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鏡よ鏡

玉緒は「醜女の日記」「脂肪の塊」を読んだという彼女にどう反応していいか迷った。

「どうだった?」

取り合えず感想を聞いてみることにした。

「······」

本人がこれだから、なんとも言いようが無い。慰めてもらえるとか、そんなこと無いよとか言って欲しいのだろうか。

「私、その二冊は読んだこと無いから、わからない」

何も答えない彼女の代わりに玉緒は答えた。


コンプレックスは誰にでもある。美人だって美人なりの悩みはあるものだし、美人なのに自分の顔が好きでは無いなんて言う人もいたりする。

それを誰もどうこうすることはできない。本人が受け入れて納得しない限り難しい。


彼女の悩みは不細工で太っているということらしいが、気にしないで明るくいた方が人には好かれると玉緒は思っている。

美人とは言いがたいけれど、清潔で感じ良くしていれば、全く問題は無いと玉緒も周囲も思っていた。


気に病むと、そこから抜け出すことができなくなってしまう。


玉緒自身は十人並み位の容貌で、ぽっちゃり体型だが、メイクやおしゃれを工夫すればいいかなという気でいるし、気に病むならダイエットを死ぬ気で頑張ればいいだけだというスタンスでいる。


それに、玉緒なんて昭和というよりも明治大正生まれっぽい名前もコンプレックスのうちだ。

でも、アラサーが近づいて来ると、自分の体型も顔立ちも名前も自分の個性なのだと受け入れることができるようになった。

この顔と体型でも好きだと言ってくれる人もいるし、家族や友人は、そもそも今の自分を受け入れてくれているわけだから、自分を受け入れてくれる人には感謝しかない。


彼女との付き合いだってそうだ。彼女の気にする容姿が嫌いとか、受け入れ難ければはじめから付き合ったりはしない。


今付き合っている、今一緒にいるということは受け入れられているということだ。


そこに胡座かいて、寄りかかり過ぎるのも良くないけれど。


計算高い人は、この人好きじゃないけど使えそうとか、手駒や道具として利用できそうな相手を側に置いておくこともあるのかもしれないけど、それでも利用価値ゼロではないということなんだから、そのように他人を利用するを嫌っていても、一定の価値は自分にあると思っていれば済むことだ。本当にそのような人が嫌ならば、自分の方から離れればいいだけだ。


彼女との付き合いは高校時代からで、もう十年以上の付き合いになる。

自分が成長すると、相手の粗が見えて来てしまうこともある。それが許容範囲ならばそれでも続いて行ける。

自分はもう十代ではないから、十代のような悩みからは抜け出している。

でも、彼女はそうではないのかもしれない。


私なんてとか、私は不細工だからとかは彼女が自分の口から言うことはないけど、自分のコンプレックスを手放そうとしていない気がしていた。


「美人じゃなければ幸せになれないわけではないし、太っている人でも結婚して幸せになっている人だって普通にいるし」

私は自分の自己肯定の理由を時々彼女に言うこともあった。それは彼女が聞きたがるからだ。

「でもあなたは私よりも太っていないし、私よりも顔は綺麗だし」

それが彼女のお決まりの返事だ。


でもだってという言い訳で、何一つ前進しない。

自分は慰めてもらうとか、都合の悪いものは私にすべて否定してもらえて当然という態度に辟易としてしまう。


小さな子どもではないのだから、自分の感情にも責任を払わないとならない。

自分で自分を宥めることをしようとしない人は重い。他人に丸投げで頼る人は特にそうだ。


他人と自分を比べてしまうとキリがない。自己肯定したいなら、他人と自分を比べることをやめない限りできない。

同じ年でも生まれた環境も待って生まれたものも違うのだから、それを比べてもしょうがないし、相手の真似をしたところで同じになるわけではない。


背が低いのが悩みなら、ヒールのある靴を履けば解決する。体重を減らすよりも一瞬で解決する。

悩んでイジイジしていても背は1cmも伸びない。

ヒールが高ければそれだけ背は伸びたも同然だ。


どう悩んでも変えられ無いものを悩まないようにするのも、無駄にエネルギーと時間を失わずに済む。


毒親を交換することはできないし、自分が長男長女なのに姉や兄を欲しがるような、物理的に無理なものをいくら悩んだところで解決はしない。

相手のことはどうすることもできない。


悩みに対して自分が受け止め方を変えるしかない。他人を異様に羨んで見ても自分の状況は何一つ変わることはない。


無い物ねだりの駄々っ子で、自分では何も行動しない、彼女はそうのような人だった。


自分が成長しないと悩みは増える。


不細工が悩みならば、詐欺メイクのスキルを身につける、プチ整形とか、最も気になる部分を直してしまえばいいわけだ。

生涯うじうじしてコンプレックスに振り回されるよりもずっと良いと思う。


どうしたら、自分のコンプレックスを前向きに捉えることができるようになるのかはその人次第だ。


コンプレックスを手放す第一歩を踏み出さないと、気がつかないうちに白雪姫の母のような性格に次第になってゆく気がする。


毒リンゴを食べさせようとするように、他者を毒づく癖がついてしまうし、他人の足を引っ張る人になってゆく。


彼女も既にそうなって来ている。


だから私は疎遠にしたいと思ってしまっている。

理不尽な悪意や泥舟を寄越してくる相手とは一緒にはいられなくなるのだから。


自分のコンプレックスにどう向き合うのかが、その人の真の人間性のように思う。

他人に持ち上げられないと維持できない自信なんて本当の自信ではないし。

もう30手前なんだから、嘘や言い訳だけで誤魔化せるような年齢ではない。


外見にコンプレックスがあるならば、内面を磨けば良いと思う。


そうしないと中身まで腐っていくから。


コンプレックスとの向き合い方を間違えると、本当に白雪姫の母のように他を殺すような存在になってしまう。


私は外見が嫌だからという理由で離れたりはしない。


コンプレックスに翻弄されて腐って歪み切った人になったから離れるのだ。


そこを見誤らないで欲しいのよね。


人は自分の見てくれで避けているわけではないのだから。


相手の性格や態度が嫌だからでしょ?


性格や態度が可愛くないとか、あまりにも意固地過ぎて手に負えないとかで、心が離れてゆくのでは。


イジイジとかうじうじも過ぎれば、話が通じない人になっていくよね。


自分の外見が悪いから人に評価されないとか人に好かれないのではなくて、コンプレックスに負けてしまい心根が穢れてしまったせいだと思うけれどね。


外見ばかりを言い訳にしていると、心が腐り、目が濁ってしまうわ。


鏡よ鏡、磨けよ自分の心を。


自分にこれまでと、今関わってくれている人達に感謝を。


誰かと今離れても、ぼっちになるわけではないし、例え一人になっても、それが一生続くわけではないのだから。


玉緒は彼女が成長できることを願いつつ、別れを選んだ。



(了)

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