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無音の人

初めてその人の撮る写真を見た時、言葉にできない違和感を覚えた。

無名の写真愛好家は、ブログにいくつもその違和感を与える写真を載せていた。

私はその違和感の正体を知りたいと思うようになっていた。

その人の知人が私の当時の知り合いだったため、ひょんなことで付き合いがはじまった。

彼女が癖の強い人だということが初期段階でわかった。けれどもう少しだけ関わってみることにした。


これが自分のいつもの悪い癖だと痛感した。

世の中には関わってはいけない、関わらならない方がいい人もいるのだ。

その判断をなるべく早目にする方がいいのは当然のことだ。それをわかっていたのに、長引かせたのは、自分の怖いもの見たさからだ。


彼女自身も訳アリの人だったが、訳アリとか人格に問題を抱えているか、問題がありそうな人ばかりを選んで付き合っていたサークルクラッシャーだった。

これまでも似たような人に出会ったことはあったが、今までで最も重症な人だった。


霊的なものに憑依されているのではないかとすら思える人だった。

私は虚言癖の人は空っぽだと思っている。これは経験則からだ。

彼女もまた、罪悪感なく平気で嘘をつく人だった。


写真にしろ、絵や文章にしろ人が作ったものはその人の内面が嫌でも出る、反映されるものだ。


彼女の撮る写真は、見る人の心を不安にさせ惑わせるような感覚があるように思えていた。見て癒されるとか和むという感じではまったくない。でもそれが違和感の正体ではない。

不思議な写真というのではなくてもっと適切な表現、腑に落ちる表現があるような気がしていた。


しばらくして、彼女の知り合いという人の相談事を聞く場に私も呼ばれて付き合わされた。

その相談者の娘さんについての相談だったのだが、娘さんの危険な状態を説明しているのに、なぜかその女性は嬉しそうに笑いながら話すので驚いた。

新たな虚言癖の人、出た~!

と思ったので、彼女の姿を見ずに声だけに耳を傾けるようにした。

彼女の話の世界が、霧の立ち込める空間が広がってゆくように思えた。

ああ、これは現実と乖離しているんだろうなと思いながら聞いていた。

時々チラッとその女性を見ると、やっぱり笑顔で話している。


そんなことが実際に起きていたら、笑えない筈だ。


やれやれ、まったく嘘つきが多いなと思っていたが、これ以上聞いているとその霧の立ち込める世界に絡めとられそうになりゾッとした。


そしてその霧の世界は無音だった。


何も音がしない世界、無音の空間がただあるだけ。


それに気がついて、体温まで冷えてゆくようだった。


無音、そうだ、無音だ。彼女の写真もまた無音なのだ。


彼女の撮る写真は、無音の世界だった。それが違和感の正体だとようやくわかった。


彼女の写真は木立や葉脈のような写真が多いけれど、みな無音なのだ。


「これは何を撮っているのですか?」

彼女は答えない。

都合が悪いから黙るのか、自分自身でもわかっていないから答えられないのかはわからないけれど。

悪意からわざと答えない、そういう面もある人だった。

無音の人には違和感のある沈黙がある。

自分自身と繋がっていないような、本人もアクセス不能のような沈黙だ。

だから、普通の人よりも違和感のある沈黙が多く、質問しても返答しない、返答できないことが顕著。


私は心理学者ではないから詳しいことはわからないけれど、善悪の判断がつかない人、虚言癖のサイコパスのような傾向の人は、みな無音の世界にその人自身がいるように思う。


「サイコパスの心の中は空っぽ」という霊能者枠の芸人が本人の動画で言っていたのを見たことがあったけれど、本当にそうなのかもしれない。


そして無音の人は無音の人とつるむ。

無音の人は無音の人と波長が合うのだろう。


私のように初期段階から違和感を抱く人は長くは一緒にはいられない。いたとしても不和が生じる。


だから一年ほどで関係は終わった。私から別れを切り出して縁を切った。


私は無音の人とは付き合えない。友情も愛情も、信頼すら育たないからだ。


空っぽの人は獰猛だ。人間よりも人の皮を被った···という者に似ている。

そのような人ほど血の通った人の振りをよく演じる。でも、振りでしかないからすぐに見破られる。

そして無音の人は、声を張り上げる。

声に力を不要に込めすぎるから、不自然さを与える。そして自分のパワーを無駄に誇示したがる。


自分のコントロールができないから空っぽなのか?


自分で自分がわからないから空っぽなんだろうか?


それは私にはわからない。


なぜなら、それは無音の人達自身が自分でつきとめて、自分の謎を解き明かすしかないのだから。


自分という迷宮に迷い込んで出られないのが、無音の人なのかもしれない。



(了)

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