傾国の美女は偽の美女
九尾の狐、古代中国など傾国の美女と呼ばれる女性に変化もしくは取り憑いて悪さをしてきた。日本では玉藻前などが有名でその妖狐は殺生石に封印されたとか。
····とされているけれど、現代ではマリリン・モンローやマドンナ、レディ·ガガに憑依している説もあったりする。
じゃあ、九尾の狐って、複数いて1匹ではないってこと?
その他の妖狐もみんなまとめて九尾の狐扱いということなの?
そういえば、少し前にその伝説の九尾の狐が封印されていた殺生石が割れたとかで騒いでなかった?
真偽のほどはわからないが、茉莉が調べるとそのようなことがネットに載っていた。
「ええ?! マリリン・モンローも? ガガ様まで?」
平成生まれの茉莉にもマリリン・モンローは、ファッションアイコンとして憧れの的だ。
自分はあんなナイスバディでは全くないけど、身長と性別、誕生日は同じだ。
あと苗羽という姓は、マリリン・モンローの本名ノーマと同じ読み、父なんか苗羽仁だから、まさにノーマ·ジーンだ。
それでなんとなくマリリンに親しみを感じてしまう。
なぜ茉莉が九尾の狐を調べているのかというと、それが昨夜夢に出て来たからだ。
しっかり数えてないけど、あれは確かに尾が9本ぐらいあった。
夢の中の狐は突然茉莉に言った。
「お前さん、美女になりたくないかえ」
それって私が美しくないって言っているのと同じよね!?
「別に」
ムッとしたからそう答えた。
美人とは言えないけど、中庸ぐらいではあると思う。お陰さまで今までブスとか罵りを受けたことはまだない。
彼氏と喧嘩して、美人なのにブスと吐き捨てるように別れ際に言われてしまった友人はいるけど。
でもそれで傷つく必要は全くないわよね。だって、そんなことを吐き捨てる方が下衆なんだから。そんな男ガキだし、別れて正解よ。
「お前、妲己のようになってみたくはないか?」
「なりたくない」
だって妖怪じゃん? 美女でも妖怪じゃあ仕方がない。
「なぜじゃ?」
「私はこのままがいいから」
「何!?」
狐は怯んだ。
「美女になって、思うままに世を動かしたくはないのか?男はみな自分の奴隷、操り人形のようにできるのだぞ」
茉莉には、そんな権力や支配に魅力を感じたことが全くない。
「それって物凄く古い価値観よね? 何が面白いの? 全く興味ないよ」
それに、魔力で美女になったってちっとも嬉しくない。そんなの整形美女と同じよね。
「なっ、なんと···!」
「それに、傾国の美女なんて、国民に大迷惑でしょ!人様に迷惑になるのがわかっているのに、そんなのやるわけないじゃない」
白い狐は、わなわなと怒りで震えている。
「迷惑になるからこそ面白いのじゃ!」
「はあ?!なにそれ? 子どもか!」
九尾の狐の尾は、犬猫がしょぼんとした時みたいに尾を股の中に下げていた。扇を広げたみたいな尾の勢いは既になくなっている。
「····っ、こ、後悔したってもう知らぬぞ」
「後悔なんて絶対しないから!」
狐はドロンと消えた。
ああ、まるでアニメみたいな退場の仕方だなと茉莉が思ったところで目が覚めた。
夢の中で狐に言ったことは茉莉の本心だ。
美人じゃなくても楽しく幸せになれることを茉莉はわかっていたからだ。
それに美女でないと幸せになれないなんて、化石のような価値観よね?
いつまでも化石のような価値観に縛られている方が不幸になってしまうわ。
それよりも、中庸ぐらいの女性をスカウトして美女に仕立てようとするなんて、歴史上の美女とか伝説の傾国の美女って、元はそれほど美女ではなかったということなの?
話を盛っている部分はあるとしても、九尾の狐にスカウトされた人がなっていたとしたら、なんか萎えるなあ。
それじゃあ、詐欺みたいじゃない?
結婚詐欺で捕まる犯人もそれほど美女ではない気がするのだけど···。
私は普通の人でいい。加工してまで美女にはなりたくはないな。
美の感覚は人によって違うし、平安時代の美女と現代の美女って同じではないよね?
江戸時代の浮世絵、美人画の美女って、う~んて思うのは私だけかな?
西洋画の裸婦も今見たら、ドーンという肉感的な人、くびれ無しみたいな体型だったりするし。
美しさは時代によって微妙に違うように思う。
だから歴史上の傾国の美女だって、今見たらそうでもなかったりしないのかな?
(了)