学校はどんな人が本当に良い人で、どんな人がクズなのかを見極めるための人間観察をするところでもある。


そして自分もクズにならないように反面教師にしないとならない。


小学生はまだ子どもだけど、大人になっても小学生みたいなことばかりをする人は、何も反省や成長していないからトラブルにしかならない。


そのような人とは接点減らして相手にしない方がいい。



今いじめられている立場にいる人達も、そこを理解していれば、いつか逆転のチャンスをつかめると思うわ。


相手を冷静に観察して、 逆転の狼煙を上げて、乗り越えよう。



(了)

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