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待ちぼうけ

私の彼氏と友人は遅刻魔である。

待ち合わせで時間通りに来たためしがない。待たされるのはいつも私の方だった。

「ごめん、ごめん」「ごめんねぇ」っていうのは口だけで、いつも遅れて来る。

「もうすぐつくから待ってて」メールが来たあとに「ごめん行こうと思ってたけど行けなくなっちゃった」で結局来ないなんてことも。

私に魅力がないから、何としてでも時間に遅れないように努力することもないのかな?


それほど好かれていない、大切に思われていないから、私を待たせて平気なのかなって思っていた。

だからきっともうじき別れるだろう、フラれるんだろうなって覚悟していた。


友人については、学校や職場でも遅刻するので、これはもう病気みたいなものだと理解した。


彼氏は学校や職場では遅刻はしていないみたいだから、私を都合のよい女扱い、いつ別れてもいい相手の部類に入っているのに、なぜか別れを切り出して来ない。


自分から別れを切り出してもいいのだけど、彼氏と友人は大学時代からの付き合いだから、惰性というか、恋愛というよりも友達の延長みたいでずるずる付き合ってしまっている。


彼氏か私に他に好きな相手ができるまではこのままなのかな······。


これってあまり良くない傾向だよなあ。


はあ、と溜め息をついた。


今日もその友人と待ち合わせだったが、30分たってもまだ来ない。この友人は1時間待っても来ないなんてのもざらにある。


「また、待ちぼうけなの?」

学生時代から通い、卒業してからも待ち合わせ場所にしてきた喫茶店のオーナーが声をかけて来た。

ここのミルフィーユは絶品で今日も食べてしまった。アップルパイもお気に入りだ。パイ生地を使ったスイーツが私の大好物。

「ええ、まあそうですね。でもその間、読書したり携帯見ているから時間は潰せます」

「学生時代の仲間や友人が、必ずしもいい奴とは限らないものだよ」

「···そうかもしれません」

「友人だから、仲間なんだからいいよねっていう甘えが強過ぎる人はダメな奴だよ」

いつも穏和なオーナーが手厳しい。五十に手が届くイケオジは学生時代から憧れている。

「待ち合わせ場所を変えてごらん。ここに来るのは待ち合わせでなく、君が純粋にひとりを楽しみたい時だけにするといいよ」

「······はい」


こうも待ちぼうけが多いと、放置されたひとりの時間をどう過ごすかというのを自分で色々工夫しはじめる。そしてひとりの時間を堪能できるようになってゆく。元々ひとりは苦ではない。


そういえば、遅刻魔の彼氏や友人はひとりが苦手だった。一人でご飯を食べにいくのも、一人で映画を観にゆくこともしない、できない。

自分はひとりが嫌な癖に、私にはひとりで待たせるなんて、失礼よね。


遅刻魔達から待ちぼうけを余儀なくされる間に、私は資格を取る勉強したり、小説投稿サイトに自作の小説を投稿するようになって、自分の世界が広がった。おまけに賞までいただいて、来年出版されることになった。


待ち合わせをする店を変えると、待ちぼうけをしている間に店の常連さんと話をするようになった。色々な職業の人の話が聞けて視野が広がった。その中の一人から交際を申し込まれた。

「君をこうやって一人で待たせるということは、彼氏は誰かに君を取られる心配もしていないってことだよ」

他の常連さんにも耳の痛いことを言われてしまった。


彼氏に私から別れを告げると「どうしてだよ!?」と責められたので、「待ちぼうけに飽きたから」と答えた。

「今まではそんなことなかったじゃないか!」

「とっくの昔から飽きていたし、いつも待たされて喜ぶ人なんかいないでしょ」

「他に男ができたのか?」

「あなたこそ、そうじゃないの?」

私が待ち合わせの場所を変えると、彼は他の女性を連れて、以前待ち合わせに使っていた店に来るようになったのを、オーナーから知らされていた。

「···知っていたのか」

私にばれなければいいの? そういう問題じゃないわよね。

「さよなら」

ようやく私は腐れ縁を断ち切った。


そしてもう一人、遅刻魔の友人とも待ち合わせ場所を変えてみた。

いつものように「ごめんね、あと30分くらい遅れる」というメールが来たけれど、駅前の駐車場に彼女がもう到着しているのが、その店から見えてしまった。彼女の車のナンバーなんてとっくに知っているから。

「あと10分で着く」という追加メールが来た。

やれやれ、もう着いているのにね? 私は肩をすくめた。


駐車場に着いてから約40分、彼女が駐車場から出て来るのを待ちながら窓から眺めていた。

その後「道が渋滞しているからもうちょっと遅れる」というメールがまた来た。


きっと彼女はこの手口をほぼいつも使っているのだと思う。今まで「ごめん、遅れる」というメールが一回で済んだことがないから。


それにいつも話したいことがあるからという誘いを寄越すのは彼女の方で、私が誘うことはほぼない。


「急に仕事の呼び出しがあってこれから行かなくちゃならないの。悪いけど今日は会えない、ごめんね」というメールを私は返した。


嘘には嘘を返してみた。


彼女がこの1時間近くを車中で何をしていたのかはわからない。メイクとか身支度に時間がかかっていたのか、それともネトゲとかをしていたのか、はたまた単なる私への嫌がらせとしてわざとする遅刻なのかはわからないけれど、とにかく時間の使い方が下手というか、おかしいことは確かだ。


そして平気で嘘をつく。


彼女からの返信は来ず、駐車場から車で出て行くのを店の窓から見送った。


私は彼女とは距離を置こうと思い、誘いも用事があるからというのを理由にして全部断った。彼女と二人きりではない時にはたまに行くこともあったが、その時もみんなを遅刻でだいぶ待たせていた。


私の本が出版され、彼氏と別れてから付き合った人からプロポーズされて婚約した。

かつての待ち合わせ場所に婚約者を連れて行くと、オーナーは喜んでくれた。


他の友人から聞いたのか、私が本を出版し婚約もしたと知ると、遅刻魔の友人は「そんなのずるい!なんであなたばっかりそうなるのよ、ずるすぎる!」となぜか非難してきた。


彼女の言うずるいってなんだろう?


私は自分の努力で作品を書き、正規の手段で出版にこぎつけた。コネすらもなかった。


婚約者も私が浮気して手に入れたわけでなく、二股したわけでもなく、ちゃんと元彼と別れてから交際をはじめるように筋を通した。まだ別れてもいないのに交際するなんて相手に失礼だから、私はそんなことはしないし、できない。


それのどこに問題があるのだろうか。


平気で他人に待ちぼうけばかりを食らわせる人はずるくないのだろうか?


しかも、しれっと嘘をついて相手や周囲を騙すのに。


共通の友人の話では、彼女は遅刻癖が原因で仕事をクビになったらしい。取引先との大事な立ち会いの出張にすらも遅刻したとか。度々上司から注意を受けても改善しなかったそうだ。せっかくコネで入った会社なのに、何をしているのだろう。


人との約束、時間を守れないのは社会人として致命的だ。たとえ友人や仲間、恋人であってもそうだ。常に時間を守れないなんて迷惑でしかないし、そんな人は相手にされなくなるだけだ。


信用や信頼は積み重ねだから、待ちぼうけばかりを食らわせる人は、信用や信頼をすり減らし、枯渇させてゆくだけよね。好意や愛情もそれに従って薄れてしまう。


相手の限界が来たら、二度と相手にしてもらえなくなるのにね。


他人やまわりに甘え過ぎる人は、自分自身に甘すぎるのよね。

遅刻魔で嘘つきなんて自分にダダ甘なのよ。


私は待ちぼうけの時間を有効に使って、自分の夢を叶えたし、理想の伴侶も得ることができた。

でももう、待ちぼうけばかりを食らわせる人とは関わりを持たないわ。


彼女は学生時代から遅刻魔だった。提出物も締切を守らなくて注意を受けていたわね。まわりから呆れられていたのに、直しもせず、学生時代の延長でずっと来てしまっているのよね。


アラサーになるまでに、学生気分が抜けないと、人生でつまづいてしまうこともあると思う。


甘やかされて育ってきた人は特にそうよね。


学生時代の友人や仲間は大切かもしれないけれど、学生時代からそのままでずっと何の成長もしない人同士でつるんでいるだけだと、人生も停滞してしまうこともあるわよね。


残念ながら終身雇用してもらえる職場は減っているけれど、定年するような歳なのにまだ学生時代の感覚でいるような、もの凄い甘ったれのオジサンやオバサン達は、社内ではトラブルメーカーや厄介者だったりするのよね。


成長のペースは人それぞれだとは思うけれど、自分が成長できないと、友人や仲間とも別れはやってくる。

恋人や伴侶もそうなのかもしれない。


私ももっと大人にならなくちゃ。


そして、あの喫茶店のオーナーのように、人生でつまづいている人達に素敵なアドバイスをできるような人になれたらいいな。



(了)

誤字脱字が頻発してすみません。老眼?! 気をつけます。

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