美貌の使い方
自分の容姿がもっと美しければ、何もかも上手くいく筈なのに。
そのように思う人もいるのかもしれない。
けれど、人は見目の美しさばかりを見ているわけではない。
あの人、美人なのにもったいないなあというのは、性格がよろしくないとか、教育がなっていなくて知性や教養に欠けてしまっている時にそう思われてしまう。
顔立ちは美しくても無愛想、愛嬌がまるで無いとか、全然笑わないとかで不人気ということもある。
美人薄命と言われているように、絶世の美女でも不幸な人生を歩む人もいて、美人ならばすべて良しとは限らない。
他者の妬み嫉みで不当に傷つけられ、足を引っ張られるのも美人だったりする。
美容整形の技術がいくら進歩しても、心、内面の美までは作り出せない。
若さと美しさに固執すると不自然なアンチエイジングに死に物狂いになって、劣化を恐れ自分の加齢を受け入れることができなくなってしまう。
そうすると蝋人形のような、作り物みたいな人になってしまう。
美貌の維持に高額な費用をかけ、そのために必要な金を捻出しないとならなくなり、不正や犯罪に手を染める人もいたりする。
パトロン、客に身売りをしなければならないなんてこともあるわけだ。
もしこの人が美人になったら、今以上に嫌な性格になりそうだな······という人が職場にいた。
美人で性格の良い人のことを、「それは美人だから良い気分でいい人になれるのよ」などと言ってしまう人だった。
『どれどれ、ではひとつ、あの者に欲する美貌を授けよう』
どこからか現れた黒ずくめの神様、いや、これは悪魔かもしれない老人が魔法の杖のようなものを、彼女に向けて振った姿がなぜか見えた。
「!!!」
突然美女になるって、色々大変ではないのだろうか?
これまで性格が良いわけでも、頭が優れているわけでもなければ、知性や教養があるわけでもない彼女はどうするのだろうか。
ただ美しい姿を与えられて、整形疑惑以上に、別人レベルの外見に「あんた誰?」状態で、周囲に彼女であると認識してもらえていない。
いきなり昨日と違う顔と体型で出社して来たら、そりゃあ皆驚くわな。
彼女の以前の姿を知っている人は、急に評価や態度を変えることはまず無い。
「どうしたの?」
「今朝目が覚めたら、突然この顔になっていたの」
「······そうなんだ」
別人のような姿になっても、彼女の人気が上がったとか、モテるようになってはいなかった。
彼女はそれから高圧的な態度を取るようになり人から避けられるようになった。
傍若無人なところは前々からだったけれど、更に拍車をかけた。
美人なら何をしても許されるとか勘違いしているのかもしれない。
うん、なんか、私が想像した通り、やな人は美人になってもやな人だった。
「何でこんなに美人になったのにモテないの?」
彼女は不満を漏らした。
美人は美人だからモテるのではなくて、外見と内面のトータルで判断された結果モテるということを彼女はまだ気がついていないようだ。
イケメン上司を誘惑して拒絶されたという噂が流れて来た。
何でせっかく美人になったのに、独身者にアタックするのではなくて妻帯者にアタックするのか訳がわからない。
普通の恋愛じゃなく、まず不倫て?!
それが彼女の、美人になる前からの憧れだったんだろうか?
外見が変わっても、中身が全然変わっていないんだね。
美人は一日にして成らずっていうことだよね。
美人になりたい、美人だったらもっと自分は幸せになれるのにと、あれだけ言っていた割にはご機嫌斜め、不服そうだ。
元々イライラや不機嫌が顔に出るタイプだったけど、美人になっても性格の悪さが顔に出るものなんだね。
それで何割か美人が目減りしている。
不細工の時のまま何も変わらないと、不細工の時よりも性格が余計に悪く感じられてしまうからね。
美人だけに。
生活態度とか言葉使いとか、気をつけないとならないことのハードルが上がるものなんだね。
良くも悪くも目立つから。
良かった、私それぼど美人じゃなくて。
『ふおっふおっふおっ』
黒い神様(悪魔?)がまた現れた。
『どうじゃ、お前さんも、もうちと美人にしてやろうかの』
「いえ!それは遠慮しておきます」
『そうかね』
「はい。私はこのままで結構です」
『つまらんのぉ』
黒ずくめの老人はシュバッと消え去った。
あれから美人になった彼女は色々やらかして転落人生を爆走中。
元々目的のためなら手段を選ばないとか、善悪の判断が緩い人ではあったけれどね。
美貌の使い方を間違えたら、逆効果なんだよね。
人はやはり、内面を磨いて賢くならないとね。
単に美人になっただけでは、幸せにはならないものなのだ。
清く正しく美しくという言葉は、美しさは三番目なのはそういうことだ。
まず清くあれ、そしてなるべく正しくあれっていうのは、賢さを身につけないとなれないからね。
美よりももっと大切なものもあるのだ。
私がそう思ったその時、『ふおっふおっふおっ』という笑い声が遠くで聞こえたような気がした。
(了)




