え!?私って美人だったの?
私の妹は芸能プロダクションからスカウトされるほど可愛い。
祖母も若い頃は映画女優にならないかと誘いを受けたり、四人の男性から同時に求婚されるほど美人だったらしい。
そんな美人の家族を持った私は、自分が美人だと思ったことがなかった。
「美人だよね」とか「美人だよ」って友人にも言われたことが一度もなかった。
だから自分が美人だとはちっとも思わなかったのよ。
時々男性にそう言われても、それは全部リップサービスだと思っていたのよね。
告白されるとか、交際を申し込まれるなんて、美人じゃなくてもあるし、結婚だってするものでしょ?
だから私は今の夫と結婚した時も、自分が美人とは思っていなかった。
還暦を過ぎた時、突然倒れて生死の境をさ迷った。
そうしたら、もしかしてこれが天界なのかというような所へ来てしまって、若い仙人みたいな人に会うなり呆れられてしまった。
「あんたの美のピークは28歳で、それまでに結婚するシナリオだったんだよ」
「はあ···?」
私は35歳で結婚したから、それは間違いだったのだろうか?
「人には大抵5パターンの選択肢が用意されているものでね、あんたはその中のパターン4を選んだんだよ」
「それではダメだったんですか?」
仙人は盛大な溜め息を吐いた。
「26歳~27歳で結婚、28歳で出産がベストパターンだったんだけどね」
「だってその頃は、良い人はいませんでしたよ」
「嘘だ!言い寄られたりしたでしょ?」
「···あの人は、私は嫌です」
「もう、我が儘なんだから!」
「そんなこと言われても、嫌なものは嫌なんですよ」
私は結婚したけれど、子どもはいない。
「あの時あいつと結婚していれば、子ども2人と孫も3人いた筈だよ」
「私は子どもを産まないといけなかったのですか?」
「そうだね」
今さらそんなことを言われても困る。
「あーあ、そのために折角相手好みの美人にしてあげたのに」
「···えっ?!私って美人だったんですか?」
「は?!」
仙人は握っていた杖をポロリと落とした。
「だって、家族にも友人にもそんなこと言われたことがなかったし」
「ああ、女は思ってても言わないよな······、くそ、失敗した」
仙人は苦々しげにそう言った。
失敗······、私のせい?
「あんたの周辺の女の質が良くなかったな、悪かったよ」
「えっ?」
「あんたの周りにいた女はあんたのエネルギーを奪う奴ばかりだったからな」
「······!」
「思い当たるだろ?」
急に私はポロポロ涙が出てきてしまった。
今までずっと胸の奥にしまって来たことだった。
なるべく気がつかないようにしてきたものだ。
「婚期が遅れるとか逃すとか、最もベストな相手と結婚できないとかは、大抵同性からエネルギーをがっつり吸われてることが多いんだよ」
「私は元々結婚願望はなかったわ」
「う~ん、それも実は影響されてるよ」
「そ、そうなの?」
自分は結婚はしなくてもいいとか、結婚は急がないとかも、知らないうちに暗示をかけられていたりする場合もあるのだとか。
自分で決めているようで、そうではないこともあるらしい。
要らぬ遠慮や尻込み、先延ばしなんかもそうらしいわ。
他者の念とは恐ろしいものなのね。
「じゃあ今度はもっとスムーズに行くようにしてあげるよ」
「今度?」
「すぐに生まれ変わるからな」
「ま、待って、私は死んだの?」
「ああ」
そんな、嫌よ! まだやり残したことはあるし、今の夫と最期まで添い遂げたい。
「こんな中途半端なところで死にたくない!」
「はいはい、これは寿命だからね」
仙人は私に光る杖の先端を向けた。
あ、もしかしてこの人は仙人じゃなくて、神様?
今さら気がついた。
「行っておいで。今度こそは成功を祈っているよ」
まばゆい光に包まれて、私は元いた世界に転生した。
どうやらやり直し人生のようだ。
同じ両親、同じ誕生日、同じ名前でリスタートした。
可愛い妹も、美人の祖母もそこにはいなかった。
私のエネルギーを吸い取る友人達もいなかった。
いなかったというよりも、出会うこと自体なかった。
そして、悲しいけれど私の転生前の夫にも出会うことはできなかった。
それで、転生した私は美人だったのか?
私個人はなんとも言えない。だって前と同じ顔をしていたのだもの。
「私って美人なの?」
「もう、美人に決まってるじゃない!」
そう言ってくれる友人もできて、私はなかなか幸せだ。
あと3年で28歳、もうすぐ私は未来の夫と出合う予定でいる。
(了)




