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あの日のエスケープ

私、桃子28歳、彼氏無し。

でも自分の人生には満足している。仕事はまあまあ大変だけど、職場の雰囲気と待遇はそれほど悪くない。


でも、今のこの会社に結婚したあとも勤める気持ちはあるかと言うと、それは正直そうしたいとは思えない。


一生ここで勤める自分の未来のイメージが全く湧いて来ない。


そういうことは結婚相手がみつかってから悩めばいいのかもしれないけど······。


本当にそれでいいのかな?


贅沢な悩みだとは自分でもわかっている。


漫然と現状維持でいることに少しだけ不安と、どこかで自分の人生のコースを変えてみたい願望が燻っている。


「女はいいよな」


取りあえず結婚したら、人生のチェンジを男性よりもしやすいと思われているのか、セクハラ発言に近くてもまだそういう視点で見ている人も実際はいる。


今時の女性達は望んでいようがいまいが、結婚がゴールだとは多分思ってはいないと思う。


共稼ぎしないとやっていけないとか、やりたい仕事があれば家庭に収まろうとはしないものだ。


私は今の仕事は天職だとは思ってはいない。


取り敢えず合格したからここで働かせてもらっているだけだ。


いつかは···なんて思いながらまだここになんとなくいる。

転職する勇気も、転職できる自信もそれほどなく、踏ん切りもつかずに、目的や目標を持たずにズルズルと日々をやり過ごしている。


なのに、自分の人生は本当はこんなんじゃないと思う自分がいたりする。


自分はなんて傲慢で我が儘なのだろう。


時々、その事で頭が一杯になって、何もかもを放り出してどこか遠くに行ってしまいたくなる。



それで、今日は無断欠勤して、勢いで海辺の知らない町まで来てしまった。


さすがに連絡しないとヤバいよね。


社会人としてこれは不味い。


先日も無断欠勤を4日連続でした人が懲戒解雇処分になっていたっけ。


私はこれが初めての無断欠勤だけど、それでも不味かったかな···。


私の悩みは、会社のせいでは全くない。


自分の気持ちの問題なだけだ。


自分が決断や行動しないから悩むことになっているだけなのだ。


それでこんなエスケープをしているのが今現在。



次の日、出社すると冷やかな態度で接してくる人もいれば、何かあったのかと心配してくれる人が半々ぐらいだった。


「大変申し訳ありませんでした」


私は謝ったつもりだったのに、何ニヤニヤしてんのとか、悪いと思っていないよねとか言われてしまって戸惑った。


ばつが悪くてニヤニヤした顔をしてしまったのだろうか?


それとも、「大丈夫です」と心配してくれた人に笑顔で答えたからなのだろうか?



無断欠勤したのは1日だけだったけれど、私への社内の風当たりは突然強くなった。


あのエスケープの日から、私の社内での扱いは変わってしまった。


それは自業自得でしかない。



今まで自分のことを好意的に見てくれた人や、大目に見ていてくれていた人が、手のひらを返すことがあるのは本当だ。


そのきっかけを作ってしまったのは私自身だ。


ほんのちょっとエスケープしたら、前よりも事態が悪化してしまったのを痛感した。



その後も転職せずにその職場で働くことになったが、私は自分の『辞め時』を間違えたと何度も思い知らされることになった。


エスケープした後すぐに辞めるべきだったと。


人生が一瞬で下降する


負のスパイラルにハマっていく


それはほんのわずかなきっかけではじまってしまうものなのだ。


自分の認識の甘さ


自分の浅慮さ


それだけで幸不幸がくっきりと違ってしまうこともあるのだと、嫌と言うほど味わった。


私の場合はあのエスケープの日からそれがはじまった。


でも今は負のスパイラルからは脱して、結婚もして落ち着いた毎日を送れている。


人生への漠然とした不安から、道を間違えてしまったけれど、私はもう間違えない。


あの日のような突発的エスケープをしないでもいられるような大人に、今ではなんとかなったから。


悪意や故意ではなくても、自分のしてしまったことは自分でツケを払わないとならない。


自分の人生や自分の悩みにさえも責任を払うことこそが、自分を好転させる秘訣なのだと学んだ。


友人や仲間であっても、隙あらば私を追い落とそうとする人もいるものだ。


こちらをライバル視や敵視している人ならば尚更だ。


弱った時に牙を剥く、追い討ちをかける、そういうこともあるのだ。


悪意ある人に付け入る隙を与えないように気をつけることも、世知辛い世を渡り歩くには必要なのだと気がついた。


たった一瞬で暗転することもある綱渡りな人生だからこそ、自分自身でよく考えること


そして自分を追い詰め過ぎずに解決できるように知恵を持たないとならないものなのだと······


私、桃子50歳は思います!



(了)

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