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でござる

南太平洋のとある島に幼馴染みに誘われてバカンスに行くことになった。

仕事やらプライベートやらで疲れまくったアラサーの心と体を癒やそうと、なるべく日本人がいない国、日本人の渡航者の少ない国を選んだ。

機内にもホテルにも市内にも今のところ日本人には出くわさない。それだけでいい気分だった。

だがビーチに行くと「安全第一」と日本語で書かれたのぼりがはためいていた。非日常に浸ろうとしていた私達のテンションは突然下がった。

太平洋戦争の残骸までそのままにされていて、海に向けられ錆び付いた大砲が放置されていた。

日本人だけではなくて、どの国の人の姿もなく、泳ぐためのビーチではなさそうだった。

港を散策していると、眼鏡をかけた灰色のシスター姿の女性が近寄って来て「中国人ですか?」と英語で聞かれた。

「いえ、日本人です」と答えると「ええええ?」と物凄く驚かれた。

ポリネシアンのように黒い肌ではなくて、東洋人が日焼けするとそうなる黒さの肌のシスターだった。シスター自身が中国系の人のようだ。久々に同胞と母国語で話せると期待していたのか、がっかりさせてしまったようだ。

幼馴染みは面長で大人っぽい顔立ちだが、私は丸顔童顔のボブヘア、ナチュラルメイクだったので、大人に見えなかったらしい。シスターからは私達が母子、姉妹に思われてしまっていた。

「姉妹?」

「いいえ」

そう答えるとシスターは解せないという表情で、何か言いたそうだったがもう何も言わなかった。

二人で他の国を旅した時も、私が日本人の中でも色白のせいか、なかなか日本人と信じてもらえなかった。東洋人はみな地黒だと思われているようだ。


温水がほぼ出ないシャワー、3分くらい使用すると冷水にすぐになってしまうので苦労した。

夜、火の玉ような大きさの流れ星に驚かされたが、星が見え過ぎで南十字星がどれなのかよくわからない。


昼、ホテルの前の潮の引いた海を歩くと、黒いまるでウ○コのようなナマコが沢山あって、現地の人が潮干狩りのように採っていた。


ホテルの受付嬢が気さくな人で、日本語を勉強中らしく、これはどういう意味かとか、色々質問された。彼女の持っていた英和辞典を興味津々で見せてもらった。


すると、英和の日本語訳の例文の言葉づかいが「ござる」「ござります」になっていて驚いた。

その6つ目の信号をわたるでござる的な訳で、いやいやいやこれ、いつの時代の訳ですか?!


まさか江戸時代?!


こんな言いまわしは現代日本人はしないという訳がてんこ盛りで、笑うどころか、ダメだろこれってなった。

意味はあっているにしても、このまま会話や文章として使用するには問題があるし、日本人にこのままの会話文として話かけたら、「?!」て、みな驚くよね。

私はシャープペンシルで、ござる文をですます文に直した。


今回の旅での最も大きなカルチャーショック、非日常な出来事はこの日本語訳の文だった。


帰国のため空港に到着すると、「日本人ですか?」と自家用車から身を乗り出して男性が声をかけてきた。

「はい」

「お仕事ですか?」

「いえ、観光です」

「観光?!」


在住日本人らしいその人は驚愕していた。

この国にバカンスでやって来て、帰りしなに初めて出会った日本人だった。

自分達しか日本人のいない状態を味わえて満足だった。



あれから二十年経ったが、あのござる文の辞書は改訂されたのか、たまに気になるのでござる。



(了)

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